昨日(19日)は、満寿一酒造の蔵元杜氏・増井浩二さんの葬儀に参列しました。1年半も食道がんと闘病されていたことを初めて知りました。『喜久醉』の青島孝さんが、弔辞で何度も「傳次郎兄イ」と呼びかけていたのも心に残りました。同級生はじめ多くの方が涙の弔辞を読まれましたが、最後に10歳のご長男が「10年だけだったけど、ありがとう」と父の遺影にしっかり語りかけていた姿に全部持っていかれた感じ・・・。立派な子育てをされていたんだなあとしみじみ思いました。
自分が死ぬ時のことなんて、自分の年齢ではまだ想像したことがないけど、同い年の増井さんの「覚悟」のほどを知り、多くの方に見送られる姿に接し、死に方とはイコール生き方なのだと痛切に感じました。順番でいけば親兄弟を送ってしまったら、自分を送ってくれる身内はゼロに等しいわけで、仕事仲間といってもフリーランサーの身では、本当に自分なんかの末後の世話をしてくれる人が果たしているんだろうか、友人たちだって同じように年を取るのだし、最初からあてにするのもおかしいし・・・なんて考えあぐねると、生きているうちに自分で何とか死後の身の処理を考えておかなければならないんですよね・・・。
それはさておき、友人の方の弔辞の「本当の死とは、人の記憶からなくなること」という言葉が胸に残り、増井さんとの関わりを改めて思い起こしました。
2003年2月の静岡新聞にこちらの記事を書いたことは、前回紹介し
ましたが、当時の取材時に撮ったのがこちらの写真。自分の同志となってくれる若い蔵人たちに囲まれ、本当に充実した表情の増井さん(オレンジのジャケット)が印象的です。「今期(2002BY)の満寿一はいい酒になるだろうなあ」と実感していたら、ものの見事に、その1ヶ月後の静岡県清酒鑑評会で県知事賞を受賞されました。
しずおか地酒研究会では、静岡県清酒鑑評会の一般公開日に来静される鑑評会審査員の松崎晴雄さんをお招きして、夜、地酒サロンを定例開催しています。
2003年3月25日の地酒サロンでは、駅南銀座の『湧登』に県知事賞受賞の増井(傳次郎)浩二さんはじめ、傳一郎こと松尾さん(國香)、傳三郎さんこと青島さん(喜久醉)他、森本さん(小夜衣)、杉井さん(杉錦)、日比野さん(若竹)や酒販店さんも多く集まってくれました。
増井さんが「うちの蔵人たちも呼んでいい?」とおっしゃってくれて、取材で顔なじみだった蔵人さんにも来ていただくことが出来ました。地酒サロンに蔵元が社員を何人も連れて来
てくれたのは、この時が最初だったかもしれません。
このときのサロンの様子が、地酒研会員向けのニュースレターに残っていますので、再掲させていただきます。増井さん、あのときのサロンでいただいた受賞酒、(蔵人さんたちと一緒に呑めて)本当に幸せでした! 呑んで幸せになれるお酒を造ってくれて、本当にありがとうございました。
第11回しずおか地酒サロン「平成15年静岡県清酒鑑評会を振り返る」 (2003年3月25日19時~ 湧登にて)
■講師・松崎晴雄さん
私は昔から静岡酒のファンで、3年前(2001年)から審査員なども務めさせていただくようになりました。今日の一般公開で感じたのは、静岡の酒は鑑評会の酒も市販されている酒も、あまり差がないということ。いい方はおかしいですが「ウソのない酒」、普段着で戦うという気高い精神を持った酒ではないかと思っています。
偽装表示等の問題で食品メーカーは襟を正せという世の中にあって、酒も多少の問題意識は必要ではないかと感じます。鑑評会に出す酒と市販する酒の差がないということは、素晴らしいことです。
今年の審査は大変接戦で、プレーオフの末、満寿一さんが最優秀(県知事賞)に決まりました。純米の部も3点同点決勝でした。
この傾向を見ると、みなさんが“静岡流”を意識して出品されたのがわかります。最後は審査員の好みで選んだという気もするくらい、甲乙付けがたい出来栄えでした。
私がその中で意識したのは好き嫌いではなく、静岡の鑑評会である以上、「いちばん静岡らしい酒はどれか」ということです。入賞酒には、それだけの気構えと品質が現れていたのだと思います。
静岡らしさと言えば、香りや穏やかで味はスマート。バナナやリンゴ系の香りですね。今の全国のトレンドは、モモ、メロン、トロピカルフルーツのような香りですが、その中でも静岡はとても繊細でスマートできれいな酒というポジションを持っています。造り手もその原点に戻って、高いレベルで競い合ったということでしょう。審査の段階では「今年は静岡らしさが揃っているなあ」と実感しました。昭和61年に、全国で100ぐらいしか金賞を取れなかった全国新酒鑑評会で、10も獲得した当時の静岡酒を思い出しました。
吟醸酒の歴史は約100年あり、50年前に吟醸酒をけん引した「9号酵母(熊本酵母)」が発見され、今年(2003年)は吟醸酒の世界で節目の年ともなっています。9号の特徴はオーソドックスな香りのふくらみ・やわらかみ・味のなめらかさです。その調和感が50年間支持されてきた理由でしょう。静岡の酒もそろそろ再評価される時期に来ているのではないでしょうか。
今日はお酒としての出来もさることながら、造り手や売り手や呑み手の人々の熱い思いが結集して、普遍的なかたちを見せてくれたと実感し、ホッとし、嬉しく思い、今夜の自分の酒量に驚いているほどです。
地酒はその土地の気候風土に根ざしたものでなければならないと思っています。地酒ブームの最初は、三倍増醸への反発や純米至上主義など、どちらかというとハードウエア志向(=製法へのこだわり)だったように思いますが、お酒は嗜好品ですし、気候風土が違う日本列島の中で、その土地らしさがあってしかるべきです。
静岡はなんといっても山海の味覚に恵まれた土地で、静岡の酒が食中酒として育まれるのも納得できます。静岡発、静岡の地酒の価値を今日は改めて実感しました。県内の地酒消費率は2割弱だそうですが、もっと地元の方が愛着心を持っていただきたいですね。
■県知事賞受賞 満寿一酒造・増井浩二さん
まさか賞をいただけるとは思わず、ただただ若い蔵人と一生懸命、正直にやりました。素人に毛が生えたような4人で頭を抱えつつも、基本は「明るく楽しく」。元気だけは負けません。
高須勝は3年目ですが「頭」として立派に私を支えてくれます。言葉は少なく、仕事はきちんとこなす頼りになる男です。「麹屋」の山下雅之は香川県出身で、静岡の嫁さんをもらい、赤ん坊もでき、県知事賞も貰ってノリにのっています。麹室では男同士、裸のつきあいをし、自分の愚痴もよく聞いてもらっています(苦笑)。
大長由紀は大卒2年目の分析担当ですが、彼女がいると蔵がとても明るくなります。別名デストロイヤー(笑)。よくモノを壊し、男たちよりも酒を飲みます。そんなチーム満寿一ですが、これが静岡の酒かと思っていただけるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。