と、タイトルをつけたのは、たとえば「ビートルズはビートルズ」「マイルスはマイルス」などと言うようにジャンルを超えた存在という意味である。
朝起きて一番初めにCDプレーヤーにかける音楽はモーツァルトと決めている。何事も決め事を作るのが好きな性格なのだ。何故かと問われれば、一つは、やはり朝からブルックナーやマーラーの交響曲を聴くのはちょっとつらいのである。朝は食事だって食パンにハムエッグ程度にしたい。ビフテキやら中華ではつらいのである。まだ頭の中がはっきりしないような状態で「弦楽四重奏」や「ヴァイオリン・ソナタ」などを聴き始めるととても心地が良くなって脳のセンサーが順調に作動しだすような気がしてくる。
二つ目の理由は健康のためである。以前より血圧が高めで内科医にかかっているのだが、最近は原因不明の耳鳴りもし始めた。大学病院の耳鼻科で診てもらったのだが」原因は解らなかった。いろいろと家庭の医学的な本を探しては読んでいたのだが、ある本に医師がモーツァルトの音楽と血圧の関係を書いていた。その本によるとモーツッァルトの長調の曲が血圧を下げる効果があるというのだ。さらに耳鳴りにも効果があるという。そういえば昔からモーツァルトの音楽は植物を成長させるにも良く、実際に野菜や果物、そして観賞用の花などの栽培に使用されていることが知られているし、最近では脳科学者たちがまじめに研究をしたりしている。と、いうわけで僕も自分の健康のために以前より熱心に聞き始めた。聴き続けているせいか最近では血圧も安定し、耳鳴りもほとんど気にならなくなってきている。アマデウス様様なのである。
不思議な音楽家だなぁ。まるで中世の魔術師か錬金術師のようでもある。先日、モーツアルトの生涯を追ったテレビ番組の中で某著名ピアニスト女史が「一言で言うと、切なさと明るさの同居した音楽である」と語っていたが、まさに言い得ていてその場でメモをとった。長調の曲と短調の曲では光と影のように表情を変容させる。そして長調の曲の中でも翳りのようなものを感じるパートもある。本当に不思議な音楽である。
数多くの名盤アルバムの中で最近の僕のお気に入りはオランダのチェンバロ奏者でもあるトン・コープマン指揮とアムステルダム・バロック管弦楽団による一連の古楽器演奏によるもの。古楽器でモーツァルトを演奏するものは少なくないがコープマンのものは柔軟なリズム、切れ味の鋭さ、大胆なアドリブなどで新しい解釈のモーツァルトとなっていて何度聴いても新鮮だ。それから室内楽では1970年代録音のチェコのスメタナ四重奏団による透明感のある奥深い演奏。そしてヴァイオリン・ソナタではアルテュール・グリュミオーとクララ・ハスキルの大御所コンビの名盤をあげておこう。
最後にだいのモーツァルト好きとして知られたアインシュタインの有名な言葉を紹介する。「死とはモーツァルトの音楽が聴けなくなるということである」欧米人にとってこの音楽家の世界は特別なものなのだろう。画像はトップがモーツァルトの肖像画(部分)。下が左からトン・コープマン指揮の「交響曲第39番、40番」 スメタナ四重奏団による「弦楽四重奏曲第14番、第16番」 グリュミオーとハスキルによる「ヴァイオリン・ソナタ集」のCDジャケット。