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鼻血問題を知ったのは3週間前のFacebookだった。現在、漫画の描写を巡ってテレビ番組や雑誌で特集が組まれたり、新聞の投稿欄で意見が述べられたりしている。
実際、漫画「美味しんぼ」を私はよく知らない。20年ほど前に日テレ系で放映していたアニメを見たり、床屋や医院の待合室に置いてある単行本化したこの漫画をぱらぱら読んだりした程度で、うんちく漫画の一種ととらえていた。
この「美味しんぼ」問題を福島市の住民という視点から考えてみたい。まず、実在の人物や地名を出した時点で読者をノンフィクションものとミスリードしていると言えよう。そして、一部分のことを殊更に拡大解釈しているとも感じた。一部の地区では真実であっても、それが全域に当てはまるとは限らない。
S・アンダーソンの「オハイオ州ワインズバーグ」の「老人はまことに精緻な理論をたてていた。彼の考えによれば、一人一人の真実を自分のものにして、これこそわが真実といって、それに基づいて自分の人生を生きようとするとたんに、彼はグロテスクな人間に化してしまい、彼が抱きしめている真実も虚偽になってしまう」という一節を思い出した。日本では余り馴染みがないが、現代アメリカ文学に多大な影響を与えた短編集とされ、私が学生時代に米文学ゼミ内で講読した作品である。
確かに平成23年の3月の原発事故から5月頃に掛けて、避難指示地区には指定されなかった福島市や郡山市で子どもたちが突然鼻出血をした、原因不明の微熱が続いたことなどが話題となっていた。居住制限地区や避難勧告地区の住民が遠くに避難したのと比べ、どこにも行けず悶々と暮らしていた地区だ。周りの地区が国や東電から金銭的な支援を受けて避難しているのに、福島市や郡山市は何の指定も受けていないために避難するならば自腹で避難するしかなかった。当時、福島県が雇った長崎大学の教授たちは「この程度の低線量では心配ありません。」と繰り返すばかりであった。人々は御用学者と噂した。各所からいろいろな研究者がやって来ては「国際的な放射線の基準をはるかに超えている。」とも言った。県内の多くの医師たちが放射線の危険を感じて福島県を離れて行ったことも県民の不安を掻き立てた。
そんな頃に話題になったのが、くだんの鼻血だ。放射線との因果関係は分からない。低線量での出血は考えられず、恐らく、子どもながらに強いストレスを感じた結果だとか、親が空中に浮遊する放射性物質の外部被曝を恐れて戸外に出さず窓を閉め切った室内でのみ遊ばせていたためにのぼせたのではと言われた。実際、梅雨入り前の5月下旬には、盆地である福島市の最高気温がその日の全国一になることが多い。
因果関係というのは証明するのが非常に困難である。それは公害病や原爆症などで周知のことである。鼻血が出ることがあったのかも知れないが、それを福島県全体のこととして語るのは乱暴過ぎる。福島県は都道府県中、北海道、岩手県に次ぐ第3位の面積で県の西部の会津地方は原発事故の前後で線量がほとんど変わっていない。県の南東に当たるのいわき市も同じだ。
まとめである。原爆被爆や原発作業の高線量被曝は研究が進んでいるが、今回のような低線量被曝はデータがほとんどない。低線量下で人々が普通に生活している今回のケースは世界の耳目を集めているのは確かだ。だが、鼻血や疲労感を間違いなく放射線のせいだと断言し、福島県全域を危険で人間が住むべきでないと描くのは余りに乱暴な論で、デマゴーグと言わざるを得ない。
画像は解像度が低いが、ネットで流布される山本太郎氏のコラージュ画像。よく見ると,山本氏がたらりと鼻血を出し、タブレットに表示されている「美味しんぼ」のキャラクターたち全員も鼻血をたらりとたらしている。しかめっ面をするより、こんなふうに笑い飛ばせるのって素敵!
コメントありがとうございます。あのコラージュを作成した人は無名の人です。山本議員が反原発の運動か何かをしている画像にタブレットや鼻血を付け足したものです。この「美味しんぼ」問題と、山本太郎の周りのことを全く読まない空回りぶりの両方を茶化していてとっても気に入りました。いつの世も庶民のほうが健全な批判精神を持っているものですね。
私の書き方が悪かったのですよ。
>ネットで流布される山本太郎氏のコラージュ画像。
という書き方が曖昧ですよね。山本氏が作成したのか,山本氏の画像を誰かが加工したのかが分かりづらいです。
いずれにしろネット上の無名のコラ職人の技にくすりとすることがよくあります。
(^_^;)
こちらは初夏のような天気、お体にはくれぐれもお気をつけ下さい。
一部の政治家が収束したとか,管理下に置かれているとか言っても,こちらでは汚染水が増え続けているし,廃炉作業がいつ始まれるかが全く分かりません。流浪の民となって苦悩し続ける人々もいれば,金儲けのチャンスだからもらえるものは何でももらおうと思っているいる人もいます。原発事故は,ふるさとに分断を作りました。