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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

サイレン(V)

2009-11-29 13:29:30 | 映画(さ)
評価点:32点/2006年/日本

監督:堤幸彦

収束できない無理な伏線の「投げっぱなし」。

夜美島は、29年前に島民が一人をのぞいて全員が失踪するという事件が起きた。
重病をもつ弟の為に、親子三人はこの夜美島にやってきた。
隣の住人から「サイレンが鳴ったら家を出てはいけない」と忠告される。
姉の天本由貴(市川由衣)はこの村の異常性に気づき始めるが……。

テレビゲームが原作で、映画化されたという先駆的な作品だ。
これが話題になったために、さらにゲームも再燃するという商業的には成功した作品だと言える。
CMがあまりにも怖いので別バージョンになってしまったことでも、有名になり、ホラー映画としては美味しい展開になった。

友達に勧められて、普通の「ホラー映画」じゃないから! と言われて観ることにした。
もともと、こういうホラー映画自体が好きでないし、日本映画もあまり観ないので、僕にとってはかなり頑張ったと思う。
昼間(むしろ朝)みたこともあって、ホラー映画を鑑賞するには適切なテンションではなかったかもしれない。

ちなみに、この映画の監督堤さんは「恋愛写真」の監督。
なるほどね、という感じですね。
 
▼以下はネタバレあり▼

最近のホラーは、海外でも日本でも、ちょっと行き詰まった感がある。
特に日本では「売れる」ジャンルであるため、マンネリ化しやすく、新たな方向性を見出さないとやっていけいない状態にある。
あの手この手で怖がらせようという映画の乱発の状況を見ていると、少しかわいそうになる。
もっと王道で作った方が、僕としては建設的だと思うし、監督の技量もアップすると思うのだが、やっぱり観客は変な作品が観たいようだ。

結論から言って、この映画は駄作である。
実験的であるとは言えるし、頑張った感はあるが、残念ながら、企画倒れだし、完成度は低い。
アイデアに対して、それを上手く処理するだけの器量がない。
器量がないのか、時間がないのか、予算がないのか知らないが、残念な映画になりさがっている。

簡単に言えば、「シックス・センス」であり、「アザーズ」である。
この二つの作品を見た人なら、きっと僕の意図するところは酌んでくれるはずだ。
要するにどんでん返し系、ミスディレクション系のホラー映画なのだ。
もうこれを読んでいる人に観ていない人はいないだろうから明かしてしまうと、オチは、「実は由貴の幻想でした」という夢オチの変型である。
夢オチが悪いとか、そういう言い方はよそう。
無駄な議論だし、問題はそのオチへの展開が面白いかどうかという一点のみだ。
こういったミスディレクションの映画は、オチの衝撃度は、それまでの導き方によって大きく成否が別れるものだ。
この映画はその導き方、ミスリードの方法が練られていないだけの話だ。

批判だけしていても仕方がないので、映画の話を具体的に考えていくことにする。
夜美島という島は1976年に島民が一斉に失踪するという謎の島である。
そこの三人の親子が弟の静養のために訪れる。
もちろん、これは島という閉鎖環境へ導くための設定だ。
島は(いかにもチープなセットなのだけれど)様々な人種が訪れ、住み着いたという日本と言うには少し奇妙な世界が広がっている。
この島には「サイレンが鳴ると外出してはいけない」という迷信がある。
だが、この警告の面白い点は、「外出したらどうなるのか」という、リスクの面は一切誰も口にしない。
なぜ出てはいけないのか、出たらどうなるのか、というルールがないので、妙な恐怖感を覚えさせる。

森本レオが扮する父親は、この奇妙な島を取材することも一つの目的だった。
島民が恐れる場所をあえて訪れ、29年前の真相を記事にするつもりだった。
だが物語中盤になると、その父親が失踪するという事件が起こる。
このあたりから一気に物語がホラーの様式を帯びていくことになる。

オチをもう一度説明しておく。
由貴の弟英夫の静養のためにこの島に来たと思っていたが、実は英夫を亡くしたことをショックに思った由貴の静養のために、この島を訪れていたのだ。
島民が奇妙な目で彼女を見つめていたのは「居もしない弟」に対して、まるでいるかのように振る舞っていたからだった。

そして、サイレンが鳴ると外に出てはいけない理由は、29年前サイレンが鳴ったと言った一人の島民がいきなり他の島民を皆殺しにした、という事件があったからだった。
総合失調症になった島民を隔離するための言い伝えだったのだ。
つまり、サイレンが聞こえた人は、村人を再び殺すような事件を起こすのではないか、というおそれからの掟だったのだ。

弟を亡くしたことを認めたくない由貴は、精神的に異常を来し、サイレンが聞こえるような幻聴を聞く。
29年前の事件を知ると、それとサイレンとを結びつけ、さらに恐怖に陥っていった。
父親の死体を見たのも、弟の死を乗り越えられないことからくる、一種の逃げだったのだ。
おそらく、サイレンが鳴るというのは、元々心的ストレスを感じていた由貴が、
他の島民から警告を聞くことで、さらに恐怖に陥り、本当に聞こえるように錯覚していったのだろう。
弟が死んでいるという伏線は、弟と他の人との直接的なやりとりが描かれないことだったのだ。

このように説明すれば、全てが説明できるように感じるが、このオチはその他のシーンとの整合性がとれない、不自然なオチになっている。
例えば、あの父親が撮っていたビデオ。
父親は誰かに襲われたのか、ただ足を踏み外しただけなのか。
赤いマントをかぶった少女はどういう説明が可能なのか。
家の隠し部屋にあった写真は幻想なのか。
幻想ではないなら何なのか。
島民がいきなり居なくなったあのシークエンスは、どう説明するのか。
(他の島民にはサイレンが聞こえていないのなら、居なくなる理由がない)
鉄塔に何かある、という意味合いは何か。
途中で出てくる小汚い男は何者なのか。
島民たちのあの集会は一体なんだったのか。

そもそも、どこまでが彼女の幻想で、どこまでが現実なのか、見終わっても線が引けない。
だから、すごく都合の良い映画になってしまっている。
都合が良い映画は、クビを傾げるだけで、結局、カタルシスは得られない。

この映画が厳しいのは、このオチをどう頑張っても読めないからだ。
読めないことは確かに映画としては成功しているのだが、読みようがない、その手立てさえ与えられないのは、やはりマイナスだ。
観客と監督(脚本?)とのせめぎ合い、勝負をして、なお、勝てない(読めない)という時にはじめて「やられた!」とカタルシスを覚えるはずだ。
一方的な、整合性のないオチを押しつけられても、面白いとは感じるはずもない。

それは、すべてのシーンとの整合性がとれていないことだけが理由ではない。
ミスディレクションの映画のキモは、観客に「間違ったオチ」に導くように話を展開させ、その後に意外なオチを見せること、なのだ。
いかに観客をミスリードしていくか、ということが、この手の映画では最も大事な要素なのだ。

例えば「シックス・センス」なら、「子どもを救うためにカウンセリングする男」に感動するようにミスリードしておきながら、実は「子どもに救われる悲しい死人」だったという事実を提示し、観客を唸らせたのだ。
だから、面白い。

だが、この映画はそのひっくりがえしをするための、「ひっくり返す嘘」がない。
だから映画として観客がひたすら「受身」の映画になってしまっているのだ。

アイデア勝負は間違いではないにしても、「アザーズ」の二番煎じと言われてもしかないようなオチを用意し、しかもそれが煮詰められていないとなると、観客は納得しないのではないだろうか。
僕はオチを知ったとき、「子役がまともな演技が出来ないからこのオチにしよう」とひらめいたのかと監督の苦悩を真剣に察した。

そもそも、ホラーとしても僕は怖いと思えなかった。


(2007/9/24執筆)

堤監督は何でも撮れる! ともてはやされているが、「20世紀少年」にしても、この作品にしても、全然「撮れて」いない気がするが、気のせいだろうか。
残念ながら、完成度はどれも低いと言わざるを得ない。
ただ、誰もいないから任せている、そんな「敗戦処理」投手にすぎないだろう。
日本には良い監督がすくないなぁ。

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2 コメント

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酷評も酷評 (おゆば)
2010-02-17 14:08:54
いや~
ひどい評価ですね

邦画ファンの私としては
「そこまで言わんでも」
と思ってしまいますが・・・

まあ、荒い部分を
さらしにさらされた感じですな
邦画好きには
受けが良かったのですが、
いやはや。

では
そんな管理人さんに
あらたな挑戦!
ちと前の作品ですが
三谷幸喜『マジック・アワー』!
これでどうだ!!

見てください。
返信する
邦画は全然観ていませんねえ。 (menfith)
2010-02-20 21:28:45
管理人のmenfithです。
お久しぶりです。おゆばさん。

邦画は全然観ていないことに気づきました。
いい映画を挙げろと言われても、なかなか…。
「マジックアワー」は少しだけ観たことがあります。
眠かったので、眠ってしまって全部は見ていませんが…。
また挑戦してみます…。

今年はとりあえず「踊る3」は惰性で見にいこうと思っていますが、果たして?
返信する

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