3月14日 キャッチ!
アメリカのメディアをめぐっては
トランプ大統領が
ニューヨークタイムスやNBCニュースなど大手メディアを名指して
「フェイクニュース(嘘のニュース)」と呼び
ツイッターには「アメリカ国民の敵」とまで書き込んでいる。
一方こうした大手メディアへの対決姿勢とは対照的に
トランプ政権のお気に入りと言われるのが
新興の保守系のインターネットメディア「ブライトバート」である。
内容は白人至上主義的な記事が目立ち
国民の分断を助長するとの批判の声もあるが
トランプ大統領の就任後も閲覧数は増え続け
存在感をさらに高めている。
全米の保守派が年に1度集う最大のイベントCPAC(保守派政治集会)。
トランプ政権以来 与党共和党の幹部が大勢参加。
保守派の結束をうたう一方で大手メディアに対する不満も相次いだ。
(トランプ大統領)
「メディアは情報源の名前を明らかにしないなら報道すべきではない。」
(ボルトン元国連大使)
「既存の大手メディアのニュースは本質を伝えていない。」
一方で存在感が際立っていたのが信仰の保守系メディア「ブライトバート」。
CPACのメインスポンサーに名を連ねたほか
ブライトバートの編集者や記者が代わる代わる壇上に立ってスピーチを行い
「自分たちこそ保守派のメディア」だとアピールした。
(ブライトバート編集長 アレックス・マーロウ氏)
「私が話題にしたいのは既存メディアの偏見です。
もし共和党が貧困層に1%でも税金を上げたとしましょう。
するとワシントン・ポストなどのフェイクニュースは
『共和党が50%の国民に増税する』を騒ぐでしょう。
このメディアの状況にどう対処しますか?」
保守系ウェブサイトブライトバー」は2007年に設立。
インターネットを中心にラジオや動画でもニュースを発信している。
「避妊は女性の魅力をなくし頭をおかしくする」
過激な表現を見出しに掲げ
社会の分断を会わる記事が目立つ。
「欧米に住む若いイスラム教徒は時限爆弾だ」
このブライトバートが閲覧数が常に上位にランキングされるアメリカでいま人気のサイトである。
人気の立役者がトランプ大統領の懐刀バノン主席戦略官である。
去年夏までブライトバートの会長を務めていた。
過激な見出しで注目を集め保守派が喜ぶ記事を提供する。
バノン氏のそうした戦略を功を奏したと「ブライトバート」の記者は証言する。
(ブライトバート特約記者 ジョン・パドナー氏)
「バノン氏は保守系メディアを作り
国民に違った視点のニュースを伝えたかったのです。
ニュースを魅力的に伝える方法を理解していたので
ブライトバートは大人気となったのです。」
ブライトバートは去年の大統領選挙でトランプ旋風と共に一気に躍進した。
ブライトバートのポラック編集者は
大統領選挙期間中トランプ氏を支持する記事を書き続けてきた。
共和党から議会下院に立候補したこともあり
自らの政治的立場を報道に反映させていると認めている。
(ブライトバート編集者 ジョエル・ポラック氏)
「われわれは明らかに偏っています。
記事は正確を期しますが客観的ではありません。
われわれは立場が明らかな一方で
大手メディアは中立を装いながらも実は左翼的です。」
トランプ政権発足後
ブライトバートは大手メディアと異なり
政権の政策をたたえる情報を発信している。
「TPPは米国の製造業に死をもたらしていただろう」
「良いことに
トランプ大統領はTPPを葬った」
トランプ政権発足を受けてさらなる躍進を目指すブライトバート。
しかし専門家の間では懸念を示す人も少なくない。
(アメリカン大学 チャールズ・ルイス教授)
「ブライトバートは特定の政党を支持する内容でニュースではありません。
ジャーナリズムではなく単なるプロパガンダです。」
(ジョージワシントン大学 二コル・アッシャー准教授)
「アメリカ社会はかつてなく両極化が進んでいます。
この両極端の人たちこそが最もニュースに関心があるのです。
ブライトバートは非常に偏っています。
これはアメリカの深い分断を象徴する懸念すべきことです。」
ブライトバートが共和党支持者をひきつけている理由は
共和党支持者の大手メディアに対する不信感である。
共和党支持者の大手メディアに対する信頼度の変化をみると(出店:ギャラップ)
2016年に「信頼する」と答えたのはたったの14%。
前年よりも18ポイントも減った。
この原因について世論調査を行ったギャラップは
大統領選挙で大手メディアの大半がトランプ氏に批判的な一方で
クリントン氏には好意的だったことから
大手メディアが偏向していると共和党支持者が感じたのではないかと分析している。
こうした共和党支持者の一部が大手メディアに不満を抱き
ブライトバートに流れたと見られている。
さらにもう1つ指摘されているのは
アメリカ社会のかつてない分断の深さである。
アメリカには
これまでもフォックスニュースやナショナルレビューなど保守系といわれるメディアはあった。
しかし分断がより深まった結果
白人至上主義やオルト・ライトと呼ばれる極端な右派の動きも勢いづくなかで
これまでの保守派とは異なる極端な論調を掲げるブライトバートが
一部から熱狂的な支持を得たのではないかと言われている。
民主党支持者の去年の大手メディアに対する信頼は
前年に比べ4ポイント落ちたとはいえ51%ある。
共和党支持者の14%と比べると大きな差があり
メディアに対する印象が共和党と民主党の支持者の間で大きく異なっているのがわかる。
大手メディア中でもリベラルな論調で知られるニューヨークタイムスは
大統領選挙後に電子版の有料読者数が急増し
過去最大の伸びを記録したと発表している。
民主党支持者を中心に
批判的な報道が支持されていると見られている。
大手メディアの大半はいま客観的な報道ではなくリベラル寄りだという批判を受けている。
専門家も
大手メディアの報道が都市部のリベラルな人たちを対象にしたものが目立つと
苦言を呈している。
(ジョージワシントン大学 二コル・アッシャー准教授)
「大手メディアの記者たちは
都市部に住み
他の地域の問題には関心がないのです。
これは大きな問題で
都市と地方の問題で
記者のエリート意識の問題でもあります。」
(アメリカン大学 チャールズ・ルイス教授)
「アメリカではこの20年間で約2万人の記者がリストラされました。
その結果
取材が中西部で十分にできず大都市に集中していまっているのです。」
アメリカでは財政的な理由から多くの地方メディアが失われ
調査ジャーナリズムも少なくなっていると指摘されている。
そうしたなかで視聴者・読者の信頼を回復するには
画一的な報道から脱却するとともに
アメリカの多様性を反映した多角的な視点から物事を伝えていくことが重要である。