~1989年・夏・北海道・拓真館~
いよいよ心待ちにしていた美瑛の丘。
朝、宿泊していた白金温泉から美瑛駅へ移動し、
荷物を預けて、隣の美馬牛駅へ。
そこから、ほぼ1日かけてのんびりと丘を散歩するつもりでした。
このときルートの助けになったのは美瑛駅に置いてあった、
手作り印刷の地図です。
だいたい10数キロの行程でしょうか?
地図のおかげで、丘に続く道はすぐにわかり、
パッチワークの丘を、歩く、歩く・・・。
ジャガイモの葉の色、アスパラガスの葉の色、
オレンジに燃えているのは小麦でしょうか。
丘なので、自分が丘の低い所にいるときは、
目の前にグーッと小麦畑がせまり圧倒され、
丘の上にいるときはパッチワークの畑と木と雲と空と十勝連峰。
その景色をまわりに人もいない中で味わえるのです。
途中、関西の男子学生と少し雑談しながら歩いたりしましたが、
ほとんど人に出会うこともなく、拓真館に到着しました。
拓真館というのは、写真家・故前田真三さんのギャラリーです。
前田さんは美瑛の丘の風景を
ここまで有名にした方と言っても過言ではありません。
このギャラリーは入館無料で、
このころはまだ観光地化も進んでいなかったので、
旅人の休憩所の役割も果たしていたようでした。
何年か後には観光バスが入る駐車場も近くにできたようですが。
自分はこの半年前にYH(ユースホステル)で会った女性に、
拓真館のことを教えてもらい、
いつか絶対行くぞ~、と思っており、
期待に違わない佇まい、写真の素敵さ、敷居の低さに、感動しました。
芳名帳のようなものに名前と感想を残してきたら、
後に拓真館のカレンダーの案内が送られてくるようになり、
以来、カレンダーが我が家の壁を彩っております。
拓真館へはこの後も何度か訪れました。
拓真館を出ると、あとは美瑛駅に向かってひたすら歩きました。
道といってもほとんどはダートの農道だったりするので、
すれ違う人も車もほとんどありません。
昼ごはんは朝売店で買ったお菓子だったかな。
一人旅だとご飯も適当になりまして、
自分がよく食べていたのはかっぱえびせんでございました。
それを片手に歩き食い、
拓真館で見た写真に影響されてにわかカメラマンになり、
鼻歌を歌っても誰に聞かれることもなく、
丘の稜線をてくてく・・・。
自分がどのあたりを歩いているのかもよくわからなかったのですが、
次第に市街地に近づいているのがわかり、
なんだか散歩の終わりが物悲しく感じられ・・・。
その夜は民宿「ほおずき」というところに泊まりました。
いわゆる「ユース民宿」と巷で呼ばれるタイプの民宿です。
当時美瑛にYHはなく、ほおずきは人気の宿でした。
夜、宿泊者と外に出て星空を眺めたことは忘れられません。
多分、人工衛星と思われる小さなゆっくりとした光が見えたこと、
もう、見ることはないでしょう・・・。
そして、駅に置いてあった手作り地図は、
ほおずきのスタッフが作っていた模様(確かではありません)。
この日は、文章には表せないくらい充実した一日でした。~つづく~