
有楽町の帝国劇場の隣のビル9階の出光美術館から下を眺めると、
皇居の外苑に入る馬場先門が見えます。この間は麹町の方から半
蔵門を見下ろしましたが、こちらから見ても、お掘り越しに眺める
豊かな秋の皇居は落ち着いた美しさです。これが都心の、さらに
そのど真ん中にあるのは不思議なような、でもとても良い感じ。

出光美術館へ「笑いのこころ」展を観にいきました。大雅、蕪村、
玉堂、仙涯の四人のユーモアにあふれた絵を集めた、肩の凝ら
ないしゃれた日本画の美術展で、最終日でもあり、なかなかの
にぎわいでした。
これは池大雅の「山邨千馬図」。よく見ると全体が馬で埋めつく
されています。よくもこれだけ描けたと思わずにいられないもの
すごい数の馬、馬、馬。馬の表情もそれぞれ違っていたりして、
感嘆しながらも思わず笑ってしまいます。大雅の絵はどれも風
格のある見事な山水画でしたが、そのおおらかな雰囲気が心
を和ませてくれました。どの絵にも、あちこちで楽しそうに遊ん
だり、笑い転げたりしている唐子がいて、とてもかわいらしく、
四人の巨匠のうちでは、私には一番しっくりきたかな。

仙涯に至ると、もうこれは、笑わせようとして描いているとしか思
えません。花見の図なんか、呑んでいる人、踊っている人、寒が
っている人、ゲロを吐いている人、中には書き損じなんて注がつ
ついて、黒く塗りつぶされた人もいて、だれも花なんか見てやし
ない。禅宗の名僧だったそうですね。だから絵は余技だったのでし
ょうが、あまりに皆から描いてと頼まれるので、とうとう「絶筆の
碑」という絵を描いたけれど、その後もやっぱり頼まれれば描い
てあげたそうです。一見おそろしく適当な、今の漫画に通じるよ
うな、ちょっと西原理恵子の「毎日かあさん」なんかを連想させ
る絵です。これは六人の老人の絵。仙涯には長寿を言祝ぐのや
茶化すのや、老人を描いた絵がたくさんありました。百人の老
人を描いた絵など、もう何が何やら訳のわからない滑稽さです。
病気がちになり、耳も遠くなり、耄碌し、それでもなお生きてい
ることを喜ぶ。老いを肯定するその朗らかさに勇気をもらって帰
ってきました。