ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「みるみると見てみる?」レポート第6弾です!(2017,2,11開催)

2017-03-05 22:18:54 | 対話型鑑賞
島根県立石見美術館グラントワ 「あなたはどう見る?-よく見て話そう美術について-」
2月11日(土) ナビゲーター:正田 裕子

1作品 ロベルト・ボンフィス 『ガゼット・デュ・ボン・トン』より
    花で囲まれた美しい場所 午後のドレスとマントー 技法・材質ポショワール版画・紙
2作品 マーティン・ムンカッチ ニューヨーク万国博覧会『ハーパース・バザー』
    1938年9月号 技法・材質ゼラチン・シルヴァー・プリント


自評
・対話による鑑賞に慣れている鑑賞者が多く積極的な発言があった。貴重な意見を沢山聞かせていただく機会となった。
・言い換えの語彙が少なく、鑑賞者の発言の内容を上手くくみ取れていなかったのではないかと思う場面が複数回あった。
・作者に関する情報や作品の発表媒体の情報を事前に確認できていて良かった反面、作品の文字情報はもう少し正確に調べておく必要があると感じた。
・2作品を比較して鑑賞する計画でいたが、1作品目でなかなか切り上げるタイミングがつかめず、2作品目を見る時間が少なくなった。1作品目をもう少し早めに終るにはどうしたらよかったのか。
・作品が小品であったこともあるが、自分自身を含めポインティングをする時の位置や作品との距離をもう少しとるべきだった。

振り返りより
・2作品をシークエンスで鑑賞し対比させて見せる意図があった中で、ナビの立ち位置が両作品の間に立っていたことにより、前半、後半の作品を対比して観ることができなかった。今後はナビの立ち位置を考えた方が良い。
・作品のポインティングについては、鑑賞者が作品に近づきすぎてしまうという危うい場面があった。鑑賞者が主体的に観る意識をもっていたから近づきすぎてしまったところはあった。作品保護の観点からも、鑑賞時を始める時に、話題にしている箇所の位置は口頭で伝えてもらうようにし、実際のポインティングはナビが細心の注意を払って行った方が良い。
・1作品目の時間配分については、発言が続いたのでそれほど長さは気にならなかった。
・一連の発言の流れの中で、前の話題と効果的に関連づけることができているところがあった。前に出た話題とつなげながらナビをしているところがあり、鑑賞者が要素などを関連づけて見たり考えたりするのに効果的だった。
・2作品を比較する意図あれば、「この2作品を比較してどう思われましたか?」と鑑賞者に問いかけても良かった。

全体を通して
 前回に、「予期しない話であればあるほど、その意見にのって、鑑賞者の視点や思いをきくとおもしろい。」というアドバイスがありました。今回は、その点を意識して対話を聴こうという姿勢でのぞみました。

 今回の鑑賞者は、みるみるの定例鑑賞会に参加してくださった方や対話による鑑賞を体験されたことがある方ばかりでした。この鑑賞スタイルに慣れている皆さんとはいえ、ここは一期一会。今回、選んだ2作品をどうみていくようになるのか、自分に無い視点を心待ちにしながら鑑賞を始めました。

 ロベルト・ボンフィスの版画によるファッション画は、色鮮やかで軽やかなアフタヌーンドレスを着た3人の女性が、ジャングルを思わせるような木々や植物があつらえてある明るい室内の空間を、2階から1階へと回り階段をおりてくる様子で表現されている作品でした。最初は、上記のような場の様子や女性達が何をしているのかということが話題の中心でした。そのうちに、この縦長の作品の縦半分の位置に水平方向の折り目があることが話題となり、この折り目は「雑誌の付録である小冊子の折り目ではないか。」という発言が出てきたのです。あらためてこの小品に近づき、発言の折り目を確かめる方もいました。根拠としては、手描きではないこの作品は、目的をもった出版物ではないかという発言となりました。出版物であるからには、何か目的をもっている物であろうと考え、ナビも「どんな雑誌の付録だと思いますか。」と聞いてみました。

 そこから、「3人の女性の顔がはっきりと表現されていないことから、ファッションを見せるためのものであろう。」という発言を皮切りに、画面の周囲にある「暗く影を射している植物に対して、女性3人が降りてくる空間は明るく自然と女性の姿に目が行く」など、複数の方からのそれぞれ、意図的に女性のファッションに注目が集まる仕組みがなされていることから、ファッション雑誌ではないかという根拠が続いて発言されました。光と影の表現から、明るさを表す空間の形が二等辺三角形の形で、その頂点の位置に描かれている女性に目が行く構図になっているという発言もありました。2階から1階までの距離感などもかなりの遠近感を持って表現され、小品ながら、表現されている空間は奥行きもあり、劇的な空間となっているという点にまで話が広がりました。

 まだまだ、発言をしたい方もありましたが、続いて、同じく女性を主人公にした2作品目をみることにしました。1作品目で30分もの時間を費やしてしまい、迷いましたが、2作品目をみることで新たな気づきと出会っていただけるものと、10分を目安に続けることにしました。
 
2作品目のゼラチン・シルヴァープリントもB3判程度の小品でした。作品の大きさに対して一人の女性がかなり小さく写され、何かの建物の空間に立ってポーズをとっています。鑑賞者から、まず、「写されている建物がコンクリートでできているように見える。1作品目は女性の周りに植物があったけれど、女性以外の物が見えず無機質な感じがする。」と言う発言からスタートしました。「コンクリートの壁面以外には情報がほとんど無く、その女性がどのような所にいるのか分からない。」と言う発言もありました。構図上、女性がいる建物の壁面は、右下から左上にそびえ立つように撮影されています。そんな作品の様子から、さらに「女性自身はまっすぐ立ちながらも、建物が左斜めに写されていることから、女性自身も画面に対して左斜めになるように写されていて不安定な感じがする。」「女性の足先が見えないくらい高い場所でありながらベランダのような柵も無く、通常の建築物には見えず、危ない感じがする。」といった、見えることからの印象が無機質→不安定→危険な感じと広がっていきました。「女性の足が見えないことも不安定な要素とも言えるのでしょうか。」とナビは前述の意見とも関連づけていきました。続いて「女性がいる空間の奥の壁面も反り返っているようにも見えて、どんなところなのか分かりにくい。」といった撮影された空間がどんな目的をもつ所なのか疑問を解くことで、この作品の意図を探ろうとする対話の流れになっていきました。

 1作品目とは異なり、人工のコンクリートの材質の壁以外に、女性の足元数メートルは下かと思われるところに建材の石膏ボードのようなものが見えるものの、「ここはどこ?」「何のために女性は立っているの?」「なぜ斜めの構図で撮影されているの?」と鑑賞者の中で疑問が次から次へと浮かぶ様子でした。

 そこに、ある方から「不安定に見えるが、(右腕を自身の腰におき、左腕を帽子をかぶった頭部の上に当てて立つその姿から、)それぞれ右肩から右バストにかけての影と、また左肘から帽子をかぶった頭頂部へのラインが女性の体幹(壁面と平行)に対して交差するように見えることから安定感を感じる。」という、今までの発言とは真逆の発言がありました。「そこからどう思われますか?」と問いかけると「この不安定な状況の中で女性はしっかりと立っているように感じる」という内容の発言がありました。それに対して、1938年という撮影年代はふせながらも、「不安定な環境や時代に対しても、そこで女性がしっかりと生きている様子を表しているのでしょうか。」と言い換えをしていきました。

 構図や女性が立っている状況などから、不安定さを感じさせる作品だが、女性のポーズからは周りの状況とは真逆の安定感を表しているとの対話で締めくくりました。

 1作品目の女性像とは異なり、2作品目の女性の姿からは、モデルである要素以外にもその女性の内面や生き様までも表現しようとしたのではないかと思います。そのような意図に近づくためにも、どういうナビをすればよかったのか、課題が残りました。今回のナビを通して、私自身は、これら2作品をシークエンス(連続・ひとかたまり)でみるおもしろさを感じる機会となりました。しかし、鑑賞者の皆さんによりリッチな時間を過ごしていただくために、何ができたのかさらに考えていきたいと思いました。

 鑑賞者の皆さんのそれぞれの意見のおかげで、楽しく貴重な時間をすごすことができました。それに甘えず、自分の課題にまだまだ精進していきたいと思います。鑑賞者の皆さん、関係者の皆さん、ありがとうございました。
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