子どもが私立高校に通う世帯へ支援金を出すにあたっての保護者の所得制限が2026年度から撤廃されます。また、支給額の上限を45万円程度に引き上げます。公立高校の場合は、2025年度から所得制限がなくなるのです。
これにより、高校生のいる家庭の経済的負担はもちろを軽くなります。
今では高校進学率が100%近くになっているなかで、家庭の経済事情にかかわらず進学先を選べる環境を整備する施策が必要だというのは、むろんわかります。
しかし、わたしはこの施策には疑問をもたざるをえません。それは、私立の進学校が集中する首都圏をはじめとする都市部では公立高校離れが進む可能性があるからです。
大阪府は歴史的にも公立高校志向が強い地域性がありました。
そこに、ここ10年間ほど全国に先立って私立高校の授業料無償化を進めてきました。
その結果、2024年には府立全日制高校の約半数が定員割れとなりました。このまま私立高校を選択する生徒が増えたなら、私立高校の財政が潤い、教育環境をさらに整備が進みます。
そして、公立高校と私立高校の差がさらに広がることが懸念されるのです。
大阪府の場合、今でも公立高校と私立高校の設備上の差は歴然としています。
たとえば私立高校の教室の扉はスチール製が当たり前ですが、公立高校の場合は木製の合板のはりあわせが残存している場合もあります。
そのようなことは、現場の教育関係者しか知らない場合が多々あるのです。
また、タブレットの導入についても、潤沢な財政の私立高校ではいち早く高価なiPadを採用しましたが、財産上の制限がある公立高校では価格が低めのAndroid版のタブレットの導入が多かったのです。
教育環境整備上の差がある中で、授業料無償化を進めていけば、生徒や保護者は私立高校進学を希望しても不思議ではありません。
このままいけば、大阪府で残るのは、歴史のある名門の超進学校だけになってしまうのではないかと思います。
さらに、所得制限の撤廃によっていちばん恩恵を受けるのは高所得層の保護者です。
無償化で浮いた費用を学習塾に回すことが加速され、経済格差は広がり、貧困層の富裕層の学力格差は今以上に広がります。
つまり、公立高校と私立高校を同列に扱い、授業料無償化という「大なたを振る」ことに問題があるのです。
学校教育関係者を交えて、議論を進めていくことなく、分野違いの現場の実態を知らない政治家が、保護者向けにウケのいい施策を考案しているように、わたしには思えます。
すべての子どもには等しく教育を受ける権利があるのが公教育の大原則です。
家計の負担軽減ばかりに焦点が当たり、教育の抱える問題を直視せずして、本当に必要な事業施策は見つからないのです。