箕面三中第42期生は、きのう立派に卒業していきました。
校長式辞を箕面三中ホームページの「校長から」のページに載せていますが、校長ブログでも紹介します。
第42回卒業式校長式辞
厳しかった冬の寒さがようやくゆるみ、箕面の野山も少しずつ明るい色に染まりだしました。ここ瀬川の地でも、校庭の木々が芽吹く瞬間をいまか、いまかと待ち望んでいます。小雨が優しくつぼみを打つこのよき日に、第42期生192名が、箕面三中を巣立っていく時がやってきました。
卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。
「しっかりと歩んでいってください」と、一人ひとりに思いを込めて、さきほど卒業証書をお渡ししました。
ご来賓のみなさま、本日はお忙しい中、大橋箕面市教育委員様をはじめ、たくさんのみなさま、地域の方々が、このように早朝よりお越しいただきました。卒業生の晴れの門出を祝うため駆けつけてくださいまして、まことにありがとうございます。心よりお礼申しあげます。
保護者の皆様、お子さまのご卒業おめでとうございます。私たち教職員はお子様の自立に向けて、たゆまぬ支援に努めてきました。思春期まっただ中の心が揺れる三年間でした。子育てについて喜びも多かった反面、悩まれたこともあったでしょう。
しかし、今このように、豊かに大きく成長されたお子様の姿の陰には、子育てのご苦労とご努力が鮮やかに色づいています。きっと万感の思いでおられることと存じます。私からみなさんに最大のねぎらいと敬意を払います。お疲れさまでした。
さて、卒業生のみなさん、卒業するとき、よく言われる言葉に「目標をもって生きてください」があります。目標は大切です。ただし、目標だけがあって、目的がなければ、人は困難なことに出会うと、すぐ目標をあきらめてしまいます。
目標と目的は似ていますが、意味はまったく違います。目標は「○○にむかって」であり、目的は「○○のために」です。
みなさんに伝えます。
目標と同時に目的を持っていたら、それは人生を生きる、大きな力になります。このことを新田佳浩(にったよしひろ)さんというクロスカントリースキーの選手のエピソードが教えてくれています。
佳浩さんは岡山県の農村に生まれました。3歳の時、おじいちゃんが運転する農機具のコンバインに左手を巻き込まれました。そして左手の肘から先を失いました。
小学校に入ると、佳浩さんはクロスカントリースキーに夢中になりました。県大会で優勝するなど、活躍しました。ところが、中学校に入ると壁にぶつかりました。両手でストックを使う選手に勝てなくなったのです。挫折を感じ、佳浩さんは中三の時スキーをやめてしまいました。
その後、高校1年のとき、2年後に近づいた長野パラリンピックへの出場を勧められました。ビデオをみると、佳浩さんと同じ左手のないドイツの選手がものすごい速さで、見事にスキーをしていました。魅力的でした。佳浩さんはビデオに釘付けになりました。
そして、自分もやってみようと練習を重ね、長野パラリンピックで8位、ソルトレイクパラリンピックで銅メダルを取りました。4年後のトリノパラリンピックでは、金メダルが確実とまわりから思われていました。
しかし、トリノでは、競技中に考えられないようなアクシデントが、佳浩さんをおそいました。バランスを崩して転倒してしまったのです。片手なのですぐに起き上がれず、大失敗をしました。二度目の挫折でした。
大きなショックと失意の中、佳浩さんは家に戻り、引きこもってしまいました。家にはおじいちゃんがいました。自分の運転する農機具で、かわいい孫が片腕を失った。事故直後には、「この子と一緒にわしは死ぬ」と言っていました。じつはその後もおじいちゃんは、ずっとずっと、自分を責め続けてきたのでした。
佳浩さんはそんなおじいちゃんを見て、はっと気がつきました。そうだった。目的を見失っていた。目標はいつも「金メダル」でした。しかし何のための金メダルなのかを忘れていたのでした。金メダルを獲っておじいちゃんに掛けてあげ、「おじいちゃんは、おれにとって最高のおじいちゃんだよ」と言ってあげることが夢だったのです。
「目標は金メダル、目的はおじいちゃんのために」を胸に、再び立ち上がった佳浩選手は、4度めのバンクーバー大会に挑戦しました。29歳の時でした。そしてみごとに金メダルを獲得しました。すでに92歳にもなったおじいちゃんの首に、やっと金メダルをかけることができたのでした。
卒業生のみなさん、これから何かにチャレンジしようとするとき、困難なことにぶつかるかもしれません。見えない未来にくじけそうになることもあるでしょう。そのとき、あきらめないためにはどうすればいいのでしょうか。
新田佳浩さんの生き方から確信していることを、私はみなさんに伝えます。
「人は、誰かのためになら、あきらめることはない」。再度言います。「人は、誰かのためになら、あきらめることはない」。このフレーズを、みなさんへの、最後のはなむけの言葉として送ります。
さあ、卒業生のみなさん、卒業は出口ではなく入口です。みなさんの前途ある未来を心より祈っています。以上をもちまして、卒業式の校長式辞とさせていただきます。
平成28年(2016年)3月14日
箕面市立第三中学校 校長 主原 照昌
《新田佳浩さんのエピソードは、『子どもの心を揺るがすすごい人たち』(水谷もりひと著、ごま書房新社)から引用させてもらいました。》