障害者差別解消法は、2015年に施行されましたが、民間の事業者に対しては、「合理的配慮」を行うことは、努力義務にとどまっていました。
「合理的配慮」とは、障害者の活動が制限される社会的な障壁(バリア)があった場合、本人から申し出があれば、負担が重すぎない範囲で事業者側が配慮を行うというものです。
ところが、今年の4月に改正され施行された法律では、民間事業者に障害者への合理的配慮の提供を努力義務ではなく、実行を義務づけることになったのです。
これが、合理的配慮を提供すべきという考えでは、車いすの人が入店してラーメンを食べるうえでの配慮が、とくに店側にあまり負担をかけないならない程度なら、断ることは法律違反になるのです。
法改正の前から、事業者側から「何をしていいかわからない」ととまどいの声が多くありました。
そして今年に入り、車いす利用者の介助を巡る映画館でのトラブルがSNSで炎上するトラブルがありました。
各企業は対応を誤り、ネガティブな評判を受けることをとても危惧しているというのが現状です。
しかし、改正法の考え方では、事業者側に「過重な負担」が生じる場合は合理的配慮の提供義務が除外されます。当事者からの申し出にすべて応じる義務があるわけではないのです。
もちろんそれを盾に、すべて合理的配慮が不要としてしまうのは問題外です。
障害者に対する差別解消の理念を理解した上で、できること、できないことを明確に示す姿勢が求められます。
ところが、現状では検討が進んでいない企業が多いようです。
そうなると、できる・できないの線引きの基準はないのかという疑問が浮かびます。
しかし、事業者の財務状況や人的な資源はそれぞれ違うので、政府がはっきりと基準を示せるようなものではありません。
今後は、同業の他社の動向を見て「あそこがここまでやっているなら、うちでもできそう」という合意が徐々にできるのだと思われます。
事業者ができること、できないことを整理するには、障害者のニーズをくみ取り、よく対話をする必要があります。
障害者は配慮が足りないと思っても、あきらめて主張をしないことが多いという傾向も現状ではあります。
声を上げるべきです。事業者も対応できない時は、はっきりと伝えるべきです。
互いの立場を話し合うことで、合意形成が見えてくると思います。
国内には1000万人近い障害者がいます。さらに、障害がない人でも、高齢になれば、からだの機能が低下し、企業に求める対応が障害者と重なってきます。
そのように考えると、障害者にとって住みやすい社会の実現は、どの人にとっても暮らしやすい社会です。
そうした人々への配慮ができる事業者は、価値のある事業者として、模範として君臨できるという可能性があります。
そのような発想で、可能な合理的配慮の提供に取り組んでほしいと願います。