杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

コピーライターと地酒ライターのはざまで

2008-05-12 10:49:16 | 吟醸王国しずおか

2008051016080000  10日(土)は、静岡県商工会連合会の『つまんでごろーじ』プロジェクトでご一緒した食プロデューサー・石神修さんが企画された“新茶と創作お茶料理を楽しむ会”に参加しました。新茶は、島田市の大井川茶園さんの提供。同園は石神さんのプロデュースで、100g袋入りの新茶を、宛名シート付き透明パックに入れて“新茶郵便”として新販売。宛名を書いて200円切手を貼れば郵便扱いで届くそうです。

2008051015060000  創作料理では、富士宮のさの萬さん提供の銘柄豚に粉末茶と野菜マリネがトッピングされたポークソテーが美味でした!

 

 

 なお、『つまんでごろーじ』は、ネットでの紹介・取り扱いが始まりました。父の日やお中元におススメです。静岡伊勢丹のギフトカタログにも大々的に紹介される予定ですので、追ってご紹介します!

 

 

 複数の立場の異なる人間が集まって、ひとつの仕事(事業)に取り組むとき、今さら、でもありませんが、根っこの部分でしっかり認識を共有することが大事です。事前に綿密に打合せし、コンセプトの意思統一を図り、いざ現場では、それぞれのプロがスキルを十分発揮できるようにする。複雑な事業に優れた指揮官やプロデューサーが必要なのも、そのためだと思います。

 

 

 現在、制作中の地酒ドキュメンタリー『吟醸王国しずおか』では、昨年来、シツコイと思われるぐらい何度も関係者に集まってもらって意見を聞き、「内容に関しては真弓さんに一任する」との結論をもらい、次は、制作上のパートナーとなるカメラマンの成岡正之さんのキャリアや映像作りに対するビジョンを、本に書くつもりで真剣に聞き取り、原稿にもまとめ、お互いの考えや性格をある程度認識しあった上で撮影に入りました。ですから、撮影現場では成岡さんと意見が衝突するようなことはほとんどありません。酒蔵という被写体が、職人肌の成岡さんの琴線に触れることはわかっていたので、私は現場で、成岡さんが気持ちよく撮影できるよう環境整備をするぐらい。ほとんど気を遣うことなく、毎回楽しく撮影しています。これも、期限やノルマに縛られない、クリエーターの自主企画だから、かもしれませんが。

 

 

 それにひきかえ、日ごろのライター業務では、なんと縛りが多いことか。とくに私のような個人のライターが請ける仕事は、時間も予算もないコマゴマしたやっつけ仕事が多いので、他のスタッフと内容を吟味するとか方向性を決めるといった根っこづくりをほとんどさせてもらえず、いきなり、この部分だけ、何文字以内のコピーを、とポンと要求される。それでも、それなりのコピーを作るのがプロなんだと自分を奮い立たせてきましたが、最近、とくに映画づくりを始めてからは、そういうやり方についていけなくなっていることを痛く感じます。

 

 

 今、その意味で対照的な2つの仕事が同時進行しています。一つはある酒蔵の広報物。静岡の酒を中間的な立場で応援している身としては、本業がコピーライターといえども、特定の酒蔵の広告づくりに関わるには、それなりの心構えが必要で、私はこれまで酒蔵に対しては、広告の仕事を極力避けてきました。

 そもそも静岡には、広告にカネをかける酒蔵が少ないため、酒蔵をスポンサーに持つ広告会社も限られ、スタッフは貴重なクライアントを逃すまいと、万全の体制で臨んでいます。そこに、これまでまったくつきあいのない、しかも酒にうるさそうなライターが、クライアント指名で入り込んでくるんですから、広告会社側もやりにくいでしょう。すでに出来上がっていたスケジュールの中に、ポンと、この部分だけお願いします、とはめ込まれた私も、非常にやりにくい。他人が作ったキャッチコピーにつける本文だけとか、酒の中身を知っていればもう少し違うビジュアルを想定するだろうと思われるミスマッチな紙面に、コピーだけはめこむとか、まさに、根っこがないまま表面だけ繕わされる状態です。

 本文についても、私がふだん、自由に書く雑誌や新聞の署名記事とは違い、当たり前ですが「うちの酒が目立つように、売れるように書いてもらわないと困る」とハッキリ言われます。ついつい、いつもの調子で、静岡の酒全体や地域の魅力をクドクド書いてしまい、注意され、こんなとき、広告会社やクライアントの広報担当者に、自分をうまく指揮してくれるプロデューサーがいてくれたらなぁと思います。

 

 

 GW明けに、つきあいのある広告会社を通して、某製茶会社の通販誌の取材を受けました。巻頭に、静岡で頑張る女性を紹介するコーナーがあり、バックナンバーを見ると、お茶とは関係のない職種の女性がたくさん登場しています。

 私の話も、地酒映画づくりがメインで、せっかくならと、担当のディレクター(ライター)とカメラマンが、撮影現場の酒蔵まで来てくれました。2人は、明日締め切りという限られた時間の中、誌面づくりに直接関係のない蔵元の話にもよくつきあい、このブログに紹介した映画制作のネタもしっかり熟読してくれました。製茶会社のオーナーは、お茶の売り上げには何のメリットもないこの誌面を、とても気に入ってくれたそうです。

 こういう誌面づくりは、作り手の根っこの太さが感じられます。その根っこを、クライアントと制作者がちゃんと共有しているから、わずか2日でもすんなり運ぶのだと思います。

 

 

 

  

 

  もう一つ進行中の、NPOの10周年記念誌制作の仕事は、もともとNPOという団体自体が、広告に費用をかけるような性格ではないので、広報担当者もいなければ、特定の広告会社とのつきあいもなく、代表と理事とスタッフが熱心に会議や打合せを行っています。そのつど呼び出されるのは確かに大変ですが、記念誌発行という事業の根っこづくりにはとても役立っています。事業に関わる人間が、共通の、確かな根っこをしっかり持っていれば、いざ制作に入ったとき、作業はスムーズに進む。このNPOの場合、代表が、広報物に対してもしっかりした考えとリーダーシップを持っているため、みんながすんなりまとまるようです。時間がないからといって根っこが無いまま行き当たりバッタリに作業を始めても、結局、途中で何度も軌道修正をしなければならず、ロスが多くなるんですね。

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 週末、たまたま、この2つの仕事の核の作業が重なり、自分の気持ちの持ちようにも驚くほどギャップを感じたのでした。もちろん、それがコピーに現れてしまってはプロとして失格…。10日の「新茶&お茶創作料理を楽しむ会」に続き、11日は昼間、サッカーファンの母に付き合って日本平スタジアムのJリーグ清水×鹿島戦に行き、気分を刷新しようと思いましたが、企画プロデューサーや、プロスポーツ監督の戦略や戦術が、スタッフ・選手にいかに浸透しているかで、その事業の成否が左右されることを、改めて感じました。

 

 

 清水も鹿島も、サポーターの応援はホントにすごい。とくにアウェイの鹿島サポーターの少数派ならではの団結力は、見とれてしまうほどでした。敵地で競争相手が多いところほど、心あるサポーターが一丸になって応援するって気持ち、静岡の酒のサポーターとしてよ~く解ります。 

 地元消費率2割未満の静岡酒。地元なのにアウェイみたいな環境で勝負し続ける酒蔵の中で、広告費をかけてサポーターの底辺拡大に努める企業は得がたい存在です。それを思うと、気持ちをグンと引き締めなければ…!