
おそらく野良猫だったミーちゃんがこの家にやってきて、二階のベランダから逃げたかと思ったら、やがて妊娠、6匹の子猫たちが生まれた。それが去年の8月2日である。ミーちゃんは健気にいいお母さんをしていた。時に息せき切って授乳し、身体を休め、そして子育てを続けてきた。
6匹の内一匹の縞模様のある茶色の子猫は2ヶ月もならない内に身体が冷たくなり、残された5匹はすくすく成長した。5匹は生まれたときから兄妹として、仲良く暮らしてきた。2ヶ月半頃から子猫の譲渡会に参加した。数回糸満や読谷、宜野湾に車で連れて行って、幸い、2匹の子猫たち、ヨー君とター君は良いご家庭の方々に迎えられた。その間の出来事は涙ぐましい物語で長くなるので割愛。残されたのは母親のミーちゃんによく似たユー君と鍵しっぽのシーバ、そして唯一の女の子の黒子ちゃんである。
誕生からこの間、彼らと過ごしてきた日々はコロナ禍の異様な社会環境の中で、心に灯りを与え続ける。家の内外を自由に出入りさせながら見守っている3匹の兄妹と母親のミーちゃんはかけがえのない存在で、一匹でもいなくなると、心配でしょうがない。一度シーバが一晩戻ってこなくなった事があった。幸い朝になるとひょこり食べ物を置いているコーナーにやってきた時は安堵した。
(ミーちゃん母さんとその子供3匹を飼うのはたいへんだから、また譲渡会につれて行ったら、と忠告を受けたりしているが、こちらの心が動かない理由がある。)
二日前、失踪事件がまた起こったのかと思えることがあったのだ。朝4時頃二階の寝床ですぐそばにやってきたユー君がいた。すぐ横に寝ていて、顔を覗き見て前足(手のような)で優しく触れてきた。お腹が空いたので一階に来てよ、のサインだとわかってはいたが、庭の手入れで疲れ切っていた。時計を見るとまだ4時半だ。「ユーちゃん5時まで待ってね」と声をかけていながらそのまま寝入っていた。気が付いたら6時になっていた。急いで一階に降りて行った。しかし普段食事の催促でいるはずのユー君と黒子ちゃんがいない。
朝の食事を取ると、3匹でじゃれ合ってレスリングをしたり、走り回る光景を繰り広げるのだが、なんと2匹が見えない。シーバが一匹、どうして他の兄妹がいないのか、不思議そうに、うろうろとあたりを駆け巡っているようなのだ。それは母親のミーちゃんも一緒だった。玄関を開けるといつもよじ登る電柱に上がって隣の塀に降り立って、あたりを見渡したり、庭や家の後をぐるりと回ったりする。ミーちゃんも落ち着かない様子で二匹が動き回っている。行き止まりになっている通りの、端の家の空き地になっている地階にも行ってみた。ミーちゃんは先回りして向かった。しかし、いない!後ろのお隣さんの家の近くにも行った。シーバもその近くまで行って首を伸ばして道のその先を見据えている風だった。
誰かが2匹を車で連れ去ったのだろうか。それとも遠出だろうか。不安はきりがない。戻ってくるまで気長に待つ他ないと諦めて家の中に引き返した。「シーバ、しょうがないね。心配だね」などと声をかけたりした。ユーくんが食事の催促で起こしにやってきた時に、起きなかったのが悪かったのだと、自責の念がやってきたりした。もしいなくなってしまったらどうしょう。
それからしばらくして、2時間半ほど経って、開けていた玄関からユー君が戻ってきた時、シーバが喜び勇んでユーの首に抱きついた。じゃれるようにしがみついた。人と人の再会の抱擁と同じだった。その場面を写真に撮りたかった。兄妹の愛情の深さをその時目撃した思いだった。シーバが少し狂ったように走り回っていた姿、大きな歓喜になって眼の前に繰り広げられた束の間の光景に、「ああ彼らを離れ離れにできないな」と、なおさらその思いを強くした。
ミーちゃんも安堵したように見えた。黒子ちゃんが戻ってきたのはその直後で、ユーと黒子が一緒だったのか、どうだったのか、よくわからない。それにしてもどこをさまよい歩いていたのだろうか。2匹に聞くこともできず、ただ「シーバもミー母さんも心配で心配で探したのよ」と声には出したが~。
生まれてからずーっと一緒の猫の兄妹たち、彼らの愛情は深い。無下に兄妹を引き離すことは、ペットだからと言ってできない。感情が流れている。寂しいと思う感情、いつも一緒にいる兄妹がいなくなることの空虚感をシーバもミーちゃんも味わっていた。
ミーちゃんは不妊オペの後もやはり母親として生きている。食事も3匹の子どもたちの後に食べている。黒子ちゃんはいつまでも小さな子猫のようにお母さんとしてミーちゃんを追いかけ、母乳のでない乳房を求めている姿がある。ミーちゃんが食事中にわざわざ顔を突っ込んできたりしている。ミーお母さんの後ろを追いかけるのである。いつまでも母さんは母さんなのだ。
甘えん坊の子猫たちも、生まれて9ヶ月になる。昨日のユーくんは疲れていたせいかぐっすり寝ていた。そして今朝も2階のこちらの寝床にやってきてすぐそばに寝ていた。5時頃には顔を近づけてきた。前足は柔らかい。
今朝はすぐ飛び起きた。5月のゴールデンウィーク中だがオンラインの授業があった。