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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ストレンジャー・ザン・パラダイス(V)

2010-09-05 20:29:49 | 映画(さ)
評価点:65点/1984年/アメリカ・西ドイツ

監督:ジム・ジャームッシュ

アメリカ的な、余りに非アメリカ的な。

ベラ(ジョン・ルーリー)は祖国ハンガリーからいとこがやってくることをいきなり知らされる。
やってきたエヴァ(エスター・バリント)は、しばらくしておばさんのいるクリーヴランドに旅立っていった。
一年後、ウィリー(=ベラ)は賭博でできたお金を元に、エヴァのいるクリーヴランドにいこうと友人と計画し、車を借りて出発する。

ロードムービーの「ブロークン・フラワーズ」の監督ジム・ジャームッシュが初期に撮った長編モノクロ映画。
映画の話を職場でしていると、話題に上がったので、見ることにした。
全く知らなかったので少し調べたが、ジャームッシュは小津安二郎らの影響を受けたという。
まあ、小津も僕は全然見ていないので、何ともイメージしにくいのだが、この映画でも独特の雰囲気を出している。

この「ストレンジャー~」もロードムービーで、派手な演出やわかりよい筋で展開されるわけではない。
だが、テーマがないといったこともない。
筋書きのないような、でもしっかりとある。
興味深い映画である。

▼以下はネタバレあり▼

タイトル「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を直訳すれば「天国よりも奇妙な」くらいになる。
「than」があるので「strager」は名詞ではなく比較級だと考えられる。
もっとも、ハンガリーからの移民が主人公であるため、「外から来た者=異邦人」という意味を含意している可能性はある。
タイトルにあるパラダイスは、フロリダに訪れるシークエンスがあるため、フロリダを指している。
あるいは、映画の内容から考えて、アメリカ全体がパラダイスだとしてもいいかもしれない。

では、結局、どんな物語だったのだろう。
ラストの結末は目を引くものの、筋らしい筋はなく、だらだらと物語が展開していく。
見る人によっては、まったく退屈で、まったく理解できない映画かもしれない。
まあ、そんな人はこの映画を手に取らないか。

それはさておき、簡単にいえば、「ウィリー(ベラ)がハンガリーに帰って行く物語」である。
もしくは、「それぞれの人物(異邦人たち)があるべき場所に帰っていく物語」である。

ウィリーと名乗る男は、もともとハンガリーで育ち、アメリカにやってきた移民である。
ウィリーはやたらとアメリカ人になりたがっている。
アメリカ人が食べている夕食、アメリカ人が好きなドレス、アメリカ人のパラダイスのマイアミ。
逆に、祖国のハンガリーに関してはやたらといやがる。
ハンガリー語を避け、自分の名前まで隠そうとする。
はっきり言えば、彼はアメリカにあこがれる典型的な田舎者なのである。

だが、ことごとく彼はアメリカになりきれない。
アメリカ的な生活を目指しても、ハンガリーのいとこが彼を「追いかけてくる」。
血筋からはどれだけ離れても逃れられない。
みんな着ているというドレスも、ひどいセンスだ。
アメリカに居ながら、いとこを追いかけてクリーヴランドに遊びに行くのも、それを象徴している。
彼は結局田舎者なのだ。

しかも彼は器が小さいので、アメリカンドリームをつかむほどの人間にはなれない。
せいぜいカードや競馬で小銭を稼ぐくらいだ。
友人も1人しかいない。
働きに行く見知らぬ労働者に、「どこにいくのだ?」と声をかけるほど、彼は薄っぺらい人間なのだ。

パラダイスだと思っていたアメリカは、実は過酷な現実が待っていた。
それなりに暮らしていたが、もはや限界だった。
だから、彼は結局図らず、ハンガリーに帰国してしまう。
彼にとってのパラダイスはアメリカではなかったのだ。

エヴァのほうがパラダイスに残り、ウィリーのほうがハンガリーに帰ってしまうのは皮肉めいている。
彼女はアメリカとフィットしようとしているが、ウィリーは退廃的な生活しか送れなかった。
確かに劇中に描かれなかったところでウィリーは働いていたのだろうが、あえてそこを描かなかったのは、彼のアメリカでの生活を印象づけるためだろう。
エヴァがアメリカの麻薬密売人と間違われて、あっさり「アメリカンドリーム」を手にしてしまうのもおもしろい。

アメリカとことごとく齟齬を起こしている彼らだからこそ、余計にアメリカ的なものを求めている。
ホットドッグ屋で働いたり、アメリカの労働者が食べる食事で腹を満たしたり。
彼らは紛れもなく「アメリカ人」でありながら、「非アメリカ人」でもある。
その絶妙なバランスがこの映画の独特のアンバランスさを演出する。
真剣に生きている彼らはどこか喜劇めいている。
その二重性がこの映画のすべてだ。

華やかそうなアメリカの光と影を、見事に切り取ったわけだ。
非常にスパイシーな喜劇だが、それが(少し前の)アメリカの現実でもある。
ちょっとアメリカに行きたいと思う気持ちが減退した……。

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