無意味な戦争が起す無意味な悲劇
タイトルのリダクデッドとは、「編集済み」を意味する言葉。
告訴に繋がり得る、「取り扱い注意」の情報が削除された文書や映像を指す。
刺激的な情報を文書、例えば兵士の手紙などから削除することを意味する法律用語。
12月26日、京都シネマにて鑑賞。最終日に何とか観れました。ブライアン・デ・パルマ監督の最新作です。イラクで実際に起こった衝撃の事件を元に製作されたこの「リダクデッド」の内容は、米兵による14歳の少女のレ○プ、そして彼女を含む家族4人惨殺事件ーその題材に、哀しみと怒りをもって戦争の残虐性を直視した問題作です。
2007年のヴェネチア国際映画祭に大きな衝撃を与え、賛否両論の嵐を巻き起こした末に何と、最優秀監督賞で銀獅子賞に輝いたということですが。何か嫌な気持ちが残りつつも、戦争に駆り出された米兵のイライラ、ストレス、不安感、恐怖が行き場のない状態の果てに罪もない人に向けられるということの恐ろしさが、ヒシヒシと伝わってきました。人間の精神状態が追い込まれると何をしでかすか?それをこの映画を鑑賞して感じました。
実はデ・パルマ監督は、1989年に「カジュアリティーズ」という作品で、ベトナム戦争での集団強○殺人事件を描いています。映像こそが、戦争を止めるという信念のもと9,11以降、主流と異なる意見が排除されがちな空気や圧力が蔓延するアメリカを相手に、新たな挑戦状を叩きつけたわけです。
イラクで何が起こっているのか、私たちは本当に知っているのだろうか?
実は、今もなお繰り返される嘆かわしく、残酷な戦争の実態を伝える以上に、メディアから届けられないもっと凄い事実があるということなのです。メディアの報道は、これでいいのか?ということなんですよね。
ドキュメンタリーを越えた、“リアル”
あらゆる映像を駆使したフィクションなドキュメンタリー
斬新な手法によって語られる。HDビデオによって撮影されたドキュメンタリーと複数のフィクション映像を組み合わせて“真実”となる映像作品に作り上げた。
映画の主となるのは、兵士のプライベートビデオの映像→兵士の日常であると同時に、悲惨な事件を引き起こすひとつの物語。
そしてその物語は、フランスのTVドキュメンタリー、アラブ系TV、ヨーロッパのTVニュース、従軍記者の取材映像素材、武装集団によるネット映像、YOU Tube、兵士の家族のチャット、軍の監視カメラの映像等々・・・・・。
と色々な映像が、目が回るように映し出される。ころころと・・・・・。兵士とともに、戦場にいるような気分になる。突然兵士が捨てられたイスに座ったところ、ドッカーンと爆発!これは観ている観客はかなり驚き!!心臓に悪い。強○シーンも目を背けたくなるくらい酷いし、むかっ!腹だたしい!兵士の顔を見るとむしょうに怒りが込上げる。まるで本当のように思えてくるが、実はすべて役者さんの演技で、フィクションということなんだ。このリアルさには観客も自分が迫られてくる気分になる。
娘の家に押し入り・・・・襲うことを計画、いよいよ実行する兵士たち。
犠牲となった少女と母親。
兵士たちは何故?誤った行動を起すに至ったのか?覗き見する感覚で、彼らそして被害者たちの地獄を共にする。う~ん気分が滅入る映像である。
戦争よりも恐ろしいこと、それは真実のリダクデッド(削除編集)である。
パルマ監督は、「イラクではマス・メディアは広告塔に成り下がった」と嘆く。実際のレ○プ殺人事件は、やがて明るみに出て、アメリカ国内外で報道されたものの、この事件がはらむ真の地獄や映像、この事件にとどまらぬイラクの惨状は、マス・メディアの報道では伝わっていない。
本作のラストでは、戦争で殺され、傷つけられたイラクの民間人たちの本物の写真が何枚も映し出される。黒く塗りつぶされた彼らの目は、訴訟を回避するために映画会社が、パルマ監督に強制したものだそうだ。結局この作品のなかでも、リダクデッド(削除編集)なんだね。そのことに、監督は憤りを感じ、訴えている。表現方法やイメージによって、観る側の思想や意見がいかに影響されるかという新たな問題も生み出してくる。なるほど!そうだろうね。戦争の現実を何とか伝えたいパルマ監督の思いが、私なりに受け止めているつもりだが・・・・。真実の全てを把握しているわけではない。でも闇に葬られた真実はまだ多くあるに違いない。
イスラエルのガザ地区での惨劇がまた起こっている。300人近い人たちがまた犠牲となってしまった。メディアで知った事実はこれだけですね。何か知らない真実があることでしょう。
キャラクターのリアルさ
パルマ監督がイメージしたキャラはいずれもリアルだ。凶暴性を秘めたフレーク、弁護士の職を持つ良識家のマッコイ、ハリウッドを夢見るサラサール、興味は「ファ○○」のラッシュ、文学青年のゲイブ・・・・。お顔を見る限りでは馴染みのない役者さん。何でも長編映画出演経験がほとんどない若手の俳優さんたちばかり。でも自然な演技で凄いなあと思った。
検問を振り切ったために、撃ち殺された妊婦。産院へ急いでいただけなのに。何故?殺さなければいけないのか!
フレークが撃ち殺したのだ。取材で彼はこう答えた「任務を遂行しただけさ。人を殺したら、ビビると思った。でも魚を殺した程度だ」 この言葉には背筋がぞっとした。
兵士の魂を腐敗させる戦争、罪なき人々の命を軽視する戦争への怒りに満ちている。そして何より深い哀しみを感じさせるのは、イラクの被害者たちの声なき声。
あらすじ
戦場でビデオ・ダイアリーを撮影して映画学校へ入学するという目論みからイラクの兵役に志願したサラサール。任務地が検問所のため、戦場でも撮る気の彼にとって、大した映像が撮れないことに不満を感じている。検問所の兵士は、自爆テロや狙撃の格好の標的だ。暑さの中、装備の重みと緊張の中の退屈に耐えながら立ち続ける。駐留の終わりは見えず、新たな作戦に参加することも、帰国することもできない。ある夜、“戦争遂行に役立つ証拠”捜索の名目で一軒の家に踏み込み、無抵抗の男を逮捕した。その男の娘に目をつけた兵士は、検問所を通過する少女の身体チェックに入念になる。ある日、少女の家に押し入ることを決め、それを撮影したいとの欲望からサラサールも同行することになり…。(goo映画より)
監督:ブライアン・デ・パルマ
オフィシャル・サイト
http://www.redactedmovie.com/ (英語)
オフィシャル・サイト
http://www.cinemacafe.net/official/redacted/(日本)
※戦争は人間の心を腐敗させる。そして罪なき人の命まで奪う・・・・・。