故郷に帰るたびに、空白感を覚えた。一人、一人と櫛の歯が欠けるように人がいなくなっていくのだ。次はだれの番なのか、と、ささやく声が聞こえてくるようなそんな故郷のたたずまい。同じで同じではなく、日々無常がそこにある、。あの時、あそこで、あの川で、あの海で、あの、あのマングローブの中で、大きな貝を採って遊んだのだ。あの川の土手から釣り糸を垂れて魚を取ったのだ。海面が幾重もの輪を描いて銀色に輝いていたあの時はもはや記憶の中に刻まれたままそこにありつづける。ある日、突然、順番が回ってくる。思いと裏腹にその時がやってくる。人はみな、その時の準備を心構えをしなければならない時がくる。去年の今頃、海辺を散歩するゆとりがまだあったのだ。犬との散歩が満たしてくれたもの、在りし日の時を手繰り寄せるように歩いた。そこは多くのものがつまった場所、そこで触れ合った命の数々が今のわたしの中に根付いている。たゆたう時間があって、1日がとても長く感じられたあの頃、大きく見えた畑や森が、今気が付くと小さな集落を囲むようにそこにありつづける。畑地になったり、茫々と草に追われた水田もそこにありつづける。
強く、優しかった彼女が逝ってしまった。約束は果たされないままに残
されている。約束を果たして、わたしもまた列に並びたい。列が幾列も
並んでいる。それぞれの列に並ぶ人垣、母さん、もらいぱなしの貴女の
愛をいつでも求め続けるわたしがいる。愛を返さなければねー。