16日。千葉でのカルチャー教室の指導の後、東京都美術館で開催中の『第83回版画展』を観に行ってきた。上野駅で下車し徒歩で会場に向かうと、この日は週末ということもあって会場には多くの来場者が訪れていた。
今から31年前、美術学校の版画科を卒業するとすぐに出品を始めた公募団体だ。早いもので会員に推薦されてから15年経っている。31年も同じ団体展に出品しているとその間に版画を取り巻く世界もいろいろと変化があった。出品し始めた1980年代の頃は版画の世界もいい時代で1970年代から続いていた「現代版画ブーム」の流れもあって、それぞれの版種にスター版画家も多く展覧会も活気に満ちていた。その頃はさながら版画界の登竜門という印象が強かった。
前のバブルの頃、美術界も世相を反映していて御多分にもれず華やかだった。版画の世界もヨーロッパから輸入された「大型版画ブーム」の影響で版画展の会場にも若いパワフルな大型版画作品がところ狭しと展示されていた。割合最近までこの流れも続き、大きな壁画のような版画をよく目にしたものだ。ところがバブルも弾けて世の中ミレニアムを過ぎた頃から急速に版画界にも秋冬が訪れる。版画の企画展を行う美術館や画廊が激減してしまったのだ。時代の流れというのだろうか。世の中、ずっと続いていく価値観などないということかもしれない。ここにきて版画表現の世界も新たな局面を迎えているのだろう。
話が脱線してしまったが、今回の展示も以前に比べて全体的に落ち着いたというか、おとなしくなった印象を持った。その中で「版画甲子園」という新潟県の佐渡版画村で開催されている全国の高校生を対象としたコンクールの受賞作品の特別展示があった。この企画はマンネリズムに陥りがちな展示の中で、とてもフレッシュに感じた。この会の発足指針の一つでもある「創作版画の一般社会への普及」ということを反映しているようにも見えた。そういえばこの日会場には高校生のグループが多かった。中には先生が引率しているグループもいた。この中から将来、新しい版画表現の可能性にかける世代が出てくることを願いたい。粗削りだが何か大事なものを訴えているような力強い画面に元気をもらって会場を出た。画像はトップが会場風景。下が向って左から都美館内風景、版画展入口、「版画甲子園」の展示室。