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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

スパイダーマン3

2009-09-21 20:57:06 | 映画(さ)
評価点:53点/2007年/アメリカ

監督:サムラ・イミ

まさにこれがアメコミだ!

前作までで、ピーター・パーカーとスパイダーマンとの乖離に決着をみた、パーカーは順調に生活しながら、MJとの関係も安定期に入っていた。
だが、友人ハリーとの関係は冷え切ったままだった。
ある日、ハリーはゴブリンジュニアとして再びスパイダーマンの前に現れた。
あえなく破れたハリーは記憶を失ってしまう。
復讐心が消えたハリーはピーターとの友人関係に戻る。
一方、パーカーはMJと溝が生まれはじめたころ、おじを殺したのが実は違う犯人だったことを知らされる。
ショックを隠しきれないスパイダーマンに地球外生命体がとりつき、彼はいよいよ復讐心を増幅させていく。

21世紀のハリウッド界のドル箱といえば、この「スパイダーマン」シリーズか、もしくは「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズだろうか。
安定して良作を作り続ける態度は、単なる商業映画を越えた価値を持つだろう。
特に前作「」は、非常に丁寧な作りで、同じスタッフ・キャストで構成される最新作「3」は、否が応でも期待が高まるというものだ。

アメリカ万歳映画であることを度外視しなければとても観られないとしても、このシリーズは面白い。
人気があるのは単なるCGだけではないことは確かである。
本作は僕も前作以上に期待して観に行ったが、果たしてどうだったのか。
観た人は下へどうぞ。

観ていない人は……忙しいならもう別に行かなくても良いかも。
 
▼以下はネタバレあり▼

この映画を観て、やはりこれはアメリカン・コミックスなのだと痛感した。
アメコミを真剣に読んだことがないため、いい加減なことは言えないが、少なくとも日本のコミックスよりも、数段丁寧さに欠ける、というのは多くの人が言うことだろう。
いや、それはアメコミが悪いのではなく、どちらかというと、日本のコミック(に限らずだが)は、ストーリーやキャラクター性が優れていて、それに慣れきった僕たちは、アメコミの大味さが気になる、というのが正確な評価だろうか。

この映画はまさにその評価を下すべきだろう。
全てがアメリカン・コミックス的。
もっと端的にいえば、「大味」。
もう少し比喩的に言えば「薄味大盛り」という感じだ。
(※これは少し前に最近の若者の言葉が強調語と曖昧表現が多くなったことを揶揄した山田五郎の言葉をぱくらせてもらった。
彼の意見には僕は異議を申し立てたいがそれはまた別の機会に。)

僕が劇中に感じた感想は一言だ。
「退屈」

この感想がこの映画にとっていかに致命的かというのはおわかりいただけるだろう。
エンターテイメント性の高い映画であるはずの本作が、僕には「退屈」としか感じなかったのだ。

大味その① ストーリーが大味
まずこの映画は上映時間が長すぎる。
これはどう考えても致命的だ。
テンポの良さがこうした映画には不可欠な要素であるにもかかわらず、ストーリーがあまりにも冗長に感じさせ、そしてそれによってテーマもぼやけている。

冗長になったのもうなずける。
なぜなら、単純に敵が三人もいるからだ。
友人のハリー、娘の治療費を稼ごうとするサンドマン、地球外生命体にとりつかれたヴェノム(あの黒いやつ)。
そもそも、現在のヒーロー映画の「敵」は単なる悪ではない。
悩めるヒーローにとって、敵は克服するべき自分の「課題」なのだ。
つまり、三人の敵を用意したということは、三つの課題を課したということだ。
その時点で、ストーリーの軸がぶれていることがわかる。
三人にした理由は単純だ。
脚本家がストーリーの的を絞りきれなかったからだ。

具体的には、
①友人との関係修復ができるかどうか(スパイダーマンとしての活躍を友人に対して肯定できるかどうか)。
②ベンおじさん殺人を「過去」にできるかどうか
(おじさんの死を克服できるかどうか)
③自分の中にある黒い感情、復讐心を押さえ込むことが出来るかどうか。

この三つがこの作品に込められた課題なのだ。
おさらいしておくと前作は一般人としての自分とヒーローとしての自分とのアイデンティティの一致前々作はヒーローとしての自分の力をつかうべきかどうか、という悩みだった。
ともに単純だが、一つである。
だから当然敵も一人だし、映画としての統一感もある。

この三人の敵と戦わせるために、今回のスパイディは、大忙しだ。
友人との葛藤を見せるために、MJの取り合いを描いたり、MJとすれ違う様子を描く。このドラマ部分が長すぎる。
そこへ黒いスライムが彼にとりつくという部分をクローズアップするために、おじさんの殺人について今更ながら蒸し返す。
しかも、スパイダーマンの敵は本当の悪人ではないので、敵であるサンドマンについての悲壮な内実も丁寧すぎるほどはっきりと描こうとする。
さらに、黒いヴェノムについての件(くだり)が必要なので、新聞記者のエディとのやりとりも描く。

とにかくてんこ盛りなのだ。
きちんと話が完結するようにうまい具合に絡めていることは確かだが、どれもこれも丁寧に描こうとするが故に、どんどん中途半端になり、何が中心的な話題なのか訳がわからなくなっている。
シリーズ完結で気負いすぎているのか、物語にあった謎やトラウマをすべて解決しようとするのだ。
それでは二時間枠に収まりきらないは目に見えている。

少なくとも、サンドマンの部分はバッサリいってもよかったはずだ。
熱烈なファンしか望まないベンおじさんの真相は、蛇足でしかない。

大味その② キャラクターも大味
敵が増えてエピソードが増えたぶん、個々のキャラも大味になってしまった。
MJにしても、ピーターにしても、ハリーにしても、凹む要因が多い今作では何度も挫折を経験することになる。
短い時間で様々な壁にぶつかることになるので、一体なにが本質的な課題なのか、不明確になってしまう。
MJとのすれ違いなのか、復讐心なのか、友情なのか今ひとつわかりにくい。
途中、ハリーの記憶喪失は明らかに復讐心の有無を反照したかったのだろうが、再びすぐに記憶が戻ってしまい、結局ハリーとしての軸がない。
だから、最終的に和解に至る経緯がいかにも軽々しく見える。
ハリーの復讐心を打ち砕いたものが見えないため、友情が復活しても「お決まり」ではあるものの、カタルシスに欠ける。

しかも、死んでしまうという結末も、「こいつが生きていたらMJとの関係がややこしいから殺しておこう」というご都合主義がかいま見える。
「命をやっても構わない」という唐突な病院での台詞は、この結末の伏線であったとしても、やはり無理矢理感は否めない。

MJにしても同じだ。
今作は前作までよりもさらに心変わりが激しいため、彼女は結局何を求め、どうなりたいのか、よくわからない。
序盤のいらだちがとても丁寧だっただけに、サンドマンの存在を知ったあたりから、急に寄りを戻そうとする彼女の心理がいまいちつかめない。

敵のサンドマンにしても、彼がスパイディを殺そうとしている理由が宙ぶらりんのままに物語が進んでしまう。
そのため、ラストで和解しても本当に解決したのか不安になる。
彼はその後、娘の所に戻ったのだろう。
しかし、彼が犯罪者であることには何ら代わりはなく、また服役するにしても、警察と対立するにしても、全然問題は解決されていないことになる。

ヴェノムにしても、なぜラストで飛び込もうとしたのだろうか。
そのあたりの心理が描き切れていない。
これらの心理描写の不足は、全編を通してではない。
前半は丁寧すぎるほど描いておきながら、ラストへ向けての心理が不足しているのだ。
だから、余計に大味感が露呈されてしまうし、納得もいかなくなってしまう。

大味その③ ギャグも大味
致命的なのが、ギャグが今作になって大味極まりない陳腐なものになってしまったことだ。
編集長のシーンにしても、性格が変わってしまったピーターの「サタデー・ナイト・フィーバー」を彷彿とさせるコスプレにしても、失笑どころか、観ていてイタい。
ものすごくくどく、ものすごくテンポが悪くなっている。
いきなり一昔前のアメリカンジョークが飛び出すのはいくらなんでもやりすぎだ。

大味その④ オチも大味
全体としてのオチも全くもって荒っぽい。
サンドマンとの和解、ハリーの死、ヴェノムの最期……どれをとってもカタルシスとはほど遠い結末だ。
戦いにしても、ほとんどCGで処理してしまっていて、「ムービー」としてなら楽しめるが、映画としての見せ場とは言えない。

大味その⑤ テーマ、メタファーも大味
映画としての、物語としてのプロットも大味だ。
アメリカの今の状態を模すのはこれまでの作品も同じだったが、「3」ではそれが余計に露骨になっている。
サンドマンにしても、ヴェノムにしても、「形のない敵」である。
それはあたかもピーター自身の課題を表象しているかのようだ。

また、黒くなるということ自体が、星条旗への警鐘であり、アメリカが現在立たされている疑問を如実に表している。
隠喩にしてはあまりに明確なので、逆にウザい。
いかにも紋切り型で、教育を施すための映画のようにさえ思えてしまう。

なぜここまで大味な映画に成り下がってしまったのだろう。
せっかく育ててきたブランドをそうやすやすと捨ててしまうとはなんとも惜しい。
次回作はキャスティングを変えるらしいけれど、たぶん、もう観に行かないだろうなあ。

(2007/5/21執筆)

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