5月14日 編集手帳
天界で桃園の管理を任された孫悟空は、
何千年もかけて育てられた桃を一人で食べつくした。
欲望や思いつきで行動し、
全く悪びれない。
「西遊記」の登場人物はみな本音で生きている。
読書家で知られるライフネット生命創業者の出口治明さんの見方である。
『教養は児童書で学べ』(光文社)によると、
その魅力をひと言で言えば「なんでもあり」だ。
孫悟空も猪八戒も好き勝手して失敗ばかりだが、
どこか飄々(ひょうひょう)としている。
旅の途中でしょっちゅう仲間割れし、
美しい友情だけではない。
「自分さえよければ良い」というおもしろさ、
中国独特の大げさな表現が子供心を捉えるのだという。
とはいえ、
「自分勝手」や「大げさ」では困るのが外交だ。
中国の李克強首相が来日し、
安倍首相との会談で全面的な関係改善を約束した。
防衛当局間のホットライン設置や映画共同製作、
トキ譲渡など10もの協定や覚書を交わした。
平和友好条約締結40周年の節目だ。
東シナ海で再び対立の火種をあおることがないよう願いたい。
孫悟空は芭蕉扇を手に入れ、
燃えさかる火焔山(かえんざん)を消し止めた。
そんな扇を双方が携えておきたい。