その嘘は、罪ですか。
笑福亭鶴瓶主演、あの「ゆれる」の西川美和監督が撮った最新作「ディア・ドクター」をようやく鑑賞してきました。
鶴瓶は落語家ですが、タレントとしてのイメージが強いという印象があります。そんな彼が映画に主演で登場ということだったので、どのような感じなのか?興味もありました。また西川監督が自らオファーしたという経緯もあるらしいので、どのように仕上がった作品なのだろと気になるところ・・・・・。
1ヶ月前から上映開始されたのですが、連日満員で立ち見も出るという盛況ぶり。いまだに多くのお客さんで混んでいるようです。場所によったら、シネコンで上映されているようですが。こちらではミニシアターなので、大きいシアターで100人ちょいです。
前置きが長くなりましたが、お話を紹介していきます。
STORY
8月の下旬、夏の終わりのある日ーーーー。
山あいの小さな村から、一人の医師が突然いなくなる。夕方、診療所を出て行ってそれ以来、誰もその姿を目にするものはなかった。村のはずれの坂道で脱ぎ捨てられていた白衣が見つかる。先生がいなくなったということで、村中は騒然となる。
やがてベテランの刑事が2人、県警から派遣されて来る。
刑事役にはこのお二人。
波多野巡査部長(松重豊)左、岡安警部補(岩松了)
三木監督作品などでお馴染の方々・・・・。
失踪原因は一体何なのか?医師伊野の身辺を洗い出すことになる。
そしてこの失踪前の約2か月前の話にさかのぼって物語は展開していくのである。
7月初旬ーーー。
東京の医大を出たばかりの相馬が、研修地神和田村に向かって赤い外車を走らせていた。棚田一色の村には、コンビニなんて見当たらない。とりあえず研修を無事に終わらし、早く都会に戻ることだけを考えていた。その時、二人乗りの原付バイクが視界に飛び込んできた!気がつくと相馬はベッドの上に寝かされていた。隣室で中年医師が、老人の診察をしている。慌てている相馬に男は「伊野でございます」と微笑む。関西弁に掴みどころのない感じ。傍らでは看護師の大竹がテキパキと動いている。いよいよ相馬にとって未経験の生活が始まる。
診察。薬の処方、ひとり暮らしの老人の健康管理。伊野は村の診療所ですべてを一手に引き受けていた。とどまることのない患者の相手、急患があれば夜中でも飛んでいく。「無医村だった村に、私があの人を連れて来た」と自慢する村長。
村人に頼りにされている伊野と働くうちに次第に都会では味わったことのない充実感を覚える相馬。
8月下旬、医師失踪から数日後ーーーー。
調べれば調べるほど、伊野の経歴からは不審な点ばかり浮かびあがって来る。履歴書に記された親元も不通。在籍した過去の病院も偽りのよう。村の誰もが伊野のことをちゃんと知っている者はいない。皆が神様のように崇拝している。刑事たちは疑念が広がっていく・・・・。
7月下旬、研修期間から約1カ月ーーーー。
ある日、鳥飼かづ子という未亡人が倒れたところに伊野たちは駆けつける。胃痛持ちの彼女は診療所に一度も訪れたことはなかった。末娘が東京で医者をしているということだが、どこか医者を避けているように見える。診察をして様子がおかしいと気づく伊野だったが、あっさりその場を去る。去り際に愛用のペンライトをそっと戸棚の下に潜らせる。
忘れ物をしたと再び訪れる伊野。娘さんが病気を知っているか?と探りをいれるも、かづ子は、「何もしなくていいですから」と呟く。数年前に主人を看取ったかづ子は娘たちに同じ負担はかけたくないと思っていた。そして一緒に嘘をついて欲しいと頼む。伊野は病状を隠さず診せるならばという条件のもとで引き受ける。数日後、かづ子は診療所に訪れる。大竹や相馬を外出させて、検査室で胃カメラをする。
その後、激しい雨となり、土砂崩れに巻き込まれた作業員が診療所に運び込まれて来る。骨折を疑った伊野がレントゲンを撮ろうとした矢先、怪我人はいきなり苦しみ始める。なすすべなく立ちすくむ伊野。かって救急病院で働いたことがある大竹は肺が破れて空気が溜まり心臓や大動脈を押し潰す「緊張性気胸」を疑う。その処置は、胸に針を刺して脱気しなければ長くは持たないと伊野に迫る。
このシーンは凄く緊迫感があった。鶴瓶演じる伊野と余貴美子が演じる大竹の表情に注目!
相馬に気づかれないように、こっそり身振りで針を突くポイントを示す。大竹の功が奏し男は一命を取り止めた。
鶴瓶と仲良しの中村勘三郎が医師役で登場。
搬送先の病院で判断を絶賛された伊野を男の家族が取り囲む。相馬は熱い眼差しで見つめる。
8月中旬、お盆近くーーーー。
伊野は、夜になると診療所を抜け出し、点滴を持ってかづ子の家を訪ねる。検査の結果はすでに手元に届いていた。玄関先で伊野を見送る際、ひどい吐き気に襲われる。駆け戻って背中をさする伊野に、かづ子は娘が来るので、何とかしてほしいと訴える。
診療所に出入りする薬問屋の営業マンの斎門に取引を持ちかけ、ノルマに協力するかわりに胃カメラを飲ませて治りかけの胃潰瘍を撮影する。
撮影する行為になぜそれを使うのかは聞かないが。とぼけた口調で人の足下を見る斎門は伊野の秘密を知っているような?
微妙な二人の関係が何か気になる。利害と秘密が絡まっているようだね。
やがて鳥飼家に娘たちが帰省してくる。医師で末娘のりつ子は台所に棄てられた薬の殻を見つけ薬品名を読み表情が曇りだした。
鳥飼りつ子役(井川遥)
その頃、相馬は、研修期間をすべて終了したら来春からここへ来たいと決意を話す。「俺はこの村が好きでいるのと違う、ずるずる居残ってしまっただけや」と話すが、相馬はここの村の人たちに感謝されていると言って取り合わない。伊野の口から漏れた「俺はニセモンや・・・」という言葉も相馬にはうまく伝わらない。
8月下旬、夏の終わりーーーー。
りつ子が伊野のもとを訪ねて来た。示された胃カメラの画像を食い入るように見つめ、胃潰瘍にしては症状が長引きすぎるのではと?厳しく問いただす。懸命に説明する伊野。やがて自分なりに納得した彼女は失礼を詫び、父のとき、自分が早く気付かなかったことを後悔していると話す。帰省が1年先になることを告げ、母の事を頼む姿に、伊野は「すぐに戻りますから」と言い残し、せき立てられるように原付バイクに飛び乗り、診療所を後にする。そしてそのまま二度と戻らなかった。
鳥飼かづ子役(八千草薫)
伊野はかづ子に何をどのように伝えたかったのか・・・・。
娘りつ子の思いを聞いて、真実を伝えることが大事だと痛感したのかもしれない。
9月初旬、医師失踪から9日目ーーーー。
刑事たちは、伊野の消息を追い続けている。伊野を頼りにしていた村人たちの間にも、彼の記憶は急速に薄れつつあった。診療所は閉鎖。相馬は次の赴任先へと去った。
かづ子はいま、りつ子の勤務する病院に入院。いまだ、母親には本当の病名を告げられないままだった。あのとき、伊野を訪ねかったら、母はどんな風に見届けたのだろう。時々そんなことを考えるりつ子だった。事情聴取に訪れた刑事に「もし捕まえたら、聞いておいてください」そう言って足早に職場に戻るりつ子。
ラストはやっぱりこの二人は縁があるのか?と思うような場面で締めくくられます。
斎門正芳(香川照之)
前作「ゆれる」に続き今回も登場。脇役だけど、鶴瓶との絡みが何とも絶妙。
看護師大竹朱美役(余貴美子)
伊野を支える看護師大竹役がこれまたハマっていた。彼女も伊野の秘密を知っていたような・・・・。
研修医相馬啓介役(瑛太)
西川美和監督、原作・脚本・監督の3つをこなす。凄い!!
高齢化が進む時代背景をテーマに作られた西川監督最新作「ディア・ドクター」。テーマは重いけど、これがそんな重さを感じさせず、だけど何が大事なのかをしっかり押さえているところが素晴らしい。昨今医療現場でのミスや医者が組織絡みで儲け主義に走るという酷いことも聞くしね。明るい話が少ない。弱者の味方にならなきゃいけない医療従事者だからこそ、もっと患者の言葉に耳を傾けたり、心のよりどころになって欲しいものだ。伊野は確かに罪を犯したけど、これだけ人間性のいい医者は多分いないだろうとし・・・・。技術や専門性も大事だけれど、患者の心に近づくって本当に大事なことだと思う。
鶴瓶を起用した西川監督の冒険は成功だろう。実はこの役を誰にお願いしたらと悩まれたようです。伊野というキャラが決して強烈に個性のある人物ないだけに、キャスティングするにあたって誰が良いか?そんなときに考えたのが逆の発想。鶴瓶師匠は、日本で最も顔を知られた方、どこに行ってもその場を和ませることのできる才能をもちつつも人間の中に潜む不可解さも表現できるという誰もが認める本物の芸人。撮影が進むにつれ、伊野という男のあり方をいつのまにか取り込んだと。
正直、鶴瓶師匠が主演と聞いたときはえぇ~?と思いましたが。鑑賞したら鶴瓶のキャラは何処かに行ってしまったという感じでした。
メディア | 映画 |
上映時間 | 127分 |
製作国 | 日本 |
公開情報 | 劇場公開(エンジンフィルム=アスミック・エース) |
初公開年月 | 2009/06/27 |
ジャンル | ドラマ |
鶴瓶師匠、さすがです
オフィシャル・サイト
http://www.deardoctor.jp/
追記:棚田の緑の穂が風に揺れて、模様のように動く映像がとてもいい。ビジュアル的な撮影が上手いなあと思いました。美しいです