光中の生徒とは対話型鑑賞の授業の時にしか会いません。1か月に1回です。そのため、生徒のワークシートに記述されたものを拾って「美術通信」を発行しています。今回は三回目の実践ですので、お便りは№3です。
記事は生徒向けにしてありますので、そのつもりで読んでください。
今回は実践後のこの便りで「慧可断臂図」のネタばらしをしました。ネタばらしをしても大丈夫なくらいの読み取りを生徒がしていたからです。まあ、読んでいただければわかると思います。
3回目の対話型鑑賞を雪舟の「慧可断臂図」で行いました!!
皆さんの読み取りを紹介します。
☆ワークシートの最初のアンケートの回答結果です。(回答者は16名)
A)しっかり絵をみることができた ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
B)絵をみてしっかり考えることができた ④14名 ③2名 ②1名
C)自分の意見を言うことができた ④ 7名 ③6名 ②2名 ①1名
D)友達の意見をしっかり聴くことができた ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
E)友だちの意見を聴いて、自分の考えをより深めることができた ④13名 ③3名 ②0名 ①0名
F)このような鑑賞をまたやりたい ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
☆作品は雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」(国宝:斎年寺蔵)でした。作品に描かれている二人の人物について考えてもらいました。二人の関係性について記述された部分を紹介します。
男子A)
(前略)左下の人が自分の手を切って白い服の人にささげているところだと思ったし、手をささげることで何かが叶うんじゃないかと考えた。(中略) 右上の人は何かを叶える神様的な人だと思いました。目線が上を向いていたのですが、神経を集中しているところだと思います。服もだぶだぶで肌を出 さないところが神様を想像させました。
女子B)
(前略)この二人の関係は、まず立ち位置からして、上というか、奥まで行っているのが白い人で、位が下の人が上の人の前に立つっていうのはないな と思い、師弟子の関係ではないかと思いました。白い服の人は顔の色が黒く、ひげも濃く、布も羽織っている様子から、インドとかアジアの暑い国の人 ではないかと思いました。逆に手前の人は日本のお坊さんみたいな服装っぽいので日本人だと思いました。(後略)
女子C)
(前略)2人の人の関係性は、白い布を身に付けている人のほうが位が高いと思いました。理由は2人の居る所から白い布の人のほうが上がわに描かれて いるからです。それに、お坊さん下がり眉毛の表情と、体からなんかビクビクしている、猫背で肩が力んでいる感じなので、恐る恐る近づいていって る感じがしました。(後略)
男子D)
(前略)この2人の関係は、洞窟の中の岩には遠近法を使って手前は大きく、奥は小さく描き、奥行きが表されているのに人は手前の日本人のお坊さん よりも奥にいる白い服を着た中東の外国人らしき人の方が大きく描いてあるのを見て、その2人の大きさの差には2人の身分の差が表現されていると 思ったので、日本人のお坊さんの方が白い服を着た中東の外国人よりも身分が低く、白い服を着た中東の外国人とはかしこまった関係なのかなと感じま した。そして、このことからお坊さんが外国人に何かの技術か宗教を教えてもらうために、自分の腕を切断してささげているのかなと思いました。
女子E)
この2人は左下のお坊さんが身を縮こめていますし、白い服の人がくっきりしていて神々しく感じられるので。師弟の関係なのではないかと思いま す。また、白い服の人は目や口などの表情からこの世を捨てていくような感じなので、悟りをひらくために修行中なのではないかと思います。そして、 お坊さんの方は、白い服の人が修行のために断食みたいなことをしているため、食料をあげるため自分の手をささげているのではないかと思いました。
男子F)
(前略)自分としては、場所はみんなの言うとおりどこかの洞窟で、中に座っている白い人は、人間じゃなくて神のような存在なのではないかと思いま す。白い服を着ているのでなんとなく神のように思えてきました。自分的には神といえば白っぽいイメージがあるのであの白い服の人は神的な存在かな と思いました。(後略)
女子G)
(前略)2人の関係は白い服を着ている人が位が高い人で、手前の人が弟子だと思いました。理由は奥の人は座っていて、手前の人に背を向けている し、手前の人の背中が縮こまっているように見えたからです。
皆さんの考えを見ていくと二人はどうやら「師弟関係」で、白い服の人が位が上、つまり「師」で、左下のお坊さんが「弟子」だと考えているようです。それは画面に描かれている二人の位置や、人物の大きさから読み取っているようです。また、「師」の身なりが「白い衣」をまとっているので「神」のような存在、神々しさを感じている人もいます。二人が向き合っていないことから、白い衣の「師」は修行中だと考えた人もいました。
みんな素晴らしいです。ここに記述を掲載していない人も、ほとんどの人が、似たようなことを考えていました。全く的外れなことを記述した人はいませんでした。実はこの絵にはちゃんとした逸話があります。作品には今回のような「逸話」に基づいたものを描いたものもあれば、作家が自由に描いたものもあります。ゴッホの「椅子」は自由に描いた作品です。
そして、何と!!皆さんの読み取りは、ほとんどこの作品の「逸話」に近づいています。本来は作品の情報を積極的には与えませんが、今回は、知らせておこうと思います。
この「慧可断臂(えかだんぴ)」は、白い服の人(実は達磨大師)が修行中に、達磨大師に弟子入りしたいと思った慧可という僧侶が訪れます。しかし、達磨大師は修行に専念したいので弟子入りを拒みます。それでも慧可は弟子にして欲しくて、自分の腕を切り落とし、その決意の固さを示して、弟子入りを果たすという仏教でも禅宗でよく知られている逸話を雪舟が描いたのです。皆さんは、そのような逸話を全く知らなかったと思いますが、雪舟の描いた作品をじっくりとよくみて、考えて、話し合って、その話をしっかり聴いていけば、作品の本質に近づいていくことができるという、この対話型鑑賞のだいご味を味わうことができています。みんなの話をつなげている私は実はとても驚きながら感動していました。本当に皆さんの真剣な取り組みが生んだ素晴らしい成果だと思います。次作もしっかり「みて・考えて・話して・聴き」ましょう!!
以上が「美術通信」の全文です。次号は「感想文集」にしようと考えています。
記事は生徒向けにしてありますので、そのつもりで読んでください。
今回は実践後のこの便りで「慧可断臂図」のネタばらしをしました。ネタばらしをしても大丈夫なくらいの読み取りを生徒がしていたからです。まあ、読んでいただければわかると思います。
3回目の対話型鑑賞を雪舟の「慧可断臂図」で行いました!!
皆さんの読み取りを紹介します。
☆ワークシートの最初のアンケートの回答結果です。(回答者は16名)
A)しっかり絵をみることができた ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
B)絵をみてしっかり考えることができた ④14名 ③2名 ②1名
C)自分の意見を言うことができた ④ 7名 ③6名 ②2名 ①1名
D)友達の意見をしっかり聴くことができた ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
E)友だちの意見を聴いて、自分の考えをより深めることができた ④13名 ③3名 ②0名 ①0名
F)このような鑑賞をまたやりたい ④15名 ③1名 ②0名 ①0名
☆作品は雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」(国宝:斎年寺蔵)でした。作品に描かれている二人の人物について考えてもらいました。二人の関係性について記述された部分を紹介します。
男子A)
(前略)左下の人が自分の手を切って白い服の人にささげているところだと思ったし、手をささげることで何かが叶うんじゃないかと考えた。(中略) 右上の人は何かを叶える神様的な人だと思いました。目線が上を向いていたのですが、神経を集中しているところだと思います。服もだぶだぶで肌を出 さないところが神様を想像させました。
女子B)
(前略)この二人の関係は、まず立ち位置からして、上というか、奥まで行っているのが白い人で、位が下の人が上の人の前に立つっていうのはないな と思い、師弟子の関係ではないかと思いました。白い服の人は顔の色が黒く、ひげも濃く、布も羽織っている様子から、インドとかアジアの暑い国の人 ではないかと思いました。逆に手前の人は日本のお坊さんみたいな服装っぽいので日本人だと思いました。(後略)
女子C)
(前略)2人の人の関係性は、白い布を身に付けている人のほうが位が高いと思いました。理由は2人の居る所から白い布の人のほうが上がわに描かれて いるからです。それに、お坊さん下がり眉毛の表情と、体からなんかビクビクしている、猫背で肩が力んでいる感じなので、恐る恐る近づいていって る感じがしました。(後略)
男子D)
(前略)この2人の関係は、洞窟の中の岩には遠近法を使って手前は大きく、奥は小さく描き、奥行きが表されているのに人は手前の日本人のお坊さん よりも奥にいる白い服を着た中東の外国人らしき人の方が大きく描いてあるのを見て、その2人の大きさの差には2人の身分の差が表現されていると 思ったので、日本人のお坊さんの方が白い服を着た中東の外国人よりも身分が低く、白い服を着た中東の外国人とはかしこまった関係なのかなと感じま した。そして、このことからお坊さんが外国人に何かの技術か宗教を教えてもらうために、自分の腕を切断してささげているのかなと思いました。
女子E)
この2人は左下のお坊さんが身を縮こめていますし、白い服の人がくっきりしていて神々しく感じられるので。師弟の関係なのではないかと思いま す。また、白い服の人は目や口などの表情からこの世を捨てていくような感じなので、悟りをひらくために修行中なのではないかと思います。そして、 お坊さんの方は、白い服の人が修行のために断食みたいなことをしているため、食料をあげるため自分の手をささげているのではないかと思いました。
男子F)
(前略)自分としては、場所はみんなの言うとおりどこかの洞窟で、中に座っている白い人は、人間じゃなくて神のような存在なのではないかと思いま す。白い服を着ているのでなんとなく神のように思えてきました。自分的には神といえば白っぽいイメージがあるのであの白い服の人は神的な存在かな と思いました。(後略)
女子G)
(前略)2人の関係は白い服を着ている人が位が高い人で、手前の人が弟子だと思いました。理由は奥の人は座っていて、手前の人に背を向けている し、手前の人の背中が縮こまっているように見えたからです。
皆さんの考えを見ていくと二人はどうやら「師弟関係」で、白い服の人が位が上、つまり「師」で、左下のお坊さんが「弟子」だと考えているようです。それは画面に描かれている二人の位置や、人物の大きさから読み取っているようです。また、「師」の身なりが「白い衣」をまとっているので「神」のような存在、神々しさを感じている人もいます。二人が向き合っていないことから、白い衣の「師」は修行中だと考えた人もいました。
みんな素晴らしいです。ここに記述を掲載していない人も、ほとんどの人が、似たようなことを考えていました。全く的外れなことを記述した人はいませんでした。実はこの絵にはちゃんとした逸話があります。作品には今回のような「逸話」に基づいたものを描いたものもあれば、作家が自由に描いたものもあります。ゴッホの「椅子」は自由に描いた作品です。
そして、何と!!皆さんの読み取りは、ほとんどこの作品の「逸話」に近づいています。本来は作品の情報を積極的には与えませんが、今回は、知らせておこうと思います。
この「慧可断臂(えかだんぴ)」は、白い服の人(実は達磨大師)が修行中に、達磨大師に弟子入りしたいと思った慧可という僧侶が訪れます。しかし、達磨大師は修行に専念したいので弟子入りを拒みます。それでも慧可は弟子にして欲しくて、自分の腕を切り落とし、その決意の固さを示して、弟子入りを果たすという仏教でも禅宗でよく知られている逸話を雪舟が描いたのです。皆さんは、そのような逸話を全く知らなかったと思いますが、雪舟の描いた作品をじっくりとよくみて、考えて、話し合って、その話をしっかり聴いていけば、作品の本質に近づいていくことができるという、この対話型鑑賞のだいご味を味わうことができています。みんなの話をつなげている私は実はとても驚きながら感動していました。本当に皆さんの真剣な取り組みが生んだ素晴らしい成果だと思います。次作もしっかり「みて・考えて・話して・聴き」ましょう!!
以上が「美術通信」の全文です。次号は「感想文集」にしようと考えています。