平家物語・義経伝説の史跡を巡る
清盛や義経、義仲が歩いた道を辿っています
 



 
三宮神社は旧神戸村の氏神で、境内には生田の森で先陣を遂げて
戦死した河原兄弟を祀る河原霊社と塚があります。

また境内には、この社前で起こった「史跡神戸事件発生地」の石碑が建てられ、
当時の大砲が置かれています。











  平家の大手生田の森は、名将平知盛(清盛の四男)が守る城郭でした。
これを攻める範頼軍の中に、武蔵国埼玉郡河原(現、埼玉県行田市南河原)に住む、
私市(きさいち)党の河原太郎・次郎兄弟がいました。

兄は弟に「豪族たちは、自分で手柄を挙げなくても、家来の手柄を
自分のものとすることができるが、我らのような弱小武者は
そうはいかない。矢合せの卯の刻(午前6時)までには、まだ大分間があるので、
それがしはここで攻め入ろうと思う。おそらく生きては戻れまい。
そなたは生き延びて、手柄の証人になってくれ」というと
弟は涙をはらはらと流しながら「たった二人の兄弟なのに、
自分だけ生き残って恩賞に預かっても何もならない。
一緒に討死する覚悟です。」と答えます。しかし当時の合戦では
手柄を立てても、証人がなければ恩賞にあずかれません。

押し問答の末、下人らをよびよせて馬を形見に取らせ、
妻子に最後の様子を伝えるよう言い残し、馬にも乗らず、
藁草履のままで、逆茂木(さかもぎ)を乗り越えて敵陣に攻め入りました。
「武蔵国の私市(きさいち)党河原太郎高直、同じく次郎盛直、
生田の森の先陣ぞや!」と大音声で名乗りをあげます。

これを聞いた平家の兵たちは「東国のやつらは、何と命知らずなことよ。
これほどの軍勢の中へ、たった2人で駆け入って
何ほどのことができるか。」と馬鹿にして討って出る者もいません。

兄弟は弓の名手であったので、一族のために何とか
手柄を立てようと、陣中に矢をさんざんに射てまわります。
仕方なく強弓で鳴らした備中国の真名辺五郎の引いた矢に
太郎が胸板を貫かれて弓にすがるところに、次郎が駆けより、
兄を背負い逆茂木を越えて逃げようとします。
そこを五郎の二の矢が次郎の腰を射て兄弟は戦死しました。

これを見て五郎の郎党が走りより、その首を取って大将軍平知盛の
見参に入れると「敵ながらあっぱれな剛の者よ!
一騎当千の惜しいつわものを死なせてしまった。」と称賛したといいます。
河原兄弟の下人は急ぎ帰り「河原殿兄弟、今先陣を遂げて討死!」と
大声で走りながら叫びます。それは主人の功名を味方に伝え、
遺族のために恩賞を得る方法だったのです。

ちなみに神戸名物の「かわらせんべい」は
この兄弟の名をとったものだといわれています。(『神戸歴史散歩』)





河原兄弟の塚

河原霊社
「源平の史蹟 河原霊社のいわれ

祭神 河原太郎高直公(兄)河原次郎盛直公(弟)
祭日 二月七日(旧暦)
寿永三年(西暦1184)に起こった 源平一ノ谷合戦生田の森で
一番乗りの功名手柄立てその後 討ち死にをした
源氏の勇士河原兄弟の塚とその馬塚がこの附近にあったが

神戸開港以後 土地の発展につれて
その塚は惜しくも跡を失ってしまった
 大正十一年四月 三宮町三丁目の有志が この有名な源平の遺跡を
世に顕彰すると共に 兄弟の霊を祀って霊社を建立した
旧遺跡は都市計画のため
 昭和三十四年四月少し北の方に当たる地に移したが またまた
環境の変化によって 昭和四十六年に三宮神社境内に遷した
 平成七年の阪神大震災に因り壊滅したのでこの地に復興したものである
 平成十年一月吉日 河原霊社奉賛会」(現地駒札より)




 神戸事件
明治維新政府は、徳川譜代の尼崎藩主松平忠興を牽制するため、
長州藩及び備前藩に命じて、西宮に駐屯させることにしました。
岡山を出発した備前藩の一隊が、
先頭に砲兵三ヵ小隊を置いて進軍中、事件が起きました。

 「トア・ロード南端にある三宮神社の前で
慶応4年(1808)1月11日、神戸事件が起きた。
備前藩の隊列が西国街道を東に向かって行進中、
三宮神社の前にさしかかったとき、
沖に停泊していた外国軍艦の水兵数人が隊列を横切った。
これに怒った備前藩隊員が水兵を切りつけたことが国際事件となった。
結果として第3砲兵隊長の滝善三郎が詰腹を切らされ、
兵庫の永福寺の座敷で6ヵ国の立会人が
注視するなかで切腹したのである。
日本の政治体制がまだ確固としていなかったために
この悲劇が起きた。」(現地説明板より)

 『アクセス』
「三宮神社」神戸市中央区三宮町2-4-4
地下鉄「旧居留地・大丸前駅」下車すぐ
 JR「元町駅」下車徒歩5分 
阪神電車「元町駅」下車徒歩5分
 『参考資料』

新潮日本古典集成「平家物語」(下)新潮社 「平家物語」(下)角川ソフィア文庫 
 杜山悠「神戸歴史散歩」創元社 安田元久「武蔵の武士団」有隣新書
 水原一「平家物語の世界」(下)放送ライブラリー 「図説源平合戦人物伝」学習研究社

 



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