日本の伝統的なスポーツとして期待されたオリンピックの柔道が終わった。
世界の変則的な柔道の中で、日本の名誉と自分のプライドに賭けて健闘した男女の各選手の健闘に感謝し老をねぎらうとともに、入賞した皆さんにお祝いを申し上げたい。
[日本柔道のこれから]
日本選手の活躍の中で印象に残ったのはやはり日本人の期待を一身に背負って戦った女子48キロ級の谷さん、男子100キロ級の鈴木桂治さん、100キロ超級の石井慧さんの試合ぶりだった。
谷さんは谷亮子さんと柔道連盟 にも書いたが、世界の柔道を熟知している彼女が、準決勝で、多分相手の作戦に嵌まって、一度も床に体をつけることなく、「指導」により負けてしまった。
鈴木さんは日本流の綺麗な柔道スタイルの一瞬の隙を突かれて、無念の「一本」負けを二度も取られた。
石井さんは優勝戦では日本では批判されていた「ポイント」稼ぎに徹して優勝した。
世界で流行している戦術
今世界で流行しているのは、技を掛けられない様、手を突っ張り腰を出来るだけ引くか、日本流に立った姿勢で長い手を突き出して相手の動きを制するか、身長差がある場合は相手の奥襟をぐっと引き寄せて動きを制する(谷さんはこれを嫌って指導を取られた)間、「指導」を取られないように、全く効かないと判っている技を相手より余計に出す戦術だ。
そして良く用いられる決め手となる攻撃方法は、鈴木さんが負けた「朽木倒し」や「双手刈り」と称するレスリングまがいの足取りか、 「隅返し」と言う足をまたの間に入れて力任せに相手を巻き込むという「巴投げ」の変形の技で今までの日本では全くのマイナーな技だった。
柔道が国際化してJUDOになったのは喜ばしい事だが、日本の独走を防ぐために世界では「技」より「力」が物言う柔道、「一本」より「ポイント」で勝負が決まる柔道になってしまった。
その変化に対応仕切れなかった日本は一時不振に陥った。
そして改めて技と一本勝ちの重要性を見直して今日に至っている。
然しそのその結果として東京新聞は日本のお家芸がピンチだ。た北京五輪の柔道で、日本は金メダル四個とアテネ五輪の八個から半減した。特に不振が目立ったのは男子。メダルは金二個のみで、一九六四年の東京五輪での競技採用以来、過去最少だった四個を下回った。日本流の技の柔道は、力勝負の世界の流れに取り残されている。と報じている。
[技の柔道を護ろう]
然し私は日本はあくまで技の日本であって貰いたいと思う。
何故なら柔道を愛する日本人の立場から言えば、
・「柔よく剛を制する」のが柔道の精神だ。
・日本が力の柔道、ポイント稼ぎの柔道に変わってしまったら、日本伝来の柔道が国際化のお蔭で消えてしまう。
・体格と腕力に劣る日本人が外国人を倒すには、「技」しかない。
一般の観客の立場から言えば、
・組み手争いで殆どの試合の時間を費やし、「指導」のポイントで勝負が決まるなど見ていて全く面白くない。
同じ格闘技のレスリングは体以外に掴むものがないので、相撲のようなスピード感があり、レスリングなど全く素人の私でさえ、「指導」のポイントで勝負が着く柔道より遥かにレスリングの方が面白い。
これでは柔道は衰退の一歩を辿るだけだからだ。
谷さんが負けた準決勝、石井さんが勝った決勝は、日本人としてははらはらどきどきの戦いだったが、無関係の人達が見れば全く面白くない無味乾燥の試合だったに違いない。
その一方、日本選手がしばしば見せた必殺技は観衆を魅了し、柔道女子78キロ超級の塚田真希さんの勝利直前に中国選手の見せた一発逆転の背負い投げは残念だったが、一面から見れば柔道の醍醐味を示すものだ。
日本柔道連盟は正統派の柔道を貫いた、鈴木さんが完敗し、ポイント稼ぎに徹した石井さんが優勝した事実、男子陣の金メタル僅か二つの事実から、厳しい選択を迫られることになるだろう。
・一つは全日本柔道選手権を見てで触れたように、男子選手に比して好成績を上げた女子選手のように選考会一発でなくて過去の総合成績も加味して選ぶか。(*注記)
・もう一つは今までの「技」「一本勝ち」中心から世界の現実を見て、ポイント稼ぎに徹するか、今までレスリング紛いと軽蔑していた「朽木倒し」や「双手刈り」にも力を入れるかだ。
[私の希望]
・前者の選手の選考法は、かりに過去の成績を加味するときは、選手達や関係者に判るような一定のルールを作りそれに従って選考すること
・後者の戦い方の問題は大変悩ましい問題になるだろうが、今までのように、飽くまでも正統派の柔道を貫き、世界戦での戦法はそれと別の対策を考えて貰いたいものだ。
・世界の柔道界に対しては、柔道の人気を低下させるような、今のポイント稼ぎする人が優位に立つ試合や審判方法を改めて、例えば組み手争いが延々と続く場合は、柔道の正式の組み方に従って双方に引手、釣り手をしっかり持たせた上で、試合を再開するなどもっと技の優れた人が優位になるようなルールを作る様申し入れをして貰ったらどうだろうか。
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*注記
オリンピックでの成績
男子では金メタル:100キロ超級の石井慧さんと、66キロ級の内柴正人さん、
女子では金メタル:70キロ級の上野雅恵さんと63キロ級の谷本歩実さん
銀メタル:女子78キロ超級の塚田真希さん
銅メタル:52キロ級の中村美里さんと48キロ級の谷亮子さん