5月19日 NHK海外ネットワーク
世界的な不況に苦しんできた造船業界がいま南米のブラジルに熱い視線を注いでいる。
その狙いは国を挙げての開発が進む沖合の海底油田である。
資源を掘削するための大型船や石油を運ぶタンカーの需要が急増している。
かつて世界一のシェアを誇った日本の造船業界だが中国や韓国に追い抜かれ
巻き返しをはかろうとブラジルに新たな活路を求めている。
その戦略を担っているのが日本の造船業を支えてきたベテラン技術者たち。
ブラジル最大の造船所アトランチコ・スルは4年前に操業を始めた新しい造船所である。
日本の大手造船会社の技術者たちは男性ばかり30人。
全員が造船のスペシャリストである。
リーダーの西岡弘さん(53)はこの道30年のベテラン。
ブラジルはいま国を挙げて海底油田の開発を進めている。
確認されている埋蔵量は約160億バレル。
日本の石油消費量の10年分に相当する。
大型船の需要が高まりこの造船所も大量に受注。
今後6年で約30隻を造ることになっている。
しかし作業には大幅な遅れが出ている。
その理由は造船所の設立から関わってきた韓国のサムスン重工業との契約が途中解消。
4年間で1隻のタンカーも完成させることなく去年3月位撤退してしまったのである。
ブラジルの造船会社側は“契約で取り決めていた技術移転を
サムスンが実行しなかったことが決定的な不信につながった”としている。
西岡さんたちには造船所の立て直しが委ねられた。
(アトランチコ・スル オトニエル・レイス社長)
「韓国企業が撤退したのは我々と目的が合わなかったから。
彼らが一緒に作るはずだった重要な部品を韓国で作ろうとしていた。
日本企業の技術指導は短期間で造船所の生産能力を上の段階に引き上げてくれるはず。」
西岡さんはまず日本流の徹底した作業の効率化を植え付けたいと考えている。
時間を見つけては現場を見て回る。
しかし簡単な作業すら予想した以上に手間取っていた。
組立前のパイプを種類ごとに分けるのに3日もかかっていたのである。
さらに足場を先に組んでしまったためパイプが取り付けられなくなっていた。
西岡さんにはブラジルに強い思い入れがある。
会社がブラジル政府と合弁で作ったブラジルの造船所に30才のときに派遣。
それから5年間 ブラジル人技術者を指導しながら大型船を何隻も建造した。
ブラジルの造船業をけん引しているという自負を持って仕事に没頭した。
(ジャパン マリンユナイテッド 西岡弘さん)
「自分がいなくても現地の人だけでできるようにするのが
自分の仕事と思ってブラジルに入った。
一番初めの船の試運転に行ったときには
こっちの人に任せてたら物を壊しちゃうなを。
3日間くらい寝ないでずっと張り付いていた。」
しかし深刻なインフレが直撃し会社はブラジルから撤退。
ブラジルの造船業自体も一気に衰退し
精魂込めて教え込んだ技術者の多くは造船から離れることを余儀なくされた。
(西岡弘さん)
「苦労してやったのが全部なくなった。
人が育ってきたのにちりぢりバラバラになった。
何のために遠いところに来て苦労して5年間やってきたのかなと。」
西岡さんは“今度こそ日本の造船技術を根づかせたい”と意気込んでいる。
まずは意識を変えようと常に作業の改善を考えるよう訴えたが
最初はほとんど耳を貸してくれなかった。
船の納期すら守ろうとしない幹部の無責任な態度に怒りをぶつけたこともあった。
(西岡弘さん)
「会議中でも机をたたいて蹴っ飛ばして
こんな造船所やめちまえと言って出て行ったこともある。」
着任から10か月西岡さんたち30人の日本技術者は
粘り強くひとつひとつの作業でブラジル人従業員と向き合い指導を繰り返してきた。
その成果が見え始めている。
話を聞くばかりだった幹部からは提案が上がるようになった。
無駄の排除が生産性を高めることを現場のブラジル人従業員も実感できるようになっている。
「日本人のおかげでどうすれば品質や会社をよくできるのか分かった。」
「日本人は細かいことまで効率の良いやり方を教えてくれる。
それが現場でも生かされている。」
西岡さんはさらに仕事が終わった後日本人技術者向けにポルトガル語講座も始めた。
日本人とブラジル人のコミュニケーションのギャップをなくし一体になって働くことが
優れた造船所を作り上げるのに欠かせないと考えているからである。
このところその手ごたえも感じている。
「若い人たちがブラジル人と一緒になってやって
『こんなことができたんですよ』なんて嬉しそうに話してくれるとすごい嬉しい。
これからどれだけやっていけるかだから
ここをブラジルで一番の造船所にしたい。」
日本の造船会社の中には技術者の派遣だけではなく現地で合弁会社を作ったところもある。
そしていまアメリカでも新たな動きが出ていて
シェール革命が起きた結果天然ガスの日本向け輸出が初めて認められたために
輸送用の大型船の需要が増えるとみられる。
こうした世界のエネルギー事情の変化によって生み出される新たな需要をつかんでいけるかが
造船業界の今後を大きく作用する。
世界的な不況に苦しんできた造船業界がいま南米のブラジルに熱い視線を注いでいる。
その狙いは国を挙げての開発が進む沖合の海底油田である。
資源を掘削するための大型船や石油を運ぶタンカーの需要が急増している。
かつて世界一のシェアを誇った日本の造船業界だが中国や韓国に追い抜かれ
巻き返しをはかろうとブラジルに新たな活路を求めている。
その戦略を担っているのが日本の造船業を支えてきたベテラン技術者たち。
ブラジル最大の造船所アトランチコ・スルは4年前に操業を始めた新しい造船所である。
日本の大手造船会社の技術者たちは男性ばかり30人。
全員が造船のスペシャリストである。
リーダーの西岡弘さん(53)はこの道30年のベテラン。
ブラジルはいま国を挙げて海底油田の開発を進めている。
確認されている埋蔵量は約160億バレル。
日本の石油消費量の10年分に相当する。
大型船の需要が高まりこの造船所も大量に受注。
今後6年で約30隻を造ることになっている。
しかし作業には大幅な遅れが出ている。
その理由は造船所の設立から関わってきた韓国のサムスン重工業との契約が途中解消。
4年間で1隻のタンカーも完成させることなく去年3月位撤退してしまったのである。
ブラジルの造船会社側は“契約で取り決めていた技術移転を
サムスンが実行しなかったことが決定的な不信につながった”としている。
西岡さんたちには造船所の立て直しが委ねられた。
(アトランチコ・スル オトニエル・レイス社長)
「韓国企業が撤退したのは我々と目的が合わなかったから。
彼らが一緒に作るはずだった重要な部品を韓国で作ろうとしていた。
日本企業の技術指導は短期間で造船所の生産能力を上の段階に引き上げてくれるはず。」
西岡さんはまず日本流の徹底した作業の効率化を植え付けたいと考えている。
時間を見つけては現場を見て回る。
しかし簡単な作業すら予想した以上に手間取っていた。
組立前のパイプを種類ごとに分けるのに3日もかかっていたのである。
さらに足場を先に組んでしまったためパイプが取り付けられなくなっていた。
西岡さんにはブラジルに強い思い入れがある。
会社がブラジル政府と合弁で作ったブラジルの造船所に30才のときに派遣。
それから5年間 ブラジル人技術者を指導しながら大型船を何隻も建造した。
ブラジルの造船業をけん引しているという自負を持って仕事に没頭した。
(ジャパン マリンユナイテッド 西岡弘さん)
「自分がいなくても現地の人だけでできるようにするのが
自分の仕事と思ってブラジルに入った。
一番初めの船の試運転に行ったときには
こっちの人に任せてたら物を壊しちゃうなを。
3日間くらい寝ないでずっと張り付いていた。」
しかし深刻なインフレが直撃し会社はブラジルから撤退。
ブラジルの造船業自体も一気に衰退し
精魂込めて教え込んだ技術者の多くは造船から離れることを余儀なくされた。
(西岡弘さん)
「苦労してやったのが全部なくなった。
人が育ってきたのにちりぢりバラバラになった。
何のために遠いところに来て苦労して5年間やってきたのかなと。」
西岡さんは“今度こそ日本の造船技術を根づかせたい”と意気込んでいる。
まずは意識を変えようと常に作業の改善を考えるよう訴えたが
最初はほとんど耳を貸してくれなかった。
船の納期すら守ろうとしない幹部の無責任な態度に怒りをぶつけたこともあった。
(西岡弘さん)
「会議中でも机をたたいて蹴っ飛ばして
こんな造船所やめちまえと言って出て行ったこともある。」
着任から10か月西岡さんたち30人の日本技術者は
粘り強くひとつひとつの作業でブラジル人従業員と向き合い指導を繰り返してきた。
その成果が見え始めている。
話を聞くばかりだった幹部からは提案が上がるようになった。
無駄の排除が生産性を高めることを現場のブラジル人従業員も実感できるようになっている。
「日本人のおかげでどうすれば品質や会社をよくできるのか分かった。」
「日本人は細かいことまで効率の良いやり方を教えてくれる。
それが現場でも生かされている。」
西岡さんはさらに仕事が終わった後日本人技術者向けにポルトガル語講座も始めた。
日本人とブラジル人のコミュニケーションのギャップをなくし一体になって働くことが
優れた造船所を作り上げるのに欠かせないと考えているからである。
このところその手ごたえも感じている。
「若い人たちがブラジル人と一緒になってやって
『こんなことができたんですよ』なんて嬉しそうに話してくれるとすごい嬉しい。
これからどれだけやっていけるかだから
ここをブラジルで一番の造船所にしたい。」
日本の造船会社の中には技術者の派遣だけではなく現地で合弁会社を作ったところもある。
そしていまアメリカでも新たな動きが出ていて
シェール革命が起きた結果天然ガスの日本向け輸出が初めて認められたために
輸送用の大型船の需要が増えるとみられる。
こうした世界のエネルギー事情の変化によって生み出される新たな需要をつかんでいけるかが
造船業界の今後を大きく作用する。