11月18日 編集手帳
作家の父が書いた「人に言えない鬱屈(うっくつ)」とは何だったのか。
遠藤展子さんは遺品の手帳を頼りに考えを巡らせて一冊の本にまとめる。
『藤沢周平 遺(のこ)された手帳』(文芸春秋)である。
例えば昭和38年、
短編が雑誌に掲載され始めたこの年、
長女の誕生と妻の病死が相次ぎやってくる。
10月29日の記述。
<夜、
濡(ぬ)れて帰る。
缶詰、
白菜のつけたもの。
それと卵を買って…
狂いだすほどの寂しさが腹にこたえる。
小説を書かねばならぬ。
展子に会いたい>
書き連ねた予定やメモの切れ切れがいつしか持ち主の物語を紡ぐ。
残り少なくなった手帳の文字に山あり谷ありの一年を思い返す人も多かろう。
西日本豪雨の被災地、
岡山県倉敷市真備町では「これから手帳」の配布が始まったという。
被災者が健康状態や受診結果、
相談事項など日々の記録を書き込める。
豪雨から間もない頃、
支援者が同様の帳面を配ったところ、
「生活の支えになった」といった声が多数寄せられたそうだ。
カレンダー欄は被災1年となる来年7月まで。
覚書の数々が励みに転じる日がきっと来るだろう。
あの時私はこんなに頑張ったんだと。