三重県のほぼ中央に位置し、伊勢湾に面する津市の西、
産品(うぶしな)には、平忠盛誕生にまつわる胞衣塚(えなづか)、
産湯池(うぶゆいけ)などの伝承史跡があり、
「平氏発祥伝説地」と刻まれた石碑が建っています。
津の地名は、安濃郡地方の港の意「安濃津(あのうつ)」に始まり、
古くは商船が集まり栄えた港でした。
津駅前
バス停「忠盛塚」で下り、西へ歩くと右手にこんもりとした木立が見えます。
大きな桜の木の下に忠盛の胞衣塚ともいわれる「忠盛塚」があります。
「平氏発祥伝説地」の碑
「平氏発祥伝説地」として、昭和14年(1939)には県史跡に指定されています。
平氏発祥伝説地 (説明板より)
三重県指定史跡 時代 平安時代 所有者 津市 指定 昭和14年3月25日
一般に「忠盛塚」と呼ばれるこの地は、正式には「平氏発祥伝説地」といいます。
この塚は、平忠盛が産まれたときの胞衣(えな)を埋めた「胞衣塚」ともいわれ、
忠盛が産湯を使ったとされる産湯池も残っています。
桓武天皇の曾孫(そうそん)高望王(たかもちおう)を祖とする平氏は、
初め東国に土着し勢力を張っていました。
しかし、平将門(まさかど)の乱や平忠常(ただつね)の乱以後、
東国は源氏の地盤となり、貞盛の子維衡(これひら)の時に伊勢・伊賀を
本拠地とするようになり、寛弘3年(1006)維衡は伊勢守に任じられています。
「平家物語」には、眇(すが)め田舎武士の昇進をねたんだ公卿が
「伊勢瓶子(へいし)は素甕(すがめ)なり」とはやし、あざけったとあります。
維衡の曾孫正盛は正四位下但馬守に進み、武士として最初の昇殿を許され、
平氏繁栄の基礎をつくりました。ところで、伊勢平氏とは維衡系のことで、
「尊卑文脈」には維衡の孫貞衡とその子貞清は安濃津三郎、
貞清の子清綱は桑名冨津二郎と傍注され、
北勢から中勢にかけての勢力伸張がうかがわれます。
貞衡の弟正衡の流れの正盛・忠盛は、伊勢平氏の中では傍系にあたりますが、
忠盛の昇殿、清盛の活躍により、伊勢平氏=忠盛と
理解されるようになったと考えられます。
そして、貞衡系の伊勢平氏は、いつしか忠盛・清盛の郎従となり、
歴史の表舞台から姿を消してしまいました。 津市教育委員会
石碑には「平刑部卿忠盛公誕生塚」と刻まれています。
仁平元年(1151)忠盛は、刑部省長官である刑部卿に任じられ、
このままいけば公卿となるのは確実でしたが、その2年後体調を崩して
刑部卿を辞任、それから2日後に58歳の生涯を終えました。
忠盛が産湯を使ったという産湯池
「産湯池」の石碑は近くの古墳から出土したものを利用しています。
「平氏発祥伝説地
伊勢の国は、武家の棟梁平氏根拠地であった。
平氏にも数流あるが、最も頭角をあらわしたのは、桓武天皇より出る
”伊勢平氏”で平維衡が伊勢守として在任して以来、
正度、正衡、正盛、忠盛と相ついで伊勢国や伊賀国に勢力を張った。
中央に進出した正盛、忠盛は海賊追捕などで武功を重ねて
熊野や瀬戸内海の強大な水軍を支配し、院政政権の側近として活躍した。
安濃津は、白子や桑名とともに平氏一門の基地の港として重きをなしたが、
忠盛の子の清盛も熊野参詣に安濃津から船出している。
この産品(うぶしな)附近は忠盛誕生のときの胞衣塚、産湯池や邸宅跡など
数多い伝承に包まれた平氏ゆかりの地である。
三重県教育委員会 津市教育委員会」(説明板より)
ここは西方の伊賀上野に通じる交通の要衝の地にあります。
「伊賀街道は津から伊賀上野に至る約50㎞の道で、
伊賀側からは伊勢街道とも呼ばれ、国道163号線に沿っています。
山間を通る街道らしい美しい山並みと静かな佇まいを残し、
途中奈良街道(旧伊賀道)と合流します。」(説明文を要約しました)
桓武天皇の曽孫高望(たかもち)王が宇多天皇の時代、
「平」姓を賜り、臣籍降下したのが桓武平氏の始まりです。
その子国香、孫貞盛のころには東国に土着し勢力を張っていましたが、
貞盛の子維衡(これひら)が伊勢守に任命され、伊賀や伊勢に
勢力を広げるようになりました。これが「伊勢平氏」の起こりです。
この時期は、前九年・後三年合戦で名を馳せた
源頼義・義家の陰に隠れて目立たず、栄達には程遠い状態でした。
伊勢平氏が中央政界に躍り出たのは、正盛のときからです。
その子忠盛は白河院・鳥羽院に仕え、各地の受領を歴任して
財をなすとともに、西国の海賊追討などで武功をあげました。
平氏系図に見られるように、維衡の流れは、維衡の孫の貞衡(さだひら)が
安濃津(現、津市)に本拠地を置き、安濃津と称し、
その孫清綱は伊勢国(三重県)桑名(北伊勢)を領し、桑名を名乗っています。
近くの置染神社に忠盛の父正盛の墓があります。
平正盛の墓(置染神社)
『アクセス』
「平氏発祥伝説地」三重県津市産品(うぶしな)1437-1
近鉄・JR津駅より三重交通バス「平木」行、「片田団地」行で約30分、
バス停「忠盛塚」下車 徒歩約3分 バスは1時間に1~2本
近鉄津新町駅より三重交通バス「平木」行、
「片田団地」行で約10分、バス停「忠盛塚」下車
『参考資料』
「三重県の地名」平凡社、1990年 河合敦「平清盛と平家四代」講談社、2012年
富倉徳次郎 「平家物語全注釈(上)」 角川書店、昭和62年