杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

姫路菓子博と灘菊酒造見学

2008-05-08 11:20:39 | 地酒

 京都の参禅中、5月4日の昼間だけ中座して、日本酒ジャーナリスト松崎晴雄さんに誘われ、姫路で開催中の全国菓子博覧会と酒蔵見学に行ってきました。松崎さんは日本屈指の利き酒名人として知られる人ですが、フリーになるまでは西武百貨店の食品バイヤーとして活躍し、甘いものにも目のない人。4年に1度開かれるという全国菓子博覧会には、今でも毎回欠かさず参加しているそうです。

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  私、松崎さんに教えてもらうまで、お菓子の博覧会があること、知りませんでした。各地のお菓子屋さんで構成される菓子工業組合や地方自治体が共同開催するイベントで、始まりは古く、明治44年第1回帝国菓子飴大品評会にさかのぼり、およそ100年、これまで全国各地で24回開催されているそうです。全国新酒鑑評会と同じぐらい歴史があるんですね。

  

  

  お酒の鑑評会の一般公開は、今でも酒造家の技術研鑽の場という性格を保ち、出品リストをもらって出品酒を黙々と試飲する地味~な会。菓子博覧会も昔は菓子職人の成果発表や情報交換の場だったそうですが、大手菓子メーカーがお金をかけて展示ブースや体験・試食コーナーなどを出展するようになり、一般の人も楽しめるお祭りイベントの様相を呈してきたそうです。25回目の今年は、菓子博開催1世紀の節目にあたります。姫路城完成400年目&世界遺産登録15周年という記念の年にあたる姫路市が名乗りを上げ、姫路城をかこむシロトピア公園、県立歴史博物館、市立美術館を会場に、4月18日から5月11日までの3週間、開催されています。

 

  

  好天に恵まれた当日は、ディズニーランド並みの大混雑。ゲームやお菓子無料配布のある企業パビリオンや、有名パティシエの実演とスイーツ試食ができるカフェなどは90分~180分待ち状態です。気温はゆうに30度を超え、係員があちこちで熱中症に注意するよう叫んでいます。

 

 「ここを観なくちゃ菓子博に来た意味がないから」と松崎さんが推薦したのが、日本縦断お菓子めぐり館。全国46都道府県の銘菓がブロック別・団体別にズラリ展示されています。試食や購入はできない、ただの展示館ですが、日本中の銘菓がいっぺんに観られるなんて、おそらくここだけでしょう。食べられないのに、なぜかワクワクしてしまいました。お菓子が、その土地の特産品や食の伝統を体現したものだからなんですね。地酒を使ったまんじゅうやゼリーもたくさんありました。

 

  ブースのデザインや陳列の工夫などにも、お国柄が感じられ、菓子業者に団結力があるのか、統一されたネームプレートですっきり展示してある県や、一つの県でも伝統銘菓と新興スイーツでハッキリ分けてあるところがあったり(組合組織が対立してるのかなぁと想像しちゃいます)、とても面白かった!

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  静岡県は富士山の写真をドドーンと飾り、お茶を使ったお菓子をズラリ並べるなど、いかにも、といった展示。初めて見る県内当地銘菓もたくさんあって勉強になりました。

 京都は飴、せんべい、干菓子、生菓子、半生菓子などカテゴリー別に組合組織があって、品よく展示してあり、その隣りの大阪は、あられや駄菓子のような庶民のおやつが雑多に並んで、これも大阪らしさ全開。圧巻は長崎で、真四角のカステラがズラ~リ。見た目はほとんど同じです。これを堂々と飾って見せるというのもすごいなぁと思いました。カステラ以外にも銘菓があるはずですが、長崎=カステラという地域イメージをしっかり植えつける潔い戦略なんですね。

 松崎さんは、さすが元百貨店のバイヤーだけに、〇〇県といえばやっぱり△△屋の◎◎、と、ほとんどの地域のご当地銘菓をご存知で、その博学ぶりにビックリ。日本でこれほどの甘辛両刀遣いはいないんじゃないかと確信しました…。ご当人、「お菓子でこれだけのイベントがうてるなら、全国地酒博覧会もできるんじゃないかなぁ」とさかんに呻っていました。

 

 

  

  その後、炎天下のもと、1時間並んで、水花鳥風月を表現した和風工芸菓子を展示する「和の匠館」へ。菓子職人の美意識や繊細な手さばきを堪能し、会場を後にして、姫路の蔵元・灘菊酒造に向かいました。

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  明治43年創業の灘菊は、いっとき1万石の生産高を誇った大手メーカーでしたが、4年前、東京農大醸造学科を卒業した蔵元三女が杜氏となり、社員蔵人とともに小ロット生産に切り替え、蔵の施設のほとんどをレストランや売店などの観光施設にリニューアルしました。蔵元の川石雅也社長は、姫路駅地下で酒場、市街地でフランス料理の店と居酒屋、蔵の中に居酒屋と団体ツアー用レストランを造るなど、外食店経営にも力を入れています。

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  社長はかつて、阪神電車で地酒列車を走らせたことがあり、梅田のホームで鏡割りをして大いにわかせたアイディアマン。元釜場を多目的ギャラリーにしたり、仕込み蔵を酒造道具をセンスよくディスプレイしたレストランホールにするなど、酒蔵文化をうまく生かしたリユースぶりには目を見張ります。

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  日本酒の売り上げが伸び悩む時代、巨大な酒造設備をもてあますメーカーが多い中、灘菊の選択は、酒造業を継続させるためのひとつの道なのでしょう。今は、年間1400台の観光バスを受け入れ、その8割が食事目的の県外観光客。「必ずしも酒蔵見学が主目的ではない方にも、商品を試飲してもらうことで、貴重なモニタリングができるんです」と社長は前向きに語ります。

 

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  今はワンフロアに収まってしまった仕込み現場を案内しながら、社長は「こんなに小仕込みになっちゃって、私から見るとママゴトをやっとるようなもんです」と自嘲しますが、私がふだん静岡の蔵でフツ~に見る規模。杜氏になった三女・光佐さんが、自分でやれる範囲でやりたいと父を説得したそうです。

 

  

  休暇中の光佐さんにはお会いできませんでしたが、東京の松崎さんの日本酒市民講座に母娘で通うなど、真摯に酒造に取り組んでいるようです。営業力や宣伝力のある大手が、小仕込みで品質を上げていったら、静岡もうかうかしていられないだろうと実感します。