杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

神に祝福された美田

2008-10-13 17:25:00 | 吟醸王国しずおか

 この10年あまり、10月の体育の日前後は、松下米の稲刈りの時期と重なるので、毎日のようにテレビの天気予報とにらめっこです。

 カラッとした秋空にとんと恵まれないこの1週間あまり、松下米の稲刈り撮影日がなかなか決まらず、不安な時間を過ごしました。喜久醉の青島孝さんは、この時期、週末には必ず全国どこかの酒のイベントに呼ばれて藤枝を留守にします。カメラマンの成岡正之さんも、この時期、祭りやイベントや、とくに今年は選挙がらみの取材などでスケジュールがいっぱい。

 でも、やっぱり主役は稲です。稲刈りという一年の集大成となる日は、一年間、土と稲を世話をした松下さん以外、決められません。

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 さんざん調整に手間取った挙句、14日に決行することにしたのですが、一昨日の天気予報で、晴天は13~14日との予報。大事をとって急きょ13日に前倒しすることに。ところが昨日深夜の天気予報では「明日13日は曇りのち雨で降水確率60%」。暗澹たる思いで床につき、まんじりともせず、早朝目が醒めたら、窓が明るく、とりあえず雨は降っておらず。

 8時過ぎに松下圃場に着いたら、すでに成岡さんがカメラをスタンバイし、その傍らで松下さんがあれこれ指示を出していました。

 青島さんも間もなくやってきて、全員そろって「気が気じゃなくて、早く目が醒めちゃった」と笑い合いました。

 

 

 

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 そのうちに雲が切れ、蒼空が一面に広がり、やわらかな陽光が、薄い黄緑色に抜けた山田錦の穂を黄金色に照らしました。…まるで自然のライティングのようです。「うわぁ、これがホントの黄金色だぁ」と成岡さんも感嘆しきり。

 

 

 

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 9月初旬に、開花の瞬間をドンピシャで撮ったときと同じように、何かこの撮影には神様がついているんじゃないかと、首をひねるしかありません。青島さんと2人、「彼こそ天下無敵の晴れ男」と松下さんを畏怖の眼で見直しました。

 

 

 

 

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 山田錦(松下米)は今回で13回目の稲刈り。「田んぼを俯瞰で見たとき、何かひっかかるものが見つかる年もあるけど、今年は、一点の曇りもない出来。こんなに順調な年はめったにない」と松下さんは、雲を蹴散らした蒼空のような晴れ晴れとした顔です。

 

 

 立秋を過ぎてから気温が下がり、最も重要な出穂の時期に心配するほどの残暑もなかった今年は、晩生種の米にとって当たり年。「酒米はどこも出来がよく、数量も獲れただろう」という松下さんの言葉に、青島さんはどことなく緊張した面持ち。松下さんのゴールテープは、青島さんのスタートラインなんですから、無理もありません。

 

 

 

 

 神様が松下さんの努力を称えて黄金色に染め上げてくれたような美田を眺め、「刈るのがもったいなくてねぇ」「もうちょっと眺めていたいんだよねぇ」と溜息をつく2人。

 

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 2人の作業を俯瞰で撮る成岡さんのそばで、「バックに住宅や電線がなければ絵になるんだけどなぁ」と溜息をつく私に、「絵にかいたような自然豊かな田舎とか棚田なんかよりも、こういう、どこにでもある郊外の住宅地の中で、人の生活によりそっているような田んぼで、こんな素晴らしいコメが育っていることに価値があるんじゃない?」と成岡さん。

 …気がつけば、近所のお年寄りや向かいの家の若い奥さんが子どもを連れて稲刈りの様子を熱心に見学していました。 

 

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 彼らのモノづくりの連携は、たんに、原料生産者と加工業者というワクにおさまらず、稲作の国の暮らしに古来からつたわる人と人、人と自然の原始的なつながりに見えてきます。それが、映像に乗り移ってくれれば…と願いながら、半日たっぷり、カメラを回し続けました。