今月は酷暑の中、水彩画で『カラステング』を制作した。神話・伝説をテーマとしたこのシリーズとしては珍しく妖怪に属するキャラクターである。日本の妖怪の中でもカラステングはとても人気者である。鋭い嘴を持つ顔面、背中には翼が生え、修験道の行者風コスチュームで恰好よくきめている。全体にシャープな印象を持つため絵になり易いのか昔話や絵本、最近ではアニメやゲームなどさまざまな分野に登場する。
そのルーツを辿ると、お隣の中国の古代神話では音を発する「流星」であり、インドでは神話に登場しインドネシア航空のシンボルマークともなっている怪鳥「ガルダ」、仏教の世界では守護神「迦楼羅天(かるらてん)」の姿が重なり、日本に伝わってカラステングとなったとも言われている。
日本の古典絵画や浮世絵版画にも数多く登場するが、その舞台はやはり深くて暗い闇夜である。そしてそのシテュエーションがよく似合う。今回の作品でもカラステングが潜在的に持っているそのダークなイメージを損なわないように注意しながら制作を進めていった。円窓構図をとり、深く青黒い闇の中を音もなく飛翔している2羽のカラステングを構成した。背景にはいつも登場する幻想的なエレメントとしての浮遊する球体や発光体と合わせて「和」のイメージを強調するために狐火を連想する「炎」も入れてみた。それから最近、細部へのこだわりが強くなってきて使用する筆がどんどん細くなっている。はたしてどんな作品に仕上がったのか、全体像は画廊での個展会場でご高覧ください。画像はトップが制作中の水彩画。下が向かって左から部分のアップ、使用した細密描写用の筆、仕事場の壁にかかるカラステングの面(福島県で購入したもの)。