ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

対話型鑑賞の実践中

2013-01-29 21:30:32 | 対話型鑑賞
対話型鑑賞の実践中


今日は授業時数が少なく、3学期早々に行った3年生の対話型鑑賞の文字起こしを行いました。作品は雪舟の「慧可断臂図」です。3クラスで実践したのですが、今回はクラスによって情報の提供に差をつけてみました。

対話型鑑賞では原則として作品にまつわる情報を提供しないというルールがあります。これは、MOMAで始まったVTSの手法の影響を強く受けていると思います。私も実際に教育プログラムの開発にかかわったフィリップ・ヤノウィン氏のレクチャーを受ましたので、この原則に強く縛られていました。しかし、京都造形芸術大学でACOPを主宰する福のり子教授は、積極的にではないが、時と場に応じての情報提供はあってもいいのではないかというスタンスで実践を行っておられます。実際、情報を提供したことによって、会話の内容が深まりを見せる場面に昨冬のACOPで居合わせ、福教授のACOPスタイルを取り入れていくことは、教育実践の場では有効なのではないかと考えるようになったからです。

慧可断臂図は達磨大師の弟子になりたくて、修行をしている達磨のところに慧可が訪ねますが、受け入れてもらえないので、気持ちの固さ、決意の表れを、自分の左手を切り落とすことで慧可が示すという場面を描いた作品です。日本人でありながら、日本の美術作品にあまりなじみのない生徒たちは、色味のない水墨画に描かれているものの意味を読み取るのに困難を感じます。しかも、切り取られた手は、よく見ないと切り取られているようには見えません。しかし、1年生の時からこの鑑賞スタイルに慣れ親しんだ本校の3年生は、「よく見て」と繰り返しみることを促すと、一人くらいは気付きます。そして、気付いたことを発言すると、学級の中にざわめきが起きます。「なぜ、切れた手を持っているのか?」「あの手は誰のものなのか?」「なぜ、手が切れているのか?」様々な思いが、困惑が生徒たちの頭の中を駆け巡ります。

この時、「誰の手なのか?」という疑問が起き、誰のものかを考えさせる方向で進めると、作品の解釈は広がります。実際、年末に2年生で行った時には情報を提供しなかったので、手の主を巡っての発言も様々出ました。

今回は最後のクラスで「この手は切れています。そして、この手は、この手を持っている、この人のものです。」と情報を提供しました。そうすると「切れた手を、この人に治してもらおうと持って来た」と、達磨大師が偉い、超人的なパワーを持っている人ではないかという見解が出ます。また、「この二人は師匠と弟子で、弟子が手が切れて困って、師匠に助けてもらおうとしている」という真実に迫るような発言も出てくるようになります。しかし、達磨が背を向けていることから、「頼みごとをしても断られている」という風に読み取ります。

鑑賞後の記述されたワークシートには、「弟子が、手を切ってまで、何かのお願い事をしているのに、師匠は頼みごとを聞き入れず、背を向けている」という、まさに絵に描かれた逸話に迫る読み取りをする生徒も出てくるようになります。この時、私は、読み取る生徒の力もすごいと思いますが、生徒にそこまで読み取らせる作品のすごさ、それを描いた雪舟のすごさに感服します。

そして、この時、対話型鑑賞のねらうものはなんなのかを考えます。

文部科学省の学習指導要領に示される鑑賞には具体的なねらいを持った授業がなされるようにと記されています。表現との関連を持たせるようにとも言われています。確かに、表現に活かす鑑賞も必要だと思いますが、純粋に鑑賞のみに浸る、作品を味わうだけの鑑賞を行ってはいけないのでしょうか?

多くの生徒たちがこの鑑賞活動のあとのワークシートに授業の感想として「こんな鑑賞をまたやりたい。ひとつの作品をじっくりみて、考えることはとても楽しいと感じた」「この鑑賞は、中学校の授業では、もう最後だと言われたけれど、卒業までにもう1回したい」「高校へ行ったらもう美術はないかも知れないけど、絵をみることがあったら、こんな風にじっくり対話してみたい」などと書くのです。授業者としてこんなうれしいこともありませんが、それより、この鑑賞活動が、「将来にわたって美術を愛好する心情」を育てるのに何より寄与していると思うのです。

授業を行うのでありますから、授業のねらいはなくてはなりませんが、大局に立った価値に基づく鑑賞活動があってもいいと思うのです。その鑑賞がこの対話型鑑賞ではないかと、実践を行うたびに、その思いを強くする、今日この頃です。
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