今月は水彩画で『クロウタドリ』を描いた。英語名を『Blackbird ・ブラックバード』というこの野鳥はツグミやアカハラなどと同じヒタキ科に属し、全身真っ黒い羽衣をしている。嘴とアイリングが鮮やかなオレンジ色をしているので一見するとムクドリや九官鳥のようにも見える。分布域はヨーロッパからインド、中国東南部までで、汎世界的に広く生息する鳥の1種としても知られている。スウェーデンでは国鳥とされている。日本には極々稀な迷鳥(めいちょう)としての観察記録があるのみだ。
もうずいぶん昔の話だが、パリの美術館巡りの旅行に行ったときのこと。同行者が絵画や彫刻を熱心に鑑賞している時に一人、都市の中のバードウォッチングを楽しんでいた。ピカソ美術館の庭を歩くモリバトのペア、モンマルトルの丘で老人の給餌に慣れきったイエスズメの大きな群れ、セーヌ川の上を飛翔するカササギやヨーロッパチュウヒなどなど…。その気になると結構日本では見られないいろんな鳥が見つかるのでうれしかった。旅行も終盤になって自由時間の時に美術館巡りに飽きてブラブラとリュクサンブール公園を散歩していると頭上から日本のクロツグミに似た”キョロリ、キョロロ…”というのどかな囀りが聞こえてきた。声のする上方に眼をやると街路樹のてっぺんに黒っぽい小鳥が止まっていた。首から下げた双眼鏡で丁寧に観察すると『クロウタドリ♂』だった。これが初めての出会いである。西洋で『春告げ鳥』の異名を持つその声はなんとも例えようがなく美しく、ユトリロや佐伯祐三が絵画に描いたパリの街の風景とともに今も網膜に焼き付いている。
水彩画作品はこの長閑なイメージを持つ鳥を表現しようとフランドル地方の田舎の風景を選んだ。そして、クロウタドリの♂が春の求愛の歌を歌う木の下にはペーテル・ブリューゲルの銅版画から飛び出してきたような3人の楽師たちを描いた。クロウタドリの能天気な歌声に合わせて古楽の曲を奏でているように見えれば成功なのだが。機会があれば作品の全体像を個展に観に来てください。画像はトップが制作中の水彩画作品と絵筆を持つ僕の左手。下左からが古い博物図に描かれたクロウタドリ、水彩画のアップ、制作に使用している画材。