11/28、カラスがカァ~ッ、で目が覚めた。宮城県の伊豆沼・内沼周辺での『野鳥版画』制作のための、野生雁類の取材旅行の二日目となる。
この日は日の出前の午前四時頃より準備を始め、朝食抜きで伊豆沼の西岸の土手ポイントへと直行する。昨日、サンクチュアリ・センターのS氏より教えていただいた朝日と雁類の塒出
を観るためである。土手ポイントは宿からも近く、車だとすぐに着いた。駐車スペースには、すでに先客の車が4-5台止まっていて、土手にはカメラの三脚がいくつも並んでいた。
遅れてはならないと、こちらもカメラと三脚、観察用の望遠鏡などをセットして空いている場所に並んだ。周囲の人たちの話を聞いていると、どうやら鳥関係の人というよりも風景写真の人が多いようだ。スマホで時間を確認すると5:56だった。
<伊豆沼の日の出と雁類の塒出の観察>
11月とは言っても下旬、北国の早朝である。普通に寒い。寒さをこらえて土手で待っていると少なかった雁類の声が徐々に増えてくる。その多くはマガンのようで例によって" カハハン、カハハハ~ン " と沼の静かな水面に響き渡っている。その声がどんどん大きく響くようになると沼中央に浮かんで休んでいた雁たちのようすが落ち着かなくなって来るのが土手の上からもよく解る。すると隣の男性が「昨日は塒からの出方がばらけていたけど今日はいいかもしれないな…」と、コートのポケットに両手を突っ込んだまま呟いた。おそらく「リタイア世代」で近所から毎日来ているのだろう。
沼中央の雁類の塊をジッと凝視していると東の低い山並の上がオレンジ色に明るく変化してきた。しばらくして太陽が頭を見せると水面にオレンジ色の一条の光が差し込んで実に美しい情景が浮かび上がってきた。その光の中を雁たちが水面を忙しそうに行ったり来たりしている。パッと、第一陣の雁の群れが飛び立った。土手の上ではカシャカシャとカメラのシャッター音が一斉に鳴り出す。雁たちの群れも続いて小群になったり、大群になったりして所謂「雁行・がんこう」の棹の形になって次々と飛び立ち始めた。これと同時に太陽の位置もグングンと登って行き、あっと言う間にまん丸い姿を現わした。僕も土手の上で必死にシャッターを押していたが、あまりにも飛翔する数が増えてくると、昨日の蕪栗沼での「塒入り」と同様にボー然と立ち尽くすのみとなってしまった。そんなに長い時間ではなかった。沼がすっかり空っぽになった頃、スマホを確認すると7:25だった。
宿に帰り、連れ合いと地形図を眺めながら、今日のスケジュールを確認する。この日は伊豆沼・内沼周辺の「雁のいる風景」を中心に取材することとした。
<再度、カリガネを探す>
昨日の行程のトップに出会った小型雁類、カリガネのつぶらな瞳が忘れられなくて、これだけは今日も探すこととなった。昨日と同じく沼の東側の広大な干拓地を車で移動して行く。
昨日の場所には目標とするマガンの群れが降りていない。車を降りて干拓地の端っこから双眼鏡で舐めるように一枚一枚、水田を観ていく。諦めかけた頃、昨日とは別の水田に大きなマガンの群れが見つかる。目算で500羽程はいるだろうか。「この中にはきっとカリガネが入っているでしょう」連れ合いが呟いた。
干拓地でお目当ての野鳥を見つけたら、とにかく徐行運転。ソロリソロリとゆっくり近づいていく。少しづつ、ジリジリと距離を縮めていき、なんとかマガンの大群の真横に着けることができた。ここからは鳥たちを驚かさないよう車の中から音を立てずに、焦らず探して行く。「群れを見つけたらその端っこの方を観るといい」とS氏からアドバイスされていたので端を集中的に観て行くと…「いた!」またもや成鳥が2羽。「昨日と同じペアかな」と連れ合い。しばらく撮影させてもらい、昼食を簡単に済ませてから次のポイントへと移動。
<内沼でオオヒシクイを観察する>
カリガネとのしばしの再会を楽しんでから真っ直ぐに内沼へと向かう。ここは水面にオオヒシクイが観察されるという場所である。途中、緩やかな起伏のある里山の丘陵地を抜けていったのだが、日本の原風景的な景観が実に美しく好ましかった。30分弱で内沼の北側の駐車場に到着。車を降りて岸辺を歩き始めた。水際と岸辺には約500羽のカモ科、オナガガモが休んでいた。餌付けされているのだろうか、近づいても逃げるようすはなかった。
さて、オオヒシクイがいつも観察されているという広いヨシ原の前あたりの水面を双眼鏡で探して行く。結構遠いが黒っぽい水鳥の大きな群れが逆光気味の中にみつかった。望遠鏡をセットして詳しく観察するとオオヒシクイであることが判明した。目算で約100羽。この沼には他に鳥影が観られず、道路の向かいの「昆虫館」で世界の甲虫の標本を見てから14:10、次に移動する。
<伊豆沼の北部干拓地で雁類とオオハクチョウの餌場を観察>
次に向かったのは伊豆沼の北側にある雁類とオオハクチョウが昼間の餌場としている大きな干拓地である。14:45頃、干拓地を一望できる土手の上に造られた農道に到着する。双眼鏡で探すと距離は遠いが雁類とオオハクチョウの大きな群れが休息したり餌を採ったりしているのが解る。こうした環境での主な餌はコンバインで稲を刈り取った後の「落穂」で特別給餌はしていないのだということだ。さすがに東北の「米所」、落穂だけで十分に雁たちを養って行けるのである。
それにしてもカウントこそしなかったが、たいへんな数である。望遠鏡でじっくりと観て行くが雁類は、ほぼマガンだった。マガンに比べるとずっと数は少ないが体が大きく真っ白なオオハクチョウはよく目立っていた。時折、マガンの声に交じって" コホーッ、コホーッ" と、よくとおる声で家族が鳴き交わしていた。しばらく、農道を車で移動しながらマガンとオオハクチョウの群れに遊んでもらってから次のポイントへ移動する。
<伊豆沼の東岸で雁類の塒入りを観察>
この日のシメは伊豆沼での雁類の塒入り観察。15:40、塒入りの観察ポイントである北東岸の土手に到着した。車を降りてカメラや望遠鏡をセットし、観察を始める。着いてしばらくは水面を観ていっても、大した数の雁類、ハクチョウ類は入っていなかった。それが、待つこと20分、16:00を過ぎた頃から、北側と東側を中心に上空を雁の小群や大群が鳴き交わしながらゾクゾクと入って来始める。ほとんどがマガンである。僕らの立っている土手の対岸のヨシ原や水面に次々に吸い込まれて行った。日没後、16:35までの間に、天候は曇り空だったが十分にその数を堪能することができたのだった。
ここでタイムリミット、二日目の取材は終了。この日、東北の大地と、空と、水と、光と、そして鳥たちが織り成す大きな一枚のタペストリーを体感することができたのだった。明日は取材の最終日、今度はどんな場面が待っているのだろうか。
画像はトップが伊豆沼の日の出風景。下が向かって左から伊豆沼の雁類の塒出飛翔2カット、小型のカワイイ雁類カリガネ、内沼のオナガガモの群れ、伊豆沼北側干拓地で休息する雁類とオオハクチョウ、オオハクチョウのペア、広い干拓地上を大群で飛翔する雁類、伊豆沼に塒入りした後、水面に浮かぶ雁類。
この日は日の出前の午前四時頃より準備を始め、朝食抜きで伊豆沼の西岸の土手ポイントへと直行する。昨日、サンクチュアリ・センターのS氏より教えていただいた朝日と雁類の塒出
を観るためである。土手ポイントは宿からも近く、車だとすぐに着いた。駐車スペースには、すでに先客の車が4-5台止まっていて、土手にはカメラの三脚がいくつも並んでいた。
遅れてはならないと、こちらもカメラと三脚、観察用の望遠鏡などをセットして空いている場所に並んだ。周囲の人たちの話を聞いていると、どうやら鳥関係の人というよりも風景写真の人が多いようだ。スマホで時間を確認すると5:56だった。
<伊豆沼の日の出と雁類の塒出の観察>
11月とは言っても下旬、北国の早朝である。普通に寒い。寒さをこらえて土手で待っていると少なかった雁類の声が徐々に増えてくる。その多くはマガンのようで例によって" カハハン、カハハハ~ン " と沼の静かな水面に響き渡っている。その声がどんどん大きく響くようになると沼中央に浮かんで休んでいた雁たちのようすが落ち着かなくなって来るのが土手の上からもよく解る。すると隣の男性が「昨日は塒からの出方がばらけていたけど今日はいいかもしれないな…」と、コートのポケットに両手を突っ込んだまま呟いた。おそらく「リタイア世代」で近所から毎日来ているのだろう。
沼中央の雁類の塊をジッと凝視していると東の低い山並の上がオレンジ色に明るく変化してきた。しばらくして太陽が頭を見せると水面にオレンジ色の一条の光が差し込んで実に美しい情景が浮かび上がってきた。その光の中を雁たちが水面を忙しそうに行ったり来たりしている。パッと、第一陣の雁の群れが飛び立った。土手の上ではカシャカシャとカメラのシャッター音が一斉に鳴り出す。雁たちの群れも続いて小群になったり、大群になったりして所謂「雁行・がんこう」の棹の形になって次々と飛び立ち始めた。これと同時に太陽の位置もグングンと登って行き、あっと言う間にまん丸い姿を現わした。僕も土手の上で必死にシャッターを押していたが、あまりにも飛翔する数が増えてくると、昨日の蕪栗沼での「塒入り」と同様にボー然と立ち尽くすのみとなってしまった。そんなに長い時間ではなかった。沼がすっかり空っぽになった頃、スマホを確認すると7:25だった。
宿に帰り、連れ合いと地形図を眺めながら、今日のスケジュールを確認する。この日は伊豆沼・内沼周辺の「雁のいる風景」を中心に取材することとした。
<再度、カリガネを探す>
昨日の行程のトップに出会った小型雁類、カリガネのつぶらな瞳が忘れられなくて、これだけは今日も探すこととなった。昨日と同じく沼の東側の広大な干拓地を車で移動して行く。
昨日の場所には目標とするマガンの群れが降りていない。車を降りて干拓地の端っこから双眼鏡で舐めるように一枚一枚、水田を観ていく。諦めかけた頃、昨日とは別の水田に大きなマガンの群れが見つかる。目算で500羽程はいるだろうか。「この中にはきっとカリガネが入っているでしょう」連れ合いが呟いた。
干拓地でお目当ての野鳥を見つけたら、とにかく徐行運転。ソロリソロリとゆっくり近づいていく。少しづつ、ジリジリと距離を縮めていき、なんとかマガンの大群の真横に着けることができた。ここからは鳥たちを驚かさないよう車の中から音を立てずに、焦らず探して行く。「群れを見つけたらその端っこの方を観るといい」とS氏からアドバイスされていたので端を集中的に観て行くと…「いた!」またもや成鳥が2羽。「昨日と同じペアかな」と連れ合い。しばらく撮影させてもらい、昼食を簡単に済ませてから次のポイントへと移動。
<内沼でオオヒシクイを観察する>
カリガネとのしばしの再会を楽しんでから真っ直ぐに内沼へと向かう。ここは水面にオオヒシクイが観察されるという場所である。途中、緩やかな起伏のある里山の丘陵地を抜けていったのだが、日本の原風景的な景観が実に美しく好ましかった。30分弱で内沼の北側の駐車場に到着。車を降りて岸辺を歩き始めた。水際と岸辺には約500羽のカモ科、オナガガモが休んでいた。餌付けされているのだろうか、近づいても逃げるようすはなかった。
さて、オオヒシクイがいつも観察されているという広いヨシ原の前あたりの水面を双眼鏡で探して行く。結構遠いが黒っぽい水鳥の大きな群れが逆光気味の中にみつかった。望遠鏡をセットして詳しく観察するとオオヒシクイであることが判明した。目算で約100羽。この沼には他に鳥影が観られず、道路の向かいの「昆虫館」で世界の甲虫の標本を見てから14:10、次に移動する。
<伊豆沼の北部干拓地で雁類とオオハクチョウの餌場を観察>
次に向かったのは伊豆沼の北側にある雁類とオオハクチョウが昼間の餌場としている大きな干拓地である。14:45頃、干拓地を一望できる土手の上に造られた農道に到着する。双眼鏡で探すと距離は遠いが雁類とオオハクチョウの大きな群れが休息したり餌を採ったりしているのが解る。こうした環境での主な餌はコンバインで稲を刈り取った後の「落穂」で特別給餌はしていないのだということだ。さすがに東北の「米所」、落穂だけで十分に雁たちを養って行けるのである。
それにしてもカウントこそしなかったが、たいへんな数である。望遠鏡でじっくりと観て行くが雁類は、ほぼマガンだった。マガンに比べるとずっと数は少ないが体が大きく真っ白なオオハクチョウはよく目立っていた。時折、マガンの声に交じって" コホーッ、コホーッ" と、よくとおる声で家族が鳴き交わしていた。しばらく、農道を車で移動しながらマガンとオオハクチョウの群れに遊んでもらってから次のポイントへ移動する。
<伊豆沼の東岸で雁類の塒入りを観察>
この日のシメは伊豆沼での雁類の塒入り観察。15:40、塒入りの観察ポイントである北東岸の土手に到着した。車を降りてカメラや望遠鏡をセットし、観察を始める。着いてしばらくは水面を観ていっても、大した数の雁類、ハクチョウ類は入っていなかった。それが、待つこと20分、16:00を過ぎた頃から、北側と東側を中心に上空を雁の小群や大群が鳴き交わしながらゾクゾクと入って来始める。ほとんどがマガンである。僕らの立っている土手の対岸のヨシ原や水面に次々に吸い込まれて行った。日没後、16:35までの間に、天候は曇り空だったが十分にその数を堪能することができたのだった。
ここでタイムリミット、二日目の取材は終了。この日、東北の大地と、空と、水と、光と、そして鳥たちが織り成す大きな一枚のタペストリーを体感することができたのだった。明日は取材の最終日、今度はどんな場面が待っているのだろうか。
画像はトップが伊豆沼の日の出風景。下が向かって左から伊豆沼の雁類の塒出飛翔2カット、小型のカワイイ雁類カリガネ、内沼のオナガガモの群れ、伊豆沼北側干拓地で休息する雁類とオオハクチョウ、オオハクチョウのペア、広い干拓地上を大群で飛翔する雁類、伊豆沼に塒入りした後、水面に浮かぶ雁類。