新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

「関税とは」の考察

2025-01-17 10:10:18 | コラム
関税をあらためて考えて見た:

定義:
トランプ次期大統領が「tariffとは私の辞書の中で最も美しい言葉」と言われたのを聞いて、実は違和感があった。と言うのは、20年以上も携わってきた貿易という仕事の分野で、「関税」を“tariff“"と言ったのを殆ど聞いたことがなかったから。常識としては「関税」は”customs duty“であり、“tariff”とは通常は「関税率表」か「料金表」の意味に使われ、「関税をも意味することがある」程度の理解だったからだ。

細かい点を挙げれば、customs dutyは貨物の通関の時点で納入するもので、import dutyと言うと「輸入された商品にかけられる税」となっていたが、私には違いは区別できなかった。

つい最近、ある場所で偶然に「関税とは何かと知っていますか」と試す機会があったのだ。ある大手企業のOBの方が「関税とは輸入者が負担するものだとは、トランプ氏による騒ぎが起きるまでは知らなかった。そういう分野の会社ではなかったので」と正直に告白されて、正直に言って驚いた。また、何処かのサイトには「そういう性質だとは案外に知られていないようだ」ともあった。

そこで、「関税」がどのように定義されているのかを、勉強の為にもなると検索してみた。DIMEというサイトには次のように解りやすく記載されていた。

関税とは:
国内産業を保護して市場経済の混乱を防止する役割がある。海外からの安価な製品について、税金を課さずに輸入してしまうと、自国の製品が売れなくなり、国内産業が衰退してしまう。そこで、税金を課すことにより輸入品の値段を上げ、国内製品と価格の均衡を図ろうとするのが関税の主な目的だ。また、関税は国家の財源確保という側面も有するが、財政規模の大きい国にとっては重要性が低いとされる。

関税は、基本的に輸入しようとする者が輸入国に対して支払うことになるが、貿易条件などによっては輸出者が支払う場合もある。また、輸出関税のある国では、輸出品についても、輸出者が輸出元の国に対して関税の支払い義務を負う。

以上が正統派の関税の意味であるが、トランプ次期大統領がtariffという言葉を使っておられる関税を課す目的は「国内産業乃至は市場の保護には重きを置かれてはいない」ようだ。要するに“deal“(駆け引きの材料)にしようという狙いがあるようだとしか読めない。

トランプ方式への疑問:
これまでに何度も繰り返して提起してきたことで、トランプ氏は前任期の頃から「tariffとはアメリカ向けに輸出してくる業者または国が負担する性質であり、IRSの収入になる」と信じておられるのだと思わせる言動を続けていること。輸入者が負担して国内市場向けの価格に転嫁すれば、インフレを加速させる材料になりかねないのだ。

当方の疑問点は「この点を確実に認識できているのか」なのだ。そう疑いたくなる材料は何度も指摘してあったので、ここには再録しないでも良いと思う。また、興味深い点がある。それはAIに尋ねても、断定を避けることしか言わないことだ。

私の単純素朴な疑問は「アメリカの市場または街を歩いてみれば、何処に行っても非耐久消費財のアパレルや雑貨類の商品には中国製品が溢れている事が解る。その状態の中で60%もの関税を賦課することがdealは兎も角、果たして得策なのか」という点と、対中国の政策は解るとしても、「我が国を始めとする同盟国との輸出入政策をどうされる予定か」という点が疑問だ。

国内産業の保護:
クリントン政権下の1990年代後半に中国・インドネシア・韓国等からの高品質/低価格の印刷用紙の攻勢に耐えかねた国内のメーカーが政府に請願して、100~200%の高率の関税をかけて閉め出したことがあった。ところが、ITC化とインターネットの進歩と発展に圧され保護を願い出た製紙会社が、続々とChapter 11による保護を請願する羽目となった笑えない先例があった。

此処での教訓は「国内産業の保護という目的と美名がある場合」でも、関税をかける場合には「世界と国内の市場の状勢とその急速な変化を的確に見通しておく必要があるのではないか」という事だった。アメリカの鉄鋼業界でも中国や他の新興勢力に圧倒されて、USSも世界市場では中小メーカーに押し下げられているのではないか。


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