キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

Bergkristall-水晶

2011-10-20 15:24:03 | 
              
Bergkristall. Grossdruck.
Adalbert Stifter
DTV Deutscher Taschenbuch
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水晶 他三篇―石さまざま (岩波文庫)
手塚 富雄,藤村 宏
岩波書店

          スイスから帰って来られた宣教師のジグリストさんんから、お土産のチョコ

          レートをいただいて、その連想からか、久しぶりにアーダルベルト・シュティ

          フターの「水晶」を読んでみたくなりました。もっとも、シュティフィターはス

          イス人ではなく、オーストリアの人ですが、彼の小説の舞台となる雪に閉

          ざされた小さな村々の日々の営みは、きっとスイスとよく似ているでしょう。

          

           高い山に囲まれた小さな村クシャイトの靴屋の息子は、若いころ放蕩をつく

          したが、山一つ超えた町の名家の一人娘を見初め、彼女を娶るために心機一

          転家業に精を出し、商売は徐々に上向き、ついには彼女をクシャイトに迎え

          入れる。やがてコンラートとザンナという二人の子供に恵まれる。ある年のク

          リスマスの前の日、二人は母親の実家の祖父母を訪ねた。山越えの難儀

          な道だが、それ以外に道はなく、二人はもう幾度となく自分たちだけで行き

          来していた。祖父母の家からの帰り道、峠のあたりで雪が降りだした。二人は

          道を間違え、進んで行った先はただ一面氷に囲まれた不思議な所、高い山を

          上へ上へと登ってしまったのだ。兄のコンラートは必死で妹を守り、眠らない

          ように励まし、妹のザンナは兄を信頼しきって素直に従い、ついには雪の中

          で一夜を明かす。夜が明け、村人総出の捜索隊が二人を無事に救い出す。

          

          優れた画家でもあったシュティフターの山々や村の、そしてまた登場人物

          の描写は静かに美しく、読んでいると穏やかな、妙な言い方ですが「敬虔」

          な気持ちなります。生存中は一定の評価を得たものの、小さい取るに足り

          ないものばかりを題材にすると、非難されることが多く、この「水晶」が入っ

          た短編集「石さまざま」に、それに反論する序文を書いています。

          小さいもの、ささやかな仕事の中に実は大きな宇宙につながる深い真理

          が潜んでいるのだと。山間の村に住む人々の慎ましやかな暮らし、温かい

          愛情、深い信仰を何のてらいもなく美しく描いたこの物語を読めば、それ

          がよく理解できます。

          後にニーチェやトーマス・マンが、シュティフターを絶賛し、指揮者のフル

          トヴェングラーは、シュティフターを読まずにはヴェートーヴェンの「田園」

          は振れないとまで言ったそうです。

          そのあたり、松岡正剛の千夜千冊の「水晶」にうまく解説されています。
コメント
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