杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ドンクのパン職人仁瓶さん

2010-07-19 17:50:44 | 吟醸王国しずおか

 昨日(18日)は安東米店さんが事務局を務める『第7回カミアカリドリーム勉強会』に参加しました。

 今回のメインゲストは㈱ドンク生産本部顧問で、パン職人の世界では知らない人はいないというビッグネーム・仁瓶利夫さん。コメの勉強会でパンの話とは、なかなか粋な趣向です! 

 

 

 ドンクは、西武静岡店にあった頃から私にとってあこがれパンの象徴で、松坂屋に移転してからも、パン・ド・ミー(食パン)や、うぐいす豆が入った「アリコベール」は、あれば必ず買って帰るお気に入りの味です。

 仁瓶さんは西武静岡店に勤務されていたこともあり、知らず知らずに仁瓶さんが焼いたパンを食べていたんですね。そんな、静岡市民にとっても馴染み深い方が、フランスパImgp2748 ン「バゲット」に対する愛情と、職人らしい筋の通ったモノづくり精神を語ってくれました。

 

 細長くて表面がパリッとしたお馴染みのフランスパン「バゲット」。Baguetteとは見た目の通り「杖」「棒」という意味です。

 ドンクの前身である「藤井パン」は明治38年(1905)に神戸で開業し、戦後の昭和22年(1947)に3代目藤井幸男氏が事業を継承して「ドンク」と改名。日本で本格的なフランスパンを焼こうと、フランス国立製粉学校のカルヴェル教授に師事して職人をパリに派遣したり、パリからカルヴェル教授の教え子を派遣してもらったり、東京国際見本市でフランスパンのブースを担当し、その後、フランスから取り寄せた機材と職人をすべて引き取って三宮にフランスパン専門工場を作る等、日本におけるフランスパンのフロントランナーとなりました。

 

 日本ではパンといえば、いろいろな味付けやアレンジが効いた菓子パンや総菜パンが人気ですが、日本人が、毎日食べるなら、五目ごはんや味付けごはんじゃなくて、シンプルな白いごはんだというように、フランス人にとってもフランスパンは毎日欠かせない主食。シンプルな材料でいかに美味しいパンを作るかが、職人にとって大切なテーマなのかもしれません。

 

Imgp2751 「若い頃は、目の前のパン生地ではなく、レシピばかりに目が行っていたが、パン屋の仕事とは生地に向き合うこと。完成品をイメージし、仕込みの方法を逆算するのが職人の仕事です」と仁瓶さん。・・・米でも酒でも同じですね。

 

 

 フランスパンは、今でも年配の日本人には、「表面が硬くて、皮がひび割れてポロポロ落ちたりして食べにくい」という声もありますが、仁瓶さんによると、焼き立てのパンは、釜の中の高温から、室温に急激に冷やされるとひび割れするのが当然で、フランスでは皮くずが落ちないパンは?とされるそうです。また、いいパンを見極めるポイントとしては、表面を指で押すといい香りがするかどうか。バゲットを買ったらぜひ試してみようと思います。

 

 「バゲットが登場する以前は、パンといえば丸くて大きい形状で、一家の主人が切り分け、家族に与える。パン=分かち合うものの象徴でした」としんみり語る仁瓶さImgp2754ん。今は、パン屋さんで売られる商品のほとんどがワンポーションで、個々に好きなものを食べるから、分けあう、分かち合うなんて感覚を持つことはないでしょうね。

 

 

 最後に仁瓶さんは「パンは神から与えられ、パン屋という職業は悪魔が与えた」と自嘲します。過酷なパン職人の労働を謳った言葉のようですが、「酒」も、そのまま当てはまるかも(苦笑)。

 

 パン職人と酒の杜氏は、微生物という目に見えない自然界の力と対峙するわけで、レシピ(人間の理屈)ではなく生地に向き合えという仁瓶さんの言葉は、麹造りに向き合う杜氏さんの言葉にも似て、謙虚で誠実なお人柄が伝わってきます。

 

 カミアカリやバゲットの食べ比べについては、吟醸王国しずおか映像製作委員会の清水さんが詳しくレポートしてくれましたので、こちらもご参照ください。

 

 

 

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 さて、今回は、カミアカリの試食会と、仁瓶さんの講演&バゲット試食会の合間に、カミアカリ開発者である松下明弘さんの口添えで、『吟醸王国しずおか』 パイロット版の試写をやっていただきました。

 

 ただでさえ内容盛りだくさんのプログラムで、あまり関係のない映像試写をわざわざ無理にプログラムに入れるのは主催者に迷惑では(松下さんの依頼なら安東米店さんも断れないでしょうし…)と最初は尻込みしたのですが、結局、試食の準備時間に観てもらえれば、プログラム進行上、問題ないとのことで、試写と募金の呼びかけをさせていただきました。

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 カミアカリや仁瓶さんを目的に来られた方には「?」だったかもしれませんが、募金ブースには休憩時間に声をかけてくださる方もいて、地酒と直接接点のない方に知っていただく貴重な機会になりました。本当にありがとうございました!

 仁瓶さんも「実は日本酒に目がない」そうで、試飲用に持ってきた喜久醉松下米を嬉しそうに飲んでくださいました。

 

 

 今回の勉強会の主要企画メンバーである松下明弘さん安東米店長坂潔暁さん、長坂さんと一緒にカミアカリツーリズムを企画した坂野真帆さん(そふと研究室社長)、長坂さんの盟友で仁瓶さんのツーリング仲間だという内田一也さん創作コーヒー工房くれあーる)とは、偶然同世代で、それぞれ別のきっかけで知り合い、かれこれ15年ぐらいのつきあい。み~んな一匹狼で頑張ってきました。私が彼らと同列に数えてもらえるかどうかは「?」かもしれませんが、とにかく今回はどこか同窓会気分で楽しめました。

 

 30~40代で積み上げてきたものを、それぞれのカタチにして、さらに次の世代につなげていけたらいいですね。1947年生まれの仁瓶さんが、我々にその生き方を示してくれたように。