「世界の書棚から」第16回『多様性とコミュニティを描く ~アメリカの絵本の絵と言葉~』に行ってきました (2023.6.10)@板橋区立中央図書館
第15回の台湾に続いて 第16回は アメリカです
子どもたちが自分や他者を理解するためには 多様性を認めることが重要です
人種や思想 ルーツなどの異なった様々な人々が暮らすアメリカでは 絵本を使った多様性理解促進が見られます
アメリカの絵本の絵と言葉が 子どもたちの多様性やコミュニティへの理解をどのように導いているのか アメリカで育ち 美術そして絵本に精通した講師お二人にお話いただきました:
Diversity in Childrens Books 2018 という アメリカの児童図書センターの統計によると 絵本の主人公の割合は 約半分が白人であり 1/4が動物等 そしてまだまだアフリカ・アジア・ラテン等は少ないとのこと
絵本は 鏡(自らのアイデンティティーを見る) そして窓(他の物語を知る) そしてドア(他の世界に入ってゆく)なのですね
アメリカには 様々な絵本の賞(Awards for Childrens Books)があります
障害 LGBT 他民族など diversity(多様性)を扱った絵本は増えているとのこと 外国からイラストレーターがアメリカに来て 出版にチャレンジしてゆくのですね そのための様々な賞が多くあります
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次に4冊の 多様性を扱った絵本をご紹介いただきました:
1. Thany You, OMU! Oge Mora 作/絵
ナイジェリア系米国人の描いた絵本 Omuはナイジェリアの言葉で女王という意味で 祖母をOmuと呼んでいます
色々な材料が混ざり合って よりおいしくなる大鍋のシチューはインクルージョン(包括・包含)の象徴で たくさんの人たちが招かれます
やがてシチューのいい匂いは街にあふれ... 最後はお鍋は空になりますが みんながコミュニティの一員になるという わかちあいのメッセージのラストですね
また コラージュや チャイナマーカー等の様々な画法をご紹介いただきました
日本語版 『ありがとう、アーモ!』は こちら
2. Julian is A Mermaid Jessica Love 作/絵
自分を世界に伝える勇気と 受け入れられる希望がテーマです
NYの地下鉄で 少年Julianは3人の人魚を見かけます 一緒にいたabuelaは
スペイン語で祖母という意味 そこからラテン系の子とわかります
Julianは空想の中で海に潜り 人魚になってゆきます そして 祖母と一緒にConey Island Mermaid Paradeという人魚のパレードに行くのですね
水色のグアッシュ 水彩が淡い色で描かれ 水中で次第に解き放たれ人魚になってゆくシーンが実に美しい絵本でした
2019 Stonewall Book Award 受賞作品
日本語版 『ジュリアンは マーメイド』は こちら
3. BarbedWire Baseball Marissa Moss 作 Yuko Shimuzu 絵
「有刺鉄線野球」 という意味のこの絵本は まだ日本語版はありませんが 銭村ケンイチという実在の野球選手と 日系人の収容所(アリゾナの乾燥地帯にある)の悲惨な歴史を描いています ラストの ホームランが有刺鉄線を超えてゆき 青い空に飛ぶように走り出す選手の姿がとても印象的です
4. How to Solve a Problem: The Rise (and Falls) of a Rock-Climbing Champion
Ashima Shiraishi(白石阿島)作/ Yao Xiao 絵
実在の21才のロッククライマーの物語です 失敗から学べば どんな課題も解決できる というテーマが 実際に彼女が岩から落下したエピソードとともに語られます
4歳で岩登りを始めた主人公が10代で描いた絵本で 考えるプロセスをビジュアル化して描かれています
世界で最も若くてスキルのあるクライマーのひとりである主人公の 誰でも最初から成功はしないというメッセージとともに ガールパワーが炸裂する絵本です 父親もプロの舞踏家とのこと
ご紹介いただいた4冊の絵本
質疑応答に移り 会場からとても心に残る質問がなされました
多様性を扱った絵本が 日本はアメリカよりも まだまだずっと少ないこと
また 障害や病気 LGBT等のテーマの絵本のコンテストは 日本にはまだありませんが アメリカには Schneider Family Book Award そして Stonewall Book Awards というコンテストがあるそうです
私も 海外の絵本の翻訳ボランティアをしている中で 離婚や障害 難民等のテーマの絵本が年々増えてきていることを感じています
日本ではどうなのでしょうか... ためしに「絵本ナビ」で検索してみましたが それほど多くはなかったです😢
次回は チェコです
「世界の書棚から」は こちら