22日(水)は渋谷の試飲会の後、六本木3丁目に4月にオープンした齋藤章雄さんのお店『しち十二候』へ行ってきました。場所は地下鉄南北線「六本木1丁目」駅から近いんですが、住宅街にあってお上りさんの私には迷路・・・でした。しかもこのあたりって坂が多くて・・・着いたとたん「生ビールください」でした(苦笑)。
ライターを生業にしているくせに日本語を知らなくて(恥)、まずは『しち十二候』ってどんな意味?って聞いてしまいました。
七十二候は植物の成長や動物の行動、気象の変化などによって季節の移ろいを表した農事暦のこと。家に帰って広辞苑を開いたら「旧暦で5日を1候とし、3候を1気とし、6候(2気)を1ヶ月とし、24気すなわち1年間を七十二分して時候の変化を表す。“季候”の語は四季七十二候から出た。旧暦の持っている太陽暦の要素である」とありました。
「しちじゅうにこう」と読むのですが、漢字でそのまま書いたら「ななじゅうにこう」と誤読する人もいるので、「七」だけ「しち」と平仮名にしたそうです。
そんな店名を付けただけあって、メニューも5日を目処に旬の献立を入れ替えて、季節感をたっぷり味わえる内容。食養料理(マクロビオティック)コースもあります。HPを拝見したら、食材の仕入れ先も吟味されていて、齋藤さんがこれまで培ってきた食のネットワークの豊かさ・確かさをとくと実感できます。
この皮つき野菜の炊き合わせなんて、料理自体はシンプルだと思いますが、野菜本来の味がしっかりわかる。それでいて素人料理みたいな土っぽさがなくて、“炊き方が違う”って実感できます。
齋藤さん(右)が切り分けているのはHPで紹介されていた絶品カツオ。カツオは(大好物なんで)正直言って焼津や静岡でとびきりの美味しさを知っていたつもりですが、この日いただいたのは、トロンとまろやかでつややかで、初カツオと戻りカツオのいいとこどりをミックスさせたような味わい。「今が一番美味しいと思います」と太鼓判を押してくれました。
こちらは福光屋さんの赤酢を使った酢飯に炊いた貝と静岡わさびを乗せて有明のりで巻いていただいたんですが、中でも有明のりの美味しさといったら・・・!のりを褒めるなんて失礼かなと思ったんですが、カウンターで相席になった男性も「のりが美味いな~」と唸っていたのでホッとしました(笑)。
失礼ついでに感動したのはお味噌汁。出汁の風味と味噌のまろやかさが見事に調和されていました。さぞかし有名な高級味噌かしらと思ったら、「静岡市の諸国みそさんでブレンドしてもらってるんですよ」と意外なお返事。諸国みそのように吟味した味噌を店頭で量り売りしている店は東京でもあまりないのだそう。しかも「どこの味噌でもいいんじゃなくて、店主が全国の味噌をしっかり吟味して並べ、こちらの求めに応じてブレンドしてくれる」店が貴重なんだそうです。
・・・諸国みそがある静岡市の茶町一帯は、茶問屋が集積していて、目利きのブレンダーさんが育つエリア。そんな立地条件が奏功しているのかも、と思いました。
日本酒は以前、どんなラインナップにしようか相談を受けたことがあって「料理屋さんで扱うとしたら、純米系を中心に、メニューにはわかれば米の品種も書いたほうがいい」「銘柄はこだわり始めたらキリがないから、齋藤さんがご縁のあった酒、思い入れのある酒でいいと思う」・・・なんて適当なことを答えてしまいましたが、忠実に守ってくださったみたいで、「縁がある蔵の酒をそろえ出したら、とんでもない数になっちゃった」と笑っておられました。
とにかく日本酒のメニューが大変充実しております。静岡では磯自慢、喜久醉、開運、正雪が揃っています。
店内は、カウンター10席、2名個室、4名個室、4名座敷、8名座敷、28席テーブルと、いろんな用途に使えるレイアウトになっていて、内装もいたってシンプル。
28席の宴会テーブルでは料理教室や酒の会もできて、すでに某蔵
元さんが試飲会を開かれたとか。・・・いいですよね~こんなシチュエーションで「しずおか地酒研究会六本木出張サロン」なんて出来たら!
京都「柿傳」で修業し、ホテルセンチュリー静岡、グランドハイアット東京、コンラッド東京の各料理長を歴任された齋藤さん。今まで厨房の奥でお仕事をされていたので、カウンターごしに直接、料理やお酒のお話ができるのは、なんだかとっても新鮮でした!
何より、72にも分類される日本の季節の食の豊かさ、それら食材の持ち味を高いレベルで引き出す職人技、そして料理との相乗効果を高める日本酒の真髄を、都会のど真ん中の隠れ家的な場所で満喫できるわけです。魚は港町で、野菜は田園で、酒は酒蔵でいただくのが理想なんでしょうけど、ここ六本木で地産地消に匹敵する味を再現させる力というのは、たんに腕がいいとか、財力のある料理人にはないスキルのような気がします。齋藤さんが長年、注力してきた地域活性化のための食文化・日本料理文化の普及活動が結実したのだと思います。
そんな齋藤さんのお店にかけた思い、店内の雰囲気、メニュー等はHPでお確かめください。また現在発売中の『グルメジャーナル』『東京カレンダー』に紹介されていますので、ぜひチェックを。