11月12日 国際報道2018
人類史上初めて世界規模の戦争となった第1次世界大戦(1914-1918)。
死者の数は1,800万人にのぼると言われている。
フランスでは今も5万人の行方が分からず
遺骨の鑑定が続いている。
2度の世界大戦の反省からヨーロッパは
国家間の協調や話し合いでの問題解決を推し進めてきたはずだった。
しかしいま移民問題やEUのあり方などをめぐり分断が深まっている。
(イタリア サルビーニ内相)
「イタリアのルーツはイタリア人が決める!
ドイツでもフランスでもEUでもない。」
11月11日にパリで開かれた第1次世界大戦の終結から100年の追悼式典。
フランスのマクロン大統領は各国の首脳を前に
“自国第一主義”や“排他的な風潮”に警鐘を鳴らした。
(フランス マクロン大統領)
「愛国心とはナショナリズムの対極にあるものだ。
恐怖心から対立するのではなく
希望を積み重ねよう。」
マクロン大統領が主催した式典には
アメリカのトランプ大統領やロシアのプーチン大統領など60カ国余りの首脳が参列した。
ヨーロッパでは社会の右傾化や排他的な動きが広がる現状が
第1次世界大戦から第2次世界大戦へと向かった1930年代と似ていると指摘されるなか
ここ最近 マクロン大統領の国際協調を訴える発言が目立っている。
第1次世界大戦の主戦場となったヨーロッパ。
1914年から4年間続いた戦争でヨーロッパを中心に約1,800万人が犠牲になった。
戦後処理はフランスなど戦勝国主導で進められ
1919年 敗戦国ドイツにばく大な賠償金を課したベルサイユ条約が結ばれた。
しかしこれが重い負担となりドイツ市民は苦しい生活を強いられた。
こうしたなか
ポピュリズム大衆迎合的な政策を掲げ国民に絶大な支持を受けたのがナチスだった。
ヒトラーのもと1930年代の選挙で躍進し
ドイツは第2次世界大戦へと突き進み
ヨーロッパは再び戦場となってしまう。
この2度の世界大戦の反省から生まれたのが現在のEU=ヨーロッパ連合である。
多国間主義=加盟国が協力して問題解決にあたることを理念としてきた。
しかしいまヨーロッパの各国ではEUに懐疑t機な勢力が支持を伸ばし
EUの理念が揺らいでいるとの懸念が出ている。
第1次大戦から100年の節目に合わせフランスが力を入れているのが“平和教育”である。
パリ市内の小学生たちが向かったのは大戦で犠牲になった兵士の慰霊碑。
慰霊碑には兵士の横顔が刻まれていて
子どもたちはスケッチをして気づいた点を書き留める。
「つらそうだけど
肩の上に平和の象徴のハトがいます。」
第1次世界大戦に関する授業を夏休み明け以降毎日のように行なってきたクラスがある。
終戦100年をきっかけに
戦争から教訓を学んでほしいとの考えからである。
「慰霊碑を見てどんなことを思いましたか?」
「兵士がフランスを守るために勇敢に戦って亡くなったことに悲しくなりました。」
「慰霊碑の兵士は友だちを失い
自分だけが生き残って悲しんでいるように見えました。
戦争よりも平和がいいと感じました。」
フランス政府は5年前から
自治体・市民団体・学校などが第1次大戦を振り返るプロジェクトを後押しし
その数は6,000件を超えた。
教育とともに力を入れているのが大戦にまつわる品々の収集である。
ドイツ軍の砲撃を受けた教会のステンドグラスは市民が自宅に保管していたものである。
ほかにも個人が持っていた写真やヘルメット
戦場の兵士が書いた日記など
幅広く提供を受けている。
こうして集まったものに市民が気軽にふれることができるよう
デジタル化してインターネットで公開しているのである。
(大戦終結100周年行事 責任者)
「兵士だけでなく市民の戦争体験も知ることができます。
共通の歴史を記憶することで
社会の絆が強まります。」
大戦終結の節目にあたる11月
マクロン大統領は1週間かけて当時の激戦地10か所以上をまわった。
10日にはドイツが休戦調停に調印した北部コンピエーニュにメルケル首相を招待し
あらためて不戦の誓いを立てた。
(フランス マクロン大統領)
「流血や苦しみ・涙を乗り越えて得られた
貴重な平和・友情を守らなければならない。」
マクロン大統領が歴史を振り返る重要性を訴えていr背景には
いまのEUが置かれた状況がある。
2度の大戦の反省から
各国が協力して問題解決にあたるという理念のものに生まれたEU。
しかしヨーロッパではいま
EUに失望する市民が増え
自国第一主義を掲げる政党が支持を伸ばしている。
ドイツでは右派政党「ドイツのための選択肢」が躍進。
イタリアやハンガリーでは
移民の受け入れ制限など排他的な主張を掲げEUに批判的な政治家が政権をとった。
来年5月に予定されているヨーロッパ議会選挙では
こうした勢力の結集を目指している。
(ハンガリー オルバン首相)
「多くのことを変えたい。
欧州には新しい委員会都議会が必要だ。」
(イタリア サルビーニ内相)
「マクロン大統領の支持率は非常に低く
外国の政府に説教を述べてばかりだ。」
専門家は
今のヨーロッパは1930年代に排他的な勢力やファシズムが台頭し
第2次大戦につながった状況と酷似していると指摘する。
(国際政治学者 ドミニク・モイジ氏)
「人々が恐怖にとらわれ
排他的になり
極端な国家主義に陥る姿は当時とそっくりだ。
大衆迎合の政治が平和を脅かしたことを忘れてはならない。」
こうしたなかフランス大統領府は
先月 議会選挙に向けたPR動画を公開。
ヨーロッパの協調を訴えるマクロン大統領だが
排他的な主張を掲げるイタリアやハンガリーの政権幹部の言動を厳しく批判している。
動画は公開から2週間余りで100万回以上再生され
波紋を広げている。
自国第一主義との対決姿勢を強めるマクロン大統領。
市民の間では違和感を感じる人も出ている。
「自分の考えと違う人を“ポピュリスト”と決めつけている。
まだまだ若くて世の中の現実が見えていない。」
「マクロン大統領かファシストかの二択しかないと思い込ませようとしている。」