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組踊保存会の新春公演を久しぶりに観劇した。現在保持者は83名だが立方は21人。世代交代をしてもっと新しい中堅の方々が保持者認定を受ける必要がありそうだ。但し、伝承者のみなさんが、国立劇場おきなわの自主公演で活躍しており、その面々がキラキラ★で、国立の自主公演は意外と客席は満杯である。広報がしっかりなされているということが大きいのだろう。チケット代金も友の会が2割引というサービスもある。
その点、『保存会』の名称のどの芸能団体の公演も観客が少ない傾向にあるのはなぜだろう。(3団体の公演を観た印象)国や県から助成金を受けての公演である。伝承者を育成してその成果をご披露する会でもあるのだが、今回の『組踊』公演にしても、中身が良かっただけに、客席の空席がもったいないと思えた。
以前はよく組踊を観劇したが、昨今は新作はしっかり観るようにしている。旧作の古典は以前何度か見ているゆえに、あえてこの立役を観たいというパッションによって劇場に向かうわけではない。
『花売りの縁』は人気が高い作品である。今回は大湾三瑠さんの乙樽を観たいと思った。かの画期的な昭和11年の東京公演では、金武良章も演じている。大湾さんの抜擢が納得がいく所以である。長旅で疲れ切っているはずの乙樽と元気のいい鶴松の姿はどことなく草臥れた様子だが利発的な息子の姿が胸を打つ。冒頭に乙樽が息子鶴松と連立だって名乗りをする。乙樽のアイデンティティを語り、旅の目的を語る。女性の目的とアクションが物語の主軸である。親子の情愛が本筋だが、対面までの道筋に登場する猿引と猿踊りを楽しみ、また薪取りの翁との遭遇など途方に暮れていた母と息子が終に塩屋田港へ出向き、そこで花売りの夫と再会する場面は見せ場だ。セリフと歌の重なりや情感が高まる物語だが、今回新たに発見があって良かった。
猿の素振りや踊りは旅の疲れを忘れさせる一時であったに違いない。今回驚いたのは猿と猿引への謝金を懐から出して手渡したのは鶴松であり、また猿の踊りを所望したのも鶴松だった。まだ少年の鶴松が母親に代わって取り仕切っているのである。謝金を渡す際も母親と鶴松の方に呼び寄せて手渡す。身分制度社会にあっての所作とも言えようが、鶴松の動きは母親の手引もあるが、積極的だ。薪取りの老人との遭遇にも毅然とした乙樽の姿がある。
森川の子との再会の場面はこの作品のクライマックス。12年の年月を経て万感の思いは地謡が干瀬節を歌って代弁する。母親の言いつけを健気に行動に移す鶴松の姿は微笑ましい。父親に会いたい思いの深さゆえか~。詞章や歌も聴き応えがあった。上間克美さんは以前から声音に、三線演唱に魅了された方だ。字幕に歌詞と節名が記載されているのはいいが、どなたが歌っているのかも紹介してほしい。地謡の方々の口元を見て判断しているのだが~。
森川の子の盛義は卒なく演じた。唱えも聴き応えがあった。一方で乙樽の唱えにはもう少しまろやかさが欲しいと思った次第である。薪取の金城陽一は台詞をしっかり覚えていない様子で完璧に唱えていなかったことが残念だった。
「護佐丸敵討」はあまおへの川満香多が大胆で瑞々しかった。亀千代の宮城茂雄の役を田口博章が演じ、亀松を演じたのが宮城茂雄で、親泊久玄は舞台に登場しなかった。昨今の風邪は喉がやられると聞く。お元気だといいのだが~。お二人は息があって快活に演じきった。母親役の島袋光尋氏に覇気が弱かった気がしたが、親子が離別する重要な場面である。
久しぶりの古典組踊、子役の澄んだ唱えと伝承者の輝きが印象に残った。歌三線演唱者の歌声に聞き惚れた。詞章の味わいも発見があって良かった。熟れた保持者芸の良さとゆるみも見えた。劇場を満杯にするプロデュースの力量を発揮してほしい。(市町村の老人会や文化協会、多くのデイケア‐施設や老人ホームなどに足を運んで料金を幾分割安にするとか、方法はいろいろありそうに思える。)組踊は面白い!詞章は味わい深く、歌がまた何とも言えない古典音楽の美を醸している。
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- 以下は当日のパンフレットです。広告を拝見して組踊に多様な団体があることが分かりました。
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