新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

通訳とは

2014-02-01 08:10:59 | コラム
驚き呆れた総理の通訳者の所業:

安倍総理のダボス会議での通訳を担当した者が総理が言われなかったことを勝手に?追加したと報じられているのには、驚く前に呆れてしまった。考えられない過ちである。私にはこれまでの報道ではその同時通訳者の性別は解らない。

これは通訳者のあり得ない大失態であると断じる。私は職業として通訳をやっておられる方々の「職務ないしは服務規程」を詳細に知らないが、通訳する際に発言者が言っていないことを言うなどはあり得ないと、経験的に理解している。そう言う根拠は「普通には実際に講演なりプリゼンテーションをする前に、発言する人と入念に原稿を検討して如何に表現するかを通訳者に徹底するものである」と認識しているからだ。

あの場合は一国の総理の発言であれば、事前の打ち合わせがあって当然であるから、総理の発言の意図を承知していたはずである。一介の職業通訳者か否かは知らぬが、総理の心中を勝手に推察して補足するなどは、絶対にあってはならない越権行為であると思っている。まさか、その通訳者がそう言う認識か感覚を持っていなかったことなどもあり得ないと思っている。だから驚いたのだ。

私自身が1988年に通訳を職業とする有能な女性2人と約2週間、日本国内を回った経験がある。私はそのW社の訪日団体の一員だったので「通訳とは」を学ぶ絶好の機会となった。彼女らは当日の訪問先の企業との会談(と会話)で当面するだろう業種の特徴と専門語とを、事前に徹底的に叩き込むべく最短でも1時間をかけていた。

更に彼女らの英語能力はこの私が評価するほど立派なもので、報酬に十二分に見合っていたものだった。彼女らは絶対にダボスでのような越権行為はしなかった。但し、日本的な「有無相通ず」的な発言は時と場合によってはアメリカ側を「?」とさせることもあったが。時には私に「これをそのまま英語にして良いのですか」と問い掛けたほど過激な発言があった場合もあったが、そのまま訳して貰った。

また、私はW社の社長が東京で投資家に対して会社の説明を行った際に、通訳を担当した同時通訳のプロと事前に発言内容を約1時間かけて打ち合わせしているのを見ていた。故に、会場では全くおかしな通訳はなくお客様に十分にご理解願えたと思っている。そう言う根拠は、その後の質疑応答の内容からも察知出来て解ったのだが。

私は長い間、私自身の職責を「通訳も出来る当事者」と定義付けて、アメリカ側の発言の内容の意図、背景、理由等を(私の判断で)必要に応じて補足してきた。これ即ち、会社の利益を守るべき担当者としての仕事であるから、許されるものと認識していた。また、日本の取引先にも納得して貰っていることも確認してあった。

だが、私の「通訳も出来る当事者」の概念は今回の総理の通訳を担当した者には適用出来ないし、また当て嵌めてはなるまい。産経は同時通訳者の育成を云々していたが、これも少し見当違いであると思う。私は総理の周辺に「総理のものの考え方、国を思う情熱、政治信念と信条等を十分に理解した通訳も出来る側近を配置すべき時が来た」と認識すべきだと言いたい。だからこそ、先ほど通訳者の性別を問うたのである。

ここで私の理想を言えば、かかる事態を未然に防ぐためには、「我が国の英語教育の改革であり、その目指すところは自分が思うことを自由に外国語で表現出来るように持っていくことと、何処かの時点で外国との文化の違いを教えるまでに水準を高めよ」という主張でもあるのだ。また「外国語能力がそこまでの次元に達している当事者を、総理の周辺に置くこと」と言いたいのだ。

私はその人とその人となり、言葉の使い方、癖等を熟知し、当日の顔色というかご機嫌ないしは気分等までを、言われないでも直ちに読み切れる者が通訳を務めるのが最上だと信じている。換言すれば、重大な場面での通訳を一見の者に任せるべきではないのだ、譬えその通訳を職業とする者の練達熟練度が高くても。

私的なことを申し上げれば、私はリタイヤー後には如何に簡単な通訳の仕事でも、良く存じ上げていない方はお引き受けしたくないし、ましてや私にとって経済的なメリットがない場合はお断りすることもあると(「あの人はお金に執着する」と批判されようとも)敢えて言ってきた。それは「通訳することにはそれだけの大きな責任を伴うのであり、単なるペラペラであってはならない」という意味である。


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