新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

1月15日 その2 「就職」と「就社」の違い

2025-01-15 13:38:20 | コラム
日本とアメリカにおける企業社会の文化の相違点:

先ほどの「大学生が会社を見る目」の関連で、あらためて日本とアメリカの企業社会において大学の新卒者を採用する仕組みの違いについて考えてみようと思う。そこには明らかな「就職」と「就社」の違いがあるのだから。

既に何度も取り上げて指摘してきたことで、アメリカ式では「製造業界では4年制の大学の新卒者を定期採用はしない」である。では、新卒者はどうするのかと言えば「そのまま中小の小売業界、または大手製造会社の地方の工場などに現地採用として職を得ていくか、銀行/証券や会計事務所、コンサルティング会社に採用されていくのだ。

この場合に、そこで実力を養って大手企業からの勧誘乃至は引き抜きを待つか、そのままその職に定着していくか、年俸等の条件が良い先に転職していく事もある。この括りには、州立大学等の四大の出身者が多いと理解していて良いだろう。彼等の実務経験で習得した事務処理能力などは、大手に転じても大いに活用できる機会がある。現に我が事業部にも内勤の専門職者がいた。

また、ビジネススクールでは受験資格を得る為のGMATを受ける必要があり、今では4年間の実務経験が求められている。知り合いのハーバードのMBAは4年制の有名私立大学を卒業した後で、プライスウオーターハウスやバンクオブアメリカ等で経験を積んで貯金をして、車を売ってからその資金で入学した。親元は富豪であっても、大学院は自費で行けと突き放すのがメリカ流らしい。

そこで2年間勉強した後で、希望する会社で希望するのか、目指してきた職種を狙って就職していくのだ。例えば「鉄鋼会社の自動車用鋼板製造部門の営業職」や「紙パルプメーカーの製紙部門で衛生用紙の管理部の職」という具合である。私の場合は、ウエアーハウザーの紙パルプ部門の高級板紙製造部で日本市場担当の営業職に推薦され、インタビューを受けて就職したのであり、ウエアーハウザーに就社した訳ではない。

別な見方をすれば、事業部として日本市場に改めて進出し、地盤を築いていこうとの副社長の狙いで、専任者を求めていたのである。そこで、推薦された私を事業部長が言わば面接試験をして採用したので「必要に応じて即戦力になる経験者を中途採用した」典型的な形になった。

この場合は言わば決め打ちだったが、通常は会社の社内に先ず希望者を募って、これに応募してきた者たちを事業部長が面接して採用するのだ。だが、我が社では先ず社内に募集広告を出して、希望者を募っていた。該当者が出てこなかった場合には、社外から募集するという順番になっている。確認するが、会社として募集しているのではない。事業部として専門職者を求めているのだ。故に、日本式に事業部内で他の仕事に移るとか、他の事業部に異動させられることは、極めて希な例外を除いてはあり得ない。

見方を変えれば、事業部内には「全権を持つ副社長兼事業部長の下に、横一列で営業、総務、経理等の担当者が並んでいる」という形。各担当者は経歴も職歴も年齢もバラバラで、日本式の地位の上下はない。課長のような職務を担う者もいない。個人別に異なる仕事を担当するのだから、地位に上下をつけられないのだ。

さらに、専門職として採用された者たち(多くはMBAではない)の地位(rank)が上がっては行かない。MBAではない者が副社長兼事業部長に就任したという例を滅多に見られないのだ。だが、専門職の部員たちは年俸に見合うかそれ以上に仕事で成果を挙げていけば、何歳になっても会社にいられるし、毎年のように昇給していく仕組みになっている。言うまでもないが定年制なんて無いのだから。

一方の我が国でも、近年は職というか雇用の移動が一般的に普及してきたが、未だ未だ伝統的な新卒者を募集して、試験をして就社させて自社の方式で育てていく方式は基本的に変わっていないと理解している。最近は「job型雇用」などと称して、アメリカ式の即戦力となり得る実務経験者を専門職として採用しようかという話を聞くが、私はこの形が日本式の「就社」の世界に根付くのはまだ先の話だと思う。

日本式に自社で新卒を採用して自社の文化で社員を育て、多くの部署に配置して会社全般の仕事を経験させて、言わばgeneralistのspecialistを養成していこうという仕来りというか習慣を、一朝一夕に変えていくのは容易ではあるまい。それだけではなく、アメリカ式雇用形態では専門職はリタイアするまでその地位(rank)に止まり、我が国のように功績があって部長や本部長に昇進していくとはないのだ。

この辺りが、これまでに何度か解説した「スピードトラックに乗って昇進していく有名私立大学出身のMBAやPh.D.たちが支配しているのがアメリカの企業」の実態の説明になるのである。即ち、上記に述べたように、アメリカ式では予め先が見えている、文字通りの「就職」であり、日本のように実力に年功も加わって昇進していける世界である「就社」とは違うのであるという根拠だ。



コメントを投稿