
今朝メールを開くと沖縄大学地域研究所の『地域フォーラムForum』Vol.34 2012が届いていた。沖縄タイムス社会活動賞を受賞している地域研であり、所長の緒方修氏の強烈な個性が導いた盛りだくさんのフォーラムやシンポジウムへの評価だと言える。おめでとうございます!一昔前のかなり閉鎖的に感じた地域研究所とは180度変わった顔の表情に、個人の知性・感性の相違がもたらすものをまずイメージした。
地域フォーラム34号に緒方氏が書かれたエッセイが、面白いと同時に『中国脅威論』を思い出した。氏が毎月東京出張をされて霞ヶ関の日本の権力の中枢で見聞きした事がらは世界中に広がる中国人移民への脅威のちらしであり、中国内部で人権被害にあっている「法輪功」のことであり、中国共産党が弾圧している宗教団体、ウィーグルやチベットでの人権抑圧への言及であり、原発実験、などなどー。以下は引用。
「法輪功に対してはひどい拷問、臓器摘出などが伝えられています。中国は纏足、宦官などの伝統もあります。じゃあ日本の切腹は何だ、と言われそうですが中国共産党は選挙で選ばれた民主的な政党ではありません。中国4000年の歴史において選挙でトップが選ばれたのは台湾のみ、かつては強権政治と批判された国が、今や民主国家となりました。中国は経済は発展しましたが、格差は広がり、人民の不満は増すばかり。日本ももうかるからといって無暗に中国に進出するのは考え物です。結局は中国政府と共に、日本政府も信用を失います。いや既に震災後の無策、原発再稼働で、十分信用は失墜しているのかもしれませんが。」
引用したのは氏が書かれた最後の部分である。短いエッセイである。このいかにも現象的な氏のエッセイに少々エモーショナルな反応が起こったということであり、氏の知性・感性が偏っているのではないのかと感じた。
最近『マトリックスからアメリカ人を解き放つ』『西欧民主主義は現実か見せかけか?』『中国の勃興、アメリカの没落、そして中国のメラミンとアメリカのVioxx:一つの比較』『幼い学童が警官に逮捕され、手錠をかけられ、残忍に扱われる10の最悪例』などの論稿エッセイを読んだばかりで、直接選挙(選挙制度)や人権抑圧の観点、それも具体例はないなかでの緒方氏のいかにも中国脅威論に組し、それを感情的に補完するようなエッセイは氏が地域研究所所長という肩書きゆえになお、疑問を感じたのである。
人権抑圧の点で宗教弾圧も含め中国批判をする時、もっと具体的事例をもってきて論を展開しないかぎり誤解を与えるのではないだろうか?「法輪功」への弾圧は確かにネットでもその凄まじい拷問の状況、ある女性の事例などを見たことがある。しかし人権侵害を語る時比較の視点が必要で、もちろん日本であり沖縄であり、中国以外の国々の人権侵害がどうなのか、複眼的視点で語らない限り、主観的でエモーショナルな言辞で終わる。そして同じようにエモーショナルに読む人に訴えるということになる。中国でやられている以上の人権抑圧を例えばチョムスキーが自国アメリカを『テロリスト国家』と名指したように、実は中国以上に麗しい世界の民主主義国家を誇るアメリカこそがもっと多くの人間を、何百万も昼間から堂々と殺してきた国であることは明らかに思える。
Dr.Paul Craig Robertsは「アメリカの選挙で選ばれた民主的な政府より、中国の専制的政府の方が実際は自国民に良く対応しているのだ。~省略~しかも世界中で拷問監獄を運用しているのは中国ではない」
「しかも他所の国を爆撃し、占領し、無人機攻撃をしているのは、中国ではなくアメリカの収奪エリート連中だ。《アメリカに良くしないとお前らの国に民主主義をもたらしてやるぞ」ーーこれ凄いアイロニーですよね。
思うに民主主義という名の透明な全体主義が現在まかり通っているのである。それをアメリカカウボーイが実践しているのが現況ではないのだろうか?9・11、3・11を経た21世紀である。混沌として世界情勢があり続けるのだが、メディアがご専門の緒方氏は世界にアンテナをめぐらしていると推察するのだが、どうも霞ヶ関と沖縄、台湾、だけから中国を判断しても、片手落ちではないだろうか?もちろん緒方氏は聡明なので、単に昨今見聞きした現象をことばにされたのかもしれない。
でも緒方氏のエッセイを読むと、中国は怖い国の印象で終わってしまうね。多くの若い日本人が北京や上海に留学する21世紀である。アメリカに留学するよりも北京やソウルやアメリカ以外の国々への留学が増えているとネットメディアで読んだのだが、これも具体的なデーターが要求されよう。
この中国脅威論を論じる時、民主主義とは何かが問われることになる。一党独裁の共産党支配の中国の内側はもっと開かれるべきで、選挙制度の確立も推進してほしいと思う。一方で世界の民主主義の帝王を誇るアメリカ型民主主義への疑問が起こる。また半主権国家と揶揄される(主権がないという論著もある)日本の民主主義も問われ続ける。そして沖縄、国内植民地と敬愛する大城立裕氏は書いている。この沖縄の民主主義はどのように実践されているのだろうか?沖縄の人間が自らこの琉球弧《沖縄》の将来のビジョンに決定権を持てない仕組みになっているではないか!
東京都知事がシナ人、シナ人と中国を蔑む東京都が尖閣諸島を買い取る運動をしているが、それはナショナリズムを煽る運動にしか思えない、尖閣諸島周辺を非越境地域にして国を超えた共同の地球開発地域にしたらいいと思う。平和外交が問われているのであって、戦争を煽るような知事の少年の冒険心のようなことばには違和感を覚える。それから日本は全く尖閣諸島の既得権はそもそもなかったのでは?琉球王国はあったのかもしれないがー?