長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

282. この冬はアトリのアタリ年・小根山森林公園探鳥記 その二 

2017-03-03 19:01:26 | 野鳥・自然
2月15日。カラス「カァーッ」で群馬の夜が明ける。安中市での冬の小鳥類の写真取材日2日目である。昨晩、泊まった宿はJR横川駅のすぐ近くにある「東京屋」という旅館。何故、横川で「東京屋」なのかと宿のおかみさんに尋ねると明治時代に先祖が東京から移住して来たのだという。昨日は日暮れまで寒い中の撮影取材だったので疲れも出たのか入浴後、この土地の山菜やら山女魚などのおいしい夕食で一杯やるとバタンキューと一気に眠ってしまった。

今日の荷造りをして食堂に朝食を食べに行く。朝ごはんもこの土地で取れる山菜などを中心とした郷土料理。とてもおいしい。さすがに評判の宿だけのことはある。食堂にはご主人の趣味なのだろうかモダン・ジャズのピアノトリオの曲が流れていた。食後にお茶を飲んでボーッと窓の外の妙義の山々を眺めていると山の尾根スレスレに大きな黒い鳥のシルエットがゆうゆうと飛翔している。すぐにピンときて首から下げた双眼鏡で追うと「イヌワシだっ!」日本の猛禽類の王者である。どうやら下面の羽の特徴から成鳥のようだ。しばらく尾根上を飛翔していたがそのうち尾根の裏側へ飛んで行ってしまった。今日は朝から縁起がいい。

家を出てくる時の計画では2日目は妙義湖の方面に行ってみようと思っていたのだが、昨日の小根山森林公園で出会った地元の野鳥カメラマンが「去年の暮れから林道が工事中でコースが荒れているのでやめた方がいい」とアドバイスしてくれたので今日も小根山での小鳥の取材と決定した。8:57、おかみさんに昼食のおにぎりを作ってもらい宿を出発する。昨日と同じ矢野澤の沢沿いのコースをとる。今回撮影機材が重く最後の急登で息がきれてしまったので「夕方に取りに寄りますから」という約束で取材に不必要な荷物を宿に預けて行った。おかげで身が軽くなって山道をスイスイと登っていける。地蔵堂を通り過ぎた頃、沢が二股に分かれている場所があるのだが、その右側の薄暗い沢を双眼鏡で丁寧に探していく。実は昨日の下山の時に中型のシギらしきシルエットが飛んだのである。周辺環境から見て珍鳥「アオシギ」ではないかと期待していたのだが…見つからない。沢を登ろうと思っても足場がヌカっていて進めない。あきらめて元のコースに戻る。

高速の下、「山吹の郷」と進んで行く。途中、2羽のアトリ、マヒワやミソサザイの声、カケスも飛んだ。そして最後の急登に入る。昨日と違って荷物が軽いのと足が慣れてきたせいもあってたちまち森林公園のゲート入り口に到着する。上空をタカの仲間のノスリがハシブトガラス2羽に追われて飛んでいた。10:30、鳥獣資料館に到着する。すでに30羽ぐらいのアトリの群れが飛び交っていた。駐車場では昨日と違い6-7名の野鳥カメラマンが大きな望遠レンズをセットして構えている。中で休憩させてもらう。今日は昨日世話になったY館長は休みでSさんという男性の当番の日だった。Yさん同様この人も定年組で安中市役所の任期を終えてからこの施設に入ったと言っていた。明るくてよく笑う、話好きで気さくな人だった。

さっそく撮影取材。いいカットをものにすることが良い「野鳥の版画作品」を制作する第一歩である。気を引き締めていかなければならない。今日はアトリと合わせてミヤマホオジロ(ホオジロ科 深山頬白 英語名は Yellow-throated Bunting)、そして2羽ほど来ているというマヒワ(アトリ科 真鶸 英語名は Siskin)の美しい雄を狙ってみることにした。寒さの中、待つこと一時間弱で幸運にも両種とも給餌場に出現してくれて撮影することができた。僕はカメラマンではなくあくまで鳥の絵を描く資料写真として撮影しているので普通は撮らない後姿や背面が見える角度のカットもなども撮影する。「横、正面、後…こっち向いてくれ!」などと独り言をぶつぶつ言いながらシャッターを押すのである。今日もアトリは多い。時間と共にどんどん増えてくる感じである。給餌場近くの木の枝に群れで待機していて頃合いを見て降りてくる。鳥たちもマンウォッチングしているのである。するとその木の中の大きな群れに小型のタカが僕の背後から低く飛んできて突っ込んだ。大きさからしてハイタカかツミだろう。その瞬間、驚いたのはアトリたちでザーッっと羽音をさせて一斉に飛び立ったのである。「こんなに木の中にいたのか!」ほうぼうに飛んでいる群れをざっと数えて150羽前後はいたと思う。そのようすは千葉の干潟でシギやチドリたちがオオタカやハヤブサから逃げ惑う姿によく似ていた。食うか食われるか「弱肉強食」の自然界のドラマである。

12時前、座りっぱなしなので途中散歩がてら近くの展望台を訪れた。移動の途中、アトリ、キクイタダキ、アカゲラなどが観察された。展望台は見晴らしがよく高速道路の上越道や妙義の山並が良く見えた。資料館に戻ってから昼食を済ませ、また撮影取材。訪れる野鳥のメンツも固定されてきた頃、日が陰ってきたので早めに切り上げてS氏と雑談をする。この森林公園での四季の野鳥の変化に富んだ情報をうかがう。「何の仕事をしているのか」と尋ねられたので正直に絵描きであることを話すと「毎年、年末に安中市の観光課主催による小根山森林公園の自然をテーマにしたフェスを開催しているのだが、ここの野鳥を画題とした鳥を版画で制作したら是非出品してほしい」という話になった。やたらと素性を明かすものではない。でも、昨日のY館長といい今日のS氏といいとても人間が良い人たちですっかりお世話になったのでお礼の意味で「解りました出品しましょう」ということで約束し資料館を後にした。

それにしても森林資料館の人たちと、地元バードウォッチャーの人たち、宿の人たち…上州人は人情が厚いというか暖かい人が多かった。鳥と人。鳥が人を結び、人が鳥を結ぶ、また訪れてみたいと思ったフィールドである。

横川の街に下山し宿に戻ったのは16:50 だった。預けていた荷物を受け取り、礼を言ってから駅に向かった。帰りの電車の中での夕食は当然、横川名物「おぎのやの釜めし弁当」である。昔から変わらぬ懐かしい味を楽しみながらフィールドノートを整理すると今回の一泊二日の取材でトータル32種の野鳥を観察していた。画像はトップが給餌場でのミヤマホオジロの雄。下が左から宿から見た早朝の妙義・相馬岳、ミヤマホオジロの雌、マヒワの雄、アトリの雄、アトリの雌、展望台から見た上越道と妙義の山並。