4月21日NHK海外ネットワーク
地中海を望むフランス第2の年マルセイユ。
魚介類をふんだんに使ったブイヤベースが町の名物。
1950年代以降
フランスはかつて植民地だった北アフリカ諸国から多くの移民を受け入れてきた。
マルセイユは移民たちにとってフランスの玄関口となった。
いまやイスラム教徒は人口の約3割を占め
フランス有数のイスラムコミュニティーといわれている。
異なる人種や宗教の住民が如何に共存していくのか
市役所の一角には
キリスト教やイスラム教などの宗教指導者で作る団体の事務所がある。
マルセイユ・エスペランス(マルセイユの希望)。
創設メンバーの1人 イスラム教徒のサラ・バリキさんは
この20年以上 住民の間で摩擦が起きるたびに指導者たちが集まり
事態の収拾にあたってきた。
「マルセイユ・エスペランス」サラ・バリキさん
「私たちはどの宗教も他の宗教より優れているとはいわない。
キリスト教も仏教もみな平等だ。」
街の随所にも異なる宗教を尊重する姿勢が見られる。
市内のがん専門病院。
イスラム教徒が祈りをささげるための場所
キリスト教、ユダヤ教の場所がある。
患者や家族たちが宗教の違いを超えて同じ場所で祈りをささげ
いたわりあって欲しいという願いがこめられている。
さまざまな住民が肩を寄せ合って暮らしてきたマルセイユ。
市民
「色々な住民が溶け合ったカクテルのようだ。」
先月 トゥルーズで起きた事件はマルセイユにも波及した。
事件を受けイスラム過激派に関与した疑いで
2人が拘束されたのである。
街の北部にあるイスラム系の移民が多く暮らす地区。
先月 200人以上の警察官が団地を一斉に捜索した。
アルジェリア系のアイサットさんの一家の
次男で塗装の仕事をしているソフィアンさん(27)は
警察官に囲まれ何度も顔を蹴られたという。
医師には失明のおそれがあると告げられた。
イスラム教徒の移民というだけで疑われ暴行を受けたと衝撃を隠せない。
一方で移民の増加が経済を圧迫し
治安も悪化させると主張してきた極右勢力は勢いを増している。
極右「国民戦線」の事務所には
若者たちが相次いで党員登録に訪れるようになった。
アントワーヌさん(28)もそのひとり。
マルセイユでもイスラム教徒による凶悪事件が起きかねないとして
身を守るため射撃教室に行くようにもなったと言う。
アントワーヌさん
「市民の間に緊張が生まれている。
治安はどんどん悪くなっている。」
マルセイユでは今 大規模なモスクの建設が計画されている。
長年異なる住民の融和に取り組んできたバリキさんは
イスラム教徒への風当たりが強まるなか
モスクの建設が順調に進むのか懸念を深めている。
「マルセイユ・エスペランス」サラ・バリキさん
「20年前と今では状況が全く違う。
イスラム教徒というだけで
さまざまな言いがかりをつけられ問題にされてしまう。」
マルセイユで培われてきた寛容と共生の精神が揺さぶられている。
移民の問題がフランス社会にとって重要であるのは間違いない。
サルコジ大統領は劣勢を挽回しようと
移民の受け入れ半減などより厳しい移民政策を打ち出した。
極右「国民戦線」ルペン候補に流れかねない支持層をつなぎとめるためであるが
期待したほどの効果はなかったようである。
今 人々の関心は雇用や暮らしの問題に集中しているからである。
サルコジ大統領は社会の勝ち組ばかりを優遇し
公正さに欠いたという苛立ちを多くの国民が抱いている。
中間層が落ち込み格差の拡大を感じる人が増えているのである。
フランスの人が重視する
社会的な公正さに反したというイメージをもたれたことは大きなダメージである。
信用不安という嵐のなか
財政問題を抱えるヨーロッパの国々では
去年 相次いで政権が交代した。
エネルギッシュなサルコジ大統領でもこの逆風に抗うのは容易ではない。
ヨーロッパはこの半世紀あまり統合に向かって結束を固めてきたが
今再び分裂に向かうのか大きな岐路に立たされている。
信用不安を如何に収拾させるのか
移民政策、原子力政策
そしてリビアやシリアなどの紛争に積極的に介入してきたその姿勢を
変えることになるのか
フランスの行方は
ヨーロッパのみならず世界に少なからぬ影響を及ぼす。