晩夏 下 (ちくま文庫) | |
アーダルベルト・シュティフター,藤村 宏 | |
筑摩書房 |
晩夏 上 (ちくま文庫) | |
アーダルベルト・シュティフター,藤村 宏,Adalbert Stifter | |
筑摩書房 |
いまだに読む人がいるということでしょうね。ある人物の成長を描くいわゆるドイツの教
養小説に入る大長編小説です。しかしゲーテの「ヴィルヘルム・マイスター」のように
悪戦苦闘するわけでもなく、挫折を味わうわけでもなく、主人公はきわめて順調に成長
して、自然科学者として大成します。時代の嵐に揉まれることも、劇的な出来事が起こ
ることもありません。この本は日本でも何故生き残っているのでしょう?同時代の劇作
家ヘッベルは「これを読み通したらポーランドの王冠を進呈しよう」と言ったそうです。
ほんとに何も起こらなくて退屈なんです。でもねニーチェはこれは歴史に残る大傑作だと
思ったらしい。主人公のお父さんは言います。「人間はまず人間社会のためにあるので
はなくて、自分自身のためにあるのだ」と。こんなことを言ってくれるお父さんが世の中
に何人いるでしょうね!裕福な主人公は心の赴くままに様々な研究をして、自然科学者に
なります。そして薔薇が家全体を覆っている田舎家に魅せられ、そこで運命的な出会いを
します。そのような細々とした出来事が、あくまでも落ち着いた静かな筆致で描かれています。
KINOKUNIYA書評空間の津田さんはこの本をジェーン・オースティンよりさらに「偉大な退
屈読本」と評しています。読んでいるときはとても退屈だったのに、いつもいつも思い出す
小説だと。今まだ30ページ目、さて私は最後まで読み切れるでしょうか?