評価点:74点/2010年/フランス/85分
監督・脚本:フレッド・カヴァイエ
やっぱりフランスって怖い国ですなぁ。
もうすぐ正看護師の試験があるサミュエル(ジル・ルルーシュ)は、父親になろうとしていた。
そんなとき、担当の患者に交通事故で運ばれてきた身元不明の男性がいた。
夜勤で他の患者を診ていると、見知らぬ男が医者の格好をしてその男性患者の呼吸器を切断したのを目撃する。
なんとか一命をとりとめたが、翌日、自宅に何者かが押し入り、妻ナディアを誘拐する。
目覚めたサミュエルにかかってきた電話で、「あの患者を外へ連れ出せ。そうすれば妻を無事帰す」
意味も分からず、サミュエルは患者を連れ出そうとするが……。
同じ頃、この患者が指名手配中の凶悪犯のサルテ(ロシュディ・ゼム)だと警察がつきとめる。
「海洋天堂」だけではもったいないので、もう一作品観ることにした。
それがこの作品である。
監督フレッド・カヴァイエの「すべて彼女のために」は残念ながら観ていない。
ちなみに、「すべて彼女のために」はラッセル・クロウ主演でハリウッドリメイクされている。
こちらももうすぐ公開になるはずだ。
チェックせねば。
ジェット・リー同様、こちらも急に観ることにしたので、ほとんど前評判なしに鑑賞した。
短い作品で、非常にまとまっている。
アクションとしても、よくできた作品だ。
機会があるなら、是非劇場でご覧下さい。
「それなりに」楽しめることは間違いない。
▼以下はネタバレあり▼
「96時間」や「スズメバチ」を観ているような、引き込まれるような設定である。
フランスならありえるのかもしれないが、日本では絶対にありえないだろう。
ありえない状態をいかにありえる状態に見せるのか、その手法はすばらしいものがある。
話が始まって30分ほどで話の全容が判明する。
それがいかにもややこしい。
警察が裏で取引していた組織にはめられた、強盗殺人の指名手配のサルテ。
その裏切りに気付いたサルテたち一味が、彼を助けるためにサミュエルを使う。
サミュエルの妻ナディアを誘拐したことが、警察につかまれてしまい、妻はさらに誘拐されてしまう。
サミュエルは、サルテを攻めることもできないし、警察には指名手配犯を誘拐した罪で追われてしまう。
目の前にいた唯一味方になってくれそうだった女刑事はあっさり殺されてしまう。
裏組織だけではなく、警察の癒着、そしてそれを正そうとするせめぎあいもある。
そんなことはまるで関係がないサミュエルにとっては、まさに八方塞、袋小路である。
ただ誘拐された妻を救い出すために動いただけなのに、サミュエルは裏組織の間に板ばさみになってしまうのだ。
誰でも巻き込まれてしまうかもしれない、と思わせるのに十分なのは、彼のキャラクター設定が極めて平凡だからだ。
妻が妊娠中で、これから正看護士を目指そうという明るい未来を歩もうとしている男。
彼の人柄は、サルテとともに行動するようになって、随所に現れる。
脅した敵の下っ端を「殺さないでくれ」と頼むのだ。
暴力とは正反対の、病院で勤めている彼にとって、人が死ぬということはたとえどんな人間であっても耐え難い出来事なのだ。
そのことが、タイトル「この愛のために撃て」に繋がっていく。
愛する人のために、敵を倒すことができるか。
その意味では、この映画も「127時間」同様、男の変身の物語である。
多くの人間にとって暴力は非日常である。
その嫌悪を観客と共に抱けるサミュエルは、主人公として十分な資格がある。
この非日常的な状況に翻弄される彼は、まさに僕たちが巻き込まれうるかもしれないという説得力を生み出す。
この映画には社会的な視座も見え隠れする。
正義とは何か、人間らしさとは何か。
癒着していた刑事のヴェルネールには、微塵も人間らしさは無い。
けれども、指名手配犯とされていたサルテには寡黙ながらも人間性が見え隠れする。
弟を思いやり、仲間を動かし、悪事を暴く。
彼の人間性が魅力的であることは、警察へのテロ活動に、周りの人間が賛同してくれているということで十分伝わる。
サミュエルには全く理解できていなかったが、彼は各地を回り、警察が混乱するように同時多発的な事件を起こすように頼み込んだのだ。
そのリスクの大きい頼みに対して、周りは快く請け負っている。
だから、警察に侵入するという途方も無い計画が実現するのだ。
また、弟の復讐のために、出所したヴェルネールを殺してしまうという粘り強さももっている。
彼はほとんど自分の考え方や生き方を観客に示してくれないが、彼がいかなる人間なのか、十分つかむことができる。
このサルテのキャラクター設定は、社会的な視座を象徴する。
フランスでは大きな組織に属している人間は信じられないのだ。
警察も裏組織と癒着しているし、有力者もまたしかり。
人間性のある地べたを這いつくばって生きるサミュエルやサルテと汚職刑事たちの対比が見事である。
そこには思想があるといってもいい。
だから、彼らの行動に感情移入し、また何を愛して、何を憎むべきなのか、観ている方は気持ちがいい。
愛する人が危機に陥ったとき、果たして引き金を引けるだろうか。
非日常的で、かつ日常的な問いである。
監督・脚本:フレッド・カヴァイエ
やっぱりフランスって怖い国ですなぁ。
もうすぐ正看護師の試験があるサミュエル(ジル・ルルーシュ)は、父親になろうとしていた。
そんなとき、担当の患者に交通事故で運ばれてきた身元不明の男性がいた。
夜勤で他の患者を診ていると、見知らぬ男が医者の格好をしてその男性患者の呼吸器を切断したのを目撃する。
なんとか一命をとりとめたが、翌日、自宅に何者かが押し入り、妻ナディアを誘拐する。
目覚めたサミュエルにかかってきた電話で、「あの患者を外へ連れ出せ。そうすれば妻を無事帰す」
意味も分からず、サミュエルは患者を連れ出そうとするが……。
同じ頃、この患者が指名手配中の凶悪犯のサルテ(ロシュディ・ゼム)だと警察がつきとめる。
「海洋天堂」だけではもったいないので、もう一作品観ることにした。
それがこの作品である。
監督フレッド・カヴァイエの「すべて彼女のために」は残念ながら観ていない。
ちなみに、「すべて彼女のために」はラッセル・クロウ主演でハリウッドリメイクされている。
こちらももうすぐ公開になるはずだ。
チェックせねば。
ジェット・リー同様、こちらも急に観ることにしたので、ほとんど前評判なしに鑑賞した。
短い作品で、非常にまとまっている。
アクションとしても、よくできた作品だ。
機会があるなら、是非劇場でご覧下さい。
「それなりに」楽しめることは間違いない。
▼以下はネタバレあり▼
「96時間」や「スズメバチ」を観ているような、引き込まれるような設定である。
フランスならありえるのかもしれないが、日本では絶対にありえないだろう。
ありえない状態をいかにありえる状態に見せるのか、その手法はすばらしいものがある。
話が始まって30分ほどで話の全容が判明する。
それがいかにもややこしい。
警察が裏で取引していた組織にはめられた、強盗殺人の指名手配のサルテ。
その裏切りに気付いたサルテたち一味が、彼を助けるためにサミュエルを使う。
サミュエルの妻ナディアを誘拐したことが、警察につかまれてしまい、妻はさらに誘拐されてしまう。
サミュエルは、サルテを攻めることもできないし、警察には指名手配犯を誘拐した罪で追われてしまう。
目の前にいた唯一味方になってくれそうだった女刑事はあっさり殺されてしまう。
裏組織だけではなく、警察の癒着、そしてそれを正そうとするせめぎあいもある。
そんなことはまるで関係がないサミュエルにとっては、まさに八方塞、袋小路である。
ただ誘拐された妻を救い出すために動いただけなのに、サミュエルは裏組織の間に板ばさみになってしまうのだ。
誰でも巻き込まれてしまうかもしれない、と思わせるのに十分なのは、彼のキャラクター設定が極めて平凡だからだ。
妻が妊娠中で、これから正看護士を目指そうという明るい未来を歩もうとしている男。
彼の人柄は、サルテとともに行動するようになって、随所に現れる。
脅した敵の下っ端を「殺さないでくれ」と頼むのだ。
暴力とは正反対の、病院で勤めている彼にとって、人が死ぬということはたとえどんな人間であっても耐え難い出来事なのだ。
そのことが、タイトル「この愛のために撃て」に繋がっていく。
愛する人のために、敵を倒すことができるか。
その意味では、この映画も「127時間」同様、男の変身の物語である。
多くの人間にとって暴力は非日常である。
その嫌悪を観客と共に抱けるサミュエルは、主人公として十分な資格がある。
この非日常的な状況に翻弄される彼は、まさに僕たちが巻き込まれうるかもしれないという説得力を生み出す。
この映画には社会的な視座も見え隠れする。
正義とは何か、人間らしさとは何か。
癒着していた刑事のヴェルネールには、微塵も人間らしさは無い。
けれども、指名手配犯とされていたサルテには寡黙ながらも人間性が見え隠れする。
弟を思いやり、仲間を動かし、悪事を暴く。
彼の人間性が魅力的であることは、警察へのテロ活動に、周りの人間が賛同してくれているということで十分伝わる。
サミュエルには全く理解できていなかったが、彼は各地を回り、警察が混乱するように同時多発的な事件を起こすように頼み込んだのだ。
そのリスクの大きい頼みに対して、周りは快く請け負っている。
だから、警察に侵入するという途方も無い計画が実現するのだ。
また、弟の復讐のために、出所したヴェルネールを殺してしまうという粘り強さももっている。
彼はほとんど自分の考え方や生き方を観客に示してくれないが、彼がいかなる人間なのか、十分つかむことができる。
このサルテのキャラクター設定は、社会的な視座を象徴する。
フランスでは大きな組織に属している人間は信じられないのだ。
警察も裏組織と癒着しているし、有力者もまたしかり。
人間性のある地べたを這いつくばって生きるサミュエルやサルテと汚職刑事たちの対比が見事である。
そこには思想があるといってもいい。
だから、彼らの行動に感情移入し、また何を愛して、何を憎むべきなのか、観ている方は気持ちがいい。
愛する人が危機に陥ったとき、果たして引き金を引けるだろうか。
非日常的で、かつ日常的な問いである。
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