杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『レフェリー~知られざるサッカーの舞台裏』を観て

2010-07-22 11:57:04 | 映画

 連日厳しい暑さが続いています。昨日(21日)、終日外出し、夜、帰宅したら、部屋の温度計が36℃! あわててエアコンを付けても今朝まで32℃以下に下がらず、同時に扇風機を回しても生温かい風しか来ない…。家の中でも熱中症になるとニュースでやってましたが、ヒトゴトじゃありませんね。

 

 

 21日は県東京事務所で広報誌の取材。川勝知事と、前大分県知事の平松守彦氏の対談に立ち会いました。氏が提唱した一村一品運動は、今やアジア、アフリカ、ラテンアメリカ等世界の開発途上国に浸透し、“ローカルにしてグローバル”な展開を見せています。

 中国では「中国に最も貢献した外国人十傑」の一人に、IOCのサマランチ会長らと並んで選ばれた平松氏。昨日は川勝知事をナビゲーターに、そんな氏の貴重なお話を直接聞けるという“ぜいたく”を味わいました。終了後は知事から「記事にまとめるのが大変でしょう」と憐れんでいただきましたが、内容が素晴らしいと執筆もスムーズに進むと思います。

 9月末発行予定の県広報誌『ふじのくに』に掲載予定ですので、乞うご期待ください!

 

 

 そうそう、県東京事務所は平河町にある都道府県会館13階にあるのですが、事務所の看板は川勝知事の指示で「ふじのくに大使館」と銘打たれ、入口ディスプレイには地酒がズラリ。お隣の兵庫県東京事務所(ディスプレイはImgp2755 灘の銘酒)に張り合っているのか!?と思いきや、県が育成した酒米「誉富士」を期間限定でPRをしているそうです。

 

 

 対談で、平松氏が大分麦焼酎の火付け役だったという話があったので、川勝知事も負けじと「わが静岡も酒どころで、磯自慢というのはサミットの乾杯酒に選ばれて…」とディスプレイを指さして自慢しようとしたんですが、残念ながら磯自慢は誉富士を使っていないので、ディスプレイされておらず。なんとも皮肉な“ねじれ現象”です。

…まぁ、他県から見れば、自慢できるものがいくつもあって、静岡県うらやましいぞ~という話かもしれませんが。

 

 

 さて、目下、『吟醸王国しずおか』本編の構成台本の練り直しに日々苦慮している私。ここ数カ月、毎週のように開いたパイロット版(20分)試写会を通して、本編を何分にするのか、改めて熟考しています。ドキュメンタリーでは90分ぐらいが限度だろうと漠然と想定していたのですが、ディープな地酒ファンは「もっとしっかり観たい、2時間でも少ない」と言ってくれるし、地酒ビギナーからは「1時間でも長い」という反応も。・・・映画制作を企画した当初も、目下斗瓶会員でプロモーション方法を検討する時も、多くの意見を民主的に聞きたいと思ったところで、地酒経験や思い入れの度合いが違う人間が集まれば、意見もバラバラ。最後は自分が腹をくくるしかありません。こういうのも“生みの苦しみ”の一つなんだろうと思います。

 

 

 昨日21日は勉強のつもりで、県東京事務所へ行く前に、渋谷で『レフェリー~知られざるサッカーの舞台裏』というドキュメンタリー映画を観ました。取材前の限られた時間で観られる上映作品を検索して、たまたまヒットした作品だったんですが、これが、前のめりでワクワク見入ってしまうほど面白かった!

 

 

 舞台は2008年のUEFA(欧州選手権)。ヨーロッパのベストレフェリーに選出され、UEFA決勝でも主審を務めると思われたハワード・ウェブ(イングランド)が、グループリーグのポーランド戦で下したPKのジャッジを巡り、ポーランド首相からも「殺したい」と言われるほどの物議をかもし、結局、決勝スペインvsドイツ戦の主審はロベルト・ロゼッティ(イタリア)に。その決勝に至るまでの、レフェリーたちの心の機微や、ミスジャッジによって家族にも脅迫が及ぶというレフェリーたちの置かれた知られざる“過酷な環境”を、カメラはしっかりととらえます。

 

 

 冒頭いきなり、試合中のレフェリー同士のマイクの生のやりとりから始まります。主審と副審が、イエローカードを出すかどうかギリギリまで確認しあう生々しい声、ゴールの後、スタジアムのオーロラビジョンで再生されたオフサイドシーンにうろたえる副審、「画面を見るな」と叱咤する主審・・・レフェリーとはつねに“鉄板”の存在であると自認し、選手や監督にそれを示さなければならない存在だけに、その人間臭いやりとりが新鮮でもありナットク感あり。

 

 

 審判の誤審問題は、ワールドカップでも再三取り上げられ、ビデオ判定やハイテク装置の導入も検討されているそうですが、この映像の中でUEFA会長のミシェル・プラティニが、「私はレフェリーの仕事に一切介入しない」「選手は試合中ハイテク機器を使わない。生身の体で勝負している。レフェリーも同じ。選手がミスをするように、レフェリーもミスをする。それがサッカーだ」とレフェリーたちを慰労するシーンが、サッカーというボール一つを道具としたスポーツの有り様を象徴していると思いました。

 

 

 ハワード・ウェブに代わってUEFA決勝の主審を務めたロベルト・ロゼッティは、先月のワールドカップのメキシコvsアルゼンチン戦で誤審をし、自ら引退表明をしたとか。ハワード・ウェブはご存知の通り、決勝スペインvsオランダ戦の主審を務め、イエローカードを乱発していましたが、大会を通じて高評価でした。両者の“運命の逆転”ぶりもシナリオに書かれたかのようにドラマチックです。それにしてもW杯決勝で、日本の西村雄一さんがハワード・ウェブらイングランド審判チームの四審を務めたというのは、今更ながら凄いことなんですね。

 

 

 作品自体はUEFA公認作品で、「よくUEFAがそこまで撮らせたな」「公認撮影ゆえツッコミが足りないな」と思えるシーンもありました。それでも、レフェリーという縁の下の存在にスポットを当て、ジャッジを下すプロフェショナルの矜持を、しっかりとしたカメラワークで捉えた映像・・・77分という時間があっという間に感じられました。

 カメラワークがしっかりした映像は、つなぎ方次第で時間の長さをカバーできるんじゃないか、と思います。もちろん被写体そのものに魅力があっての話ですが、この点、『吟醸王国しずおか』は成岡さんに撮ってもらって本当に大正解です!

 

 

 帰宅し、深夜、BSのワールドカップの再放送を観ていたら、ブラジルvsチリ戦で毅然と笛を吹くハワード・ウェブの姿が。この映画をワールドカップが始まる前に観ていたら、たぶん視点の違う観戦が楽しめたと思います。決勝戦の再放送、要チェックです!