私の校長在任中に中学2年生の職場体験学習について、学級担任から相談を受けました。
クラスの女子生徒が、どうしても左官の仕事を体験したいと言います。
そのような事業所や職場は知らないのでなんとかなりませんか。
そのような学級担任からの相談でした。
左官の仕事を体験したいという生徒は珍しいですし、女子生徒のたっての希望でしたので、わたしはなんとか体験が実現するよう腐心しました。
自分が学級担任をしていたときの生徒の保護者が建築業をされていたのを思い出し、頼み込むとOKの返事をもらうことができまさした。
職場体験の日にわたしも、体験先を訪問して左官体験の様子を見にいきました。
付いてくれている指導の左官が驚くほど、その女子生徒は壁塗りに集中していました。
「はじめてにしては、とてもうまいです。女の子の丁寧で細やかな手つきは、男の私とはちがう味が出せると驚いているのです。
お引き受けしてよかったです。」
そのような評価の声をいただきました。
さて、左官職人は全盛期には全国で30万人ほどいたそうですが、現在では6万人ほどに減ったと言われています。
安いビニール製壁材が普及してきて、左官の仕事が減ってきています。
また、伝統的に「技術は見て覚えろ」式の育成方法に若い人がついてられないことも大きいのです。
そして、平均年齢60歳以上となる高齢化がますます進むという悪循環に陥っているのです。
男性の左官職人の育成も急務ですが、女性職人の育成も広げていくべきです。
壁を一気に塗りあげる体力は必要ですが、女性職人が現場に出ると、デザイン性や織細さ、綿密さなどが発揮され、立派な壁がてきあがるのです。
最近では数は多くないですが、造園業や出版業、製造業などの異業界から転職を希望する女性がやってきています。
自分の仕事が形になって残るという魅力がありますし、画一的な工業製品があふれる中で、ひとつひとつがオリジナルな左官の仕事には、人々を引きつける魅力があるのです。
左官職人の若手が育たないのは本人の責任とはいえないでしょう。
やる気と意欲があり、見習工になっても、1年ほどは材料の運搬や片付けといった下働きが多いのです。
鏝(こて)を持つ機会がほとんどなく、技術の習得も先輩職人の仕事ぶりを観察するのが主で、たまに先輩職人の手があいた時に、少しだけ鰻を握らせてもらうということが多いのです。
そのような職人の育て方は、今の若い世代には通用しません。
若手職人を育てるために、見習いのうちからどんどん壁を塗る経験を積むことで、次世代の左官職人が育っていきます。