志情(しなさき)の海へ

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第5回大湾三瑠独演会は盛況、二部の雑踊りは手拍子で劇場が祝祭のようでした❣️

2023-06-06 12:28:09 | 琉球・沖縄芸能:組踊・沖縄芝居、他
一部は古典女踊り、伊野波節と、組踊「忠孝婦人」の谷茶の按司と乙樽のかの一番人気の場面だ。乙樽の言の葉に心揺すぶられ、その美貌に惹かされた谷茶の按司の告白と強引さをやんわり、かわしていく乙樽の唱えと所作、対する按司の道化のような所作や唱えは、会場に笑いのさざなみが起こった。神谷武史の谷茶も大湾三瑠の乙樽も、耳目を楽しませた。お二人とも初挑戦。神谷さんはすでにその役を演じてきたとばかり思っていた。乙樽に対する按司の右往左往する所作や唱えは思わず笑いがこぼれた。刀を振り上げようとする按司をクールにあしらい、こてい節「御慈悲ある故ど 御萬人のまぎり 上下も揃て 仰ぎ拝む」を踊って緊迫した場をおさめた乙樽の知恵とレトリックは優っていた。 
  台詞(唱え)のやりとりと所作が分かりやすく、パンフの中には抜粋された詞章と訳も丁寧に紹介している。
 組踊の唱えに対して、以前東京で組踊保存会が公演した時、実際に東京国立劇場で鑑賞した方の舞台評を拝聴したことがある。組踊保持者の第二次(昭和61年)の候補に当初、真喜志康忠氏は推挙されていなかったという。しかし矢野輝雄さんなどは東京でご覧になっていて、他の保持者や伝承者に比べて声音(詞章の唱え)が明瞭で技量も抜きんでていた真喜志氏がなぜ、推挙されていないか、疑問が投げられたのである。真喜志氏が第二次組踊保持者に選考された背景に、沖縄側、宜保栄治郎さんや大城学さん(?)の書類(意向)に訂正が入ったのである。(第二次保持者推挙の当時の担当者は県の文化財課で確認できますね)
 つまり真喜志氏の実力は、沖縄側の文化政策を担う方ではなく、中央の芸能の見巧者(目利き)、専門家によって高く評価されたのである。
 この事例をもってきたのは、例えば以前はよく能と組踊、狂言と組踊の競演が沖縄でも開催され、その度に組踊立方の声の演技や迫力の弱さに顔をしかめざるをえなかった経験がある。(東京の国立劇場での組踊公演も視聴したことがある。小劇場だったが~)。一方で組踊の独特な個性や味わいを再認識する場でもあったが、基本的な声量や技の巧みさは、能や狂言に劣っていると感じた。首里王府士族階層のいわば公務員芸で、1719、1756、1800、1808、1838、1866の御冠船の際に冊封使(中国王朝の皇帝が付庸国の国王に爵号を授けるために派遣する使節)の歓待芸であった。1800年には公に上演された記録はない。まったく上演されなかったのか、それとも何らかの形で上演された痕跡はありえるかもしれない。遊廓などで~。
 ともあれ、国劇として重宝され、現在に至る。脚本が残されたのは、国の威信をかけた芸であり、清からの使者に対する饗応のため、翻訳本演戯故事「冠船芸能で上演された組踊の基礎的研究 : 演戯故事と組踊台本との内容比較を中心に 」(我部大和)
も取りそろえる必要があった故もあったのだろうか。
 ここで言いたかったことは、神谷さんと大湾さんが、近代において「忠孝婦人」として、とても人気のあったこの組踊の最高潮の場面を抜粋して演じたことは、とても良かったと思う。初演ということで画期的。引き込まれて笑い、冷静な乙樽の踊にも感銘を受けた。ただ唱えに関してこれでベストかというとそうではないと感じた。劇場のキャパにもよると思うが、1000人が入る明治時代の仲毛演芸場(仲毛芝居)で、当時の役者はマイクなしで唱えたのだ。地謡の歌三線演唱者の唄声の魅力を凌駕するほどの唱えの美を、もっと追究してほしい。

「伊野波節」は安座間本流独特の型が観られて良かった。玉城盛重系の踊の型とも異なる味わいがあった。地謡の演唱も聞きごたえがあり、実に落ち着いた女踊だった。
  
 二部は「暁節」で踊る女踊り、しっとりとした振付と踊りで、地謡の歌唱も良かった。髪結いの形が士族女性を意識した扮装で衣装も品位が感じられた。紅型衣装は藤村玲子さんの作品。
 私自身の古典女踊への疑問は、歌詞のほとんどが男性ユカッチュの恋心の表出ゆえに、それを女踊として振り付けた両性具有的な表象に琉球独特な感性が表れているのではないかという事である。そして恋の対象は辻や仲島の美らジュリだったというのが史実ではないかと~。

雑踊「鳩間節」は、後半笑いがこぼれるほどで、舞踊家大湾三瑠の個性的な振りだった。多くの舞踊家が踊っているこの軽快な踊には、舞踊家の個性が出る。振付は伊良波尹吉になっているが、独特な味わいは舞踊家の天性なのだろう。
 創作「恋路浜」は南洋浜千鳥節、浜千鳥節、下千鳥節、新永良部千鳥節と
千鳥節のバリエーションが面白い。雑踊「浜千鳥」に対して男性の望郷の念を歌った歌詞に振り付けている。クバ傘が目に焼き付いた。物語になっている!

最後を明るく踊ったのは創作舞踊「いちゅび小」である。
冒頭から笑いと拍手に包まれた。衣装が以前と異なり、より軽快なイメージに感じられた。また足遣いと指遣い、ガマクや腰の振りなど、笑いを取りながら拍手に包まれて幕が降りた。

 なんと6月4日は大湾さんの誕生日だと崎山律子さんのアナウンスがあり、それもまた喝采を受けていた。職場のコザ信用金庫の皆さんの応援、また会社から推薦され全国信用金庫協会より「第26回信用金庫社会貢献賞 個人賞」を受賞する、という快挙の報告も冒頭にあった。「沖縄の伝統芸能の保存継承および普及発展活動」が認められたのである。ダブルの喜びに包まれ、大湾三瑠フアン層や琉球舞踊界で、一段とその「究道無限」の精神が評価されることになった独演会に違いない。金武良章、安座間澄子両師匠の踊の技芸を引き継ぎ、さらにそれを極めていく姿に、心が満たされる風が流れた小劇場だった。笑いが思わず出てしまう雑踊や組踊はいいね。


 按司の軍配を持って踊る古典女踊「女特牛節」パンフより

 創作舞踊「よー加那よー」パンフより パンフには「いちゅび小」と紹介されている。

  

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