杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

静岡県地酒まつりの燗酒ブース

2008-10-04 11:52:00 | 地酒

Img_4028  昨日(3日)は浜松グランドホテルで静岡県地酒まつり2008(静岡県酒造組合主催)が開催されました。県地酒まつりは毎年10月1日(日本酒の日)に、県の東部・中部・西部持ち回りで開催していますが、西部開催の今年、1日はあいにくグランドホテルの宴会場が、浜松を代表する某メーカーに占領されて借りられず、3日にずれ込みました。そのメーカーの社長さんがちゃっかり来賓席に座っているんですから苦笑いするしかありません。いずれにしても、コンベンション施設の不足は、西部地区に限らず、静岡県全体の大きな課題のようです。

 

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 私は5年前から、10月1日の県地酒まつりでは燗酒ブースのサポートに入っています。この季節の地酒イベントですから、燗酒を呑みたいというお客さんの声もあります。蔵元側も、いっときの吟醸冷酒一辺倒の流れから、さまざまなタイプの酒をお客さんの声に合わせて売り出す戦略に切り替える蔵が増え、地酒まつり実行委員会でも燗酒ブースを作ろうという話が持ち上がりました。

 

 

 その頃、蓋付錫チロリ「かんすけ」を売出し中のメーカー・サンシンが、商品デモにもなるので協力させてほしいと名乗りを上げたため、「じゃあ、燗酒ブースを設けて、コンパニオンの女性を付ければいいね」なんて話になったため、「ちょっと待って、燗付けって微妙な温度の違いで味が全然変わるでしょう、コンパニオン(を蔑視するつもりはありませんが)には無理だと思う。任せるなら、せめて蔵元が必ず付くとか、きき酒師の資格を持っている助っ人スタッフを頼むぐらい、慎重にやるべき」と待ったをかけた私。結局、助っ人を探す時間がなく、言い出しっぺの私がブースをお手伝いすることになりました。

 

 

 

Img_4018  最初の年は、正直に言って、私自身、燗酒の適正温度を熟知しているわけではなく、各銘柄ごとにいろんな温度を試しながらの手探り状態。錫チロリをお湯に付けるだけの「かんすけ」は、熱伝導率がよく短時間で良燗が付くのですが、何種類もの銘柄を同時に付け、お客さんにあれこれ指定されると、湯につけっぱなしにしたのが高温になったり、「燗酒なら何でもいい」というお客さんがグラスにいろんな銘柄をいっしょくたに注がせたりして、思うようなお燗番役を果たせませんでした。

 

 翌年からは、蔵元から社員が何人か助っ人で付くようになり、少し余裕が出来たので、お出しする燗酒はすべて、ぬる燗(40℃前後)、熱燗(50℃前後)で試飲し、冷やかしにくる蔵元にも感想を聞くなどして官能を鍛えました。今ほど注目されていなかった白隠正宗の純米酒が「私的にはダントツに燗酒向き」と思い、小夜衣の森本社長に薦めたところ、「こいつはアタリ」と太鼓判を押してくれて、森本さんは今ではすっかり「白隠の宣伝マン」を自認されるほど。満寿一の大吟醸が想像を超えた燗上がりをしたり、富士錦の純米酒が手ごろな燗酒として最適だとわかったり、この数年、燗酒ブースでいろんな“発見”を楽しむことができました。

 

 

 今年は燗酒ブースに18種類の銘柄が集まりました。静岡の酒18種の燗酒をいっぺんに試飲できる場なんて、他にはありません。会場内では、『吟醸王国しずおか』のカメラマン成岡さんに撮影を任せっきり。「私一人、こんな楽しいこと独占していいのかなぁ」と後ろめたさを感じつつ、蔵元やお客さんとの燗酒談義を楽しみました。

 

 

 

 錫チロリに温度計がささった「かんすけ」を怪訝そうに見て、「熱燗しか呑んだことがないんだが」という年配の男性客に、萩錦の萩原郁子さんが「お好みですから、そんなにこだわることはありませんよ。お酒ってその日の体調とか気分で感じ方が変わるものですから」とやんわり応えています。

 私はそれに、「今日は、お酒が主役の宴会ですから、お酒にとって一番いい温度体でご紹介しようと造り手自身が頑張っているんですよ」と付け加えました。自分で話しながら、「そうだ、このイベントの主役はお酒なんだ」って意識をいっそう深めました。

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 昨日の燗酒ブースに出品された銘柄と、私が適正だと思った温度体をご紹介しておきます。出品銘柄は、蔵元が「今、一番燗に向いている、または、燗で試すと面白い酒」と自己判断したものです。あくまでも私の個人的な感想ですから、ぜひご自分でいろいろ試してみてくださいね。

 

 

 

白隠正宗(沼津市) 山廃純米  42~43℃

富士正(富士宮市) 辛口げんこつ  55℃

高砂(富士宮市) 楽・山廃本醸造 50℃

白糸(富士宮市) 富士山・特別本醸造 50℃

富士錦(芝川町) 純米酒 43~45℃

正雪(由比町) 辛口純米・誉富士 50℃

臥龍梅(静岡市清水区) 純米吟醸備前雄町 40℃

萩錦(静岡市駿河区) 蔵出し原酒生貯 42~43℃

満寿一(静岡市葵区) 純米吟醸 40℃

初亀(岡部町) 純米酒 40℃

磯自慢(焼津市) 特別本醸造 45℃

志太泉(藤枝市) 純米酒 40℃

喜久醉(藤枝市) 特別純米 38~40℃

若竹(島田市) 純米吟醸長い木の橋 50℃

萩の蔵(掛川市) 本醸造 50℃

開運(掛川市) 純米吟醸いいら 40℃

千寿(磐田市) 本醸造白拍子 50℃

出世城(浜松市) 本醸造 45℃